北海道地震から1ヶ月

 
 
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北海道が最大震度7の地震に襲われてから明日で1ヶ月。
41人が亡くなったこの地震は、家屋や道路などインフラの倒壊のみならず、北海道全土でブラックアウトが起き経済へ大打撃となった。そして基幹産業である観光業への風評被害はいまも続いている。

そんな中、北海道胆振地方は今朝も震度5弱の地震に襲われた。

「今も毎日家屋が傾いている」

北海道札幌市清田区
北海道札幌市清田区

筆者は先9月29日、液状化による道路の陥没や家屋倒壊に見舞われた、札幌市清田区里塚を訪れた。
電気や上下水道はほぼ回復したものの、いまも道路は波打ち、数メートルにわたって陥没したままとなっている。いくつかの家屋は土台がむき出しになるか、陥没した穴にむけて傾いていた。
この地区ではいまも地盤沈下が進んでおり、家屋が毎日少しずつ傾いているという。

こうした状況に地区の住民は、口々に不安を訴える。
「地震発生直後は何ともなかったのに、3日くらいたってから『どどん』と家が傾いた。いまも日に日に傾いています。家が壊れたらあきらめもつくけど、土地が沈んだだけで家は何でもない。そうなると一部損壊程度とみなされて、みなし住宅も当らない。怖くてほかの地区に出ようと思ったら自費となるし・・」 

この地区はかつて沢を盛土した住宅地で、地盤が弱く地下水が多いため、液状化を引き起こしやすいという。
札幌市では先月、地震による被害の復旧事業費182億円を盛り込んだ補正予算案を可決した。そのうち液状化や道路陥没などのインフラ復旧費が8割を占めている。しかし1ケ月たったいまでも、液状化に対する抜本的な対策工事は行われていない。

「地質調査は(先月)12日ごろから始まりました。しかしその後はブルーシートを敷いたくらいで何もありません。これから冬が来て雪が降りだすとどんどん状況が悪くなります。早く対策をしてもらわないと困ります」(地区住民)
 

避難所にいながら復興活動に参加する厚真町の人々

北海道 厚真町 9月末の状況
北海道 厚真町 9月末の状況

そして、震度7を観測し、大規模な土砂崩れで36人が犠牲となった厚真町。
いまだ山肌はむき出しのまま、道路は土砂がせり出し一部通行ができなくなっている。一方で厚真町の市街地では、徐々に平常を取り戻しつつある。

厚真町の精肉店「あづま成吉思汗本舗」は地域住民だけでなく、復興支援活動のボランティアが名物ジンギスカンを目当てにひっきりなしに訪れる人気店だ。経営する市原泰成社長は、住民らの地域の復興に向けた取り組みをこう語る。

厚真町で人気の精肉店
厚真町で人気の精肉店

「店は建物の被害がなかったので、平常を取り戻すようにしています。いま町の復興につなげるため、ジャガイモですとか肉ですとか、町の名産品を外に出す計画をしていて、10月にスタートしようと。被害の大きかった農家や移住してきて被災した方々も、包括的に支援できるような組織も作る方向で動いています」

厚真町ではここ数年、積極的に移住の受け入れを行ってきた。この地で新たな生活を始めた住民の中には、地震で家を失った者もいる。しかし彼らは、避難所にいながらもこの復興活動に参加しているという。
今月1日、厚真町では応急の仮設住宅の入居申請受付が始まったが、北海道の冬の訪れは早く厳しい。そのため仮設住宅には、断熱材を厚くし灯油ストーブを設置するという。

厚真町の住宅被害は全壊128棟、半壊221棟に上っている(9月末現在)。

激減する観光客への取り組み

函館市から見える市街地
函館市から見える市街地

震源地から直線距離で150キロ離れた函館市では、道路や建物の損壊こそ無かったものの、2日間のブラックアウトが市民生活を直撃した。
また、風評被害は今も続いており、市の基幹産業である観光業への影響は深刻だ。

まだ人がすくないベイエリア 9月28日撮影
まだ人がすくないベイエリア 9月28日撮影

先月28日、いつもなら外国人観光客で沸く函館山やベイエリアは、平日とはいえ観光客の姿は少ない。
しかし函館では、激減する観光客を取り戻すため、震災直後から様々な取り組みに乗り出していた。

函館市観光部長 大泉潤さん
函館市観光部長 大泉潤さん

俳優大泉洋さんの実兄で、函館市観光部長の大泉潤さんに、話を伺った。
「地震直後から週明けくらいまで、ホテル予約のキャンセルが猛烈に出ました。6~7割のキャンセルがあったと推定されます。その後主要な観光施設で前年並みに戻ったところもありますが、まだまだまだら模様で予断は許さないところです」

今月1日には、国の観光業支援として、宿泊費などを割り引く「北海道ふっこう割」が始まった。来年3月までの半年間、北海道内を訪れる観光客の宿泊費は1泊最大2万円引きとなる。さらにJALやANAも大型の応援キャンペーンを行う。

函館を訪れる外国人観光客(年間50万人)のうち、半分を超えるのが台湾だ。台湾は唯一海外からの直行便があり、リピーターも多いという。
地震から2週間もたたない19日、函館市は台湾を訪問して、動画なども使った函館PRを行った(※)。
そして、こうした取り組みの背中を押したのは、大分県別府市だったという。

「動画の制作者は、別府の観光関係者から『熊本地震の時、別府は風評被害でとても苦労した。北海道もこれからが大変だ。長引かせないためには、素早い対応が大切だ』とアドバイスを受けたそうです。助けてくれる仲間がいたんだなあと、立ち直る力を与えてくれました」

函館では台湾などで得た情報を、「函館だけで持っていてもしょうがない」と、道内の他地域と積極的に共有しているという。
「都市として連携している青森、弘前、八戸や仙台、埼玉といったところが、皆助けてくれるんですよね。『函館が作ったPR動画をうちのサイトに出すから送って』と。大宮駅前の大型ビジョンでも流していただいています。涙が出るくらいありがたいです」

 最後に大泉さんは、こんなメッセージを残した。
「函館はホテルも観光施設も平常通り動いています。これからは紅葉のいい季節、食べ物もおいしくなるので、ぜひお越し頂いて魅力を満喫してほしいです」
北海道の復興を支援するのは、ボランティア活動だけでない。訪れて楽しめばいいのだ。

北海道は、地震にも風評被害にも負けない。

(※)『函館営業中!OPEN HAKODATE』はこちらからご覧になれます。

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。