アフリカ北東部の国スーダンで、国軍と準軍事組織RSFの戦闘が開始されてから2週間以上が経つ。アラブ諸国や欧米諸国、国連などが双方に停戦を呼びかけているものの、戦闘停止は長くは続かず、双方が調停を受け入れる兆しは未だない。

スーダンから退避した日本人とその家族を乗せた自衛隊機(ジブチ・4月24日)
スーダンから退避した日本人とその家族を乗せた自衛隊機(ジブチ・4月24日)
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国際社会がこの戦闘が長く続くと想定していることは、各国が自国の軍隊などを投入してスーダンに駐在する自国民を退避させたことから明らかだ。少し我慢をしていれば戦闘は収まるだろう、もとの日常生活が戻るだろうと楽観するのは難しい。

中国よりも影響力を持つサウジとUAE

スーダンは中東とアフリカの結節点に位置し、歴史的に戦略的要衝であり続けてきた。エジプトやサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)といったアラブ諸国だけでなく、中国やロシアも野心を持ちつつスーダンへの関与を強めてきた。これらの国は今のところ、軍とRSFのどちらを支援するとも宣言せず、中立路線をとり対話と停戦を呼びかける慎重な姿勢を崩していない。

中国は3月、中東で対立してきたサウジとイランの外交関係正常化を仲裁し、これは中国、サウジ、イランの3カ国の「協調的な努力」によって達成された「大きな成果」だとアピールし、中国は「中東においていかなる利己的利益も追求しない」、「中国は、安全と安定の推進者であり、発展と繁栄のパートナーであり、連帯による中東の発展の支援者である」という声明を出した。

スーダンで勃発した紛争を仲裁することができれば、中国はまた大きな成果を上げることができる。しかしそれは、少なくとも現状では現実的ではない。

ヘリの前でポーズをとるRSFの兵士(4月15日に公開) RSFはハルツーム近郊の軍事施設を掌握したと主張
ヘリの前でポーズをとるRSFの兵士(4月15日に公開) RSFはハルツーム近郊の軍事施設を掌握したと主張

というのも第一に、軍にもRSFにも調停を受け入れる気がないからだ。互いが互いを罵倒し、相手を倒すまで戦い続けると宣言、首都ハルツームにある大統領宮殿や空港、軍事施設、国営テレビといった重要拠点の制圧をめぐり戦闘が続いている。

軍はRSFの2倍の規模を持ち、空軍と重火器も擁しているが、RSFの兵士の方が軍よりもよく訓練されており、狙撃能力などにも長け市街戦にも強いとされるため、勝敗は簡単には見通せない。

国軍トップのブルハーン氏
国軍トップのブルハーン氏

第二に、当該紛争の本質は国軍トップのブルハーン氏とRSFトップのムハンマド・ハムダーン・ダグロ氏(通称:ヘメッティ)の権力闘争であるため、国際社会が行使できる力はそもそも限定的だからである。

RSFトップのムハンマド・ハムダーン・ダグロ氏(通称:ヘメッティ)
RSFトップのムハンマド・ハムダーン・ダグロ氏(通称:ヘメッティ)

第三に、中国自体が仲裁を名乗り出ていないからである。すでにさまざまなかたちで双方と接触し調停を試みているアメリカやサウジ、UAE、トルコ、イスラエルと比べても、中国の当該問題への態度は消極的だ。特にサウジとUAEはブルハーン氏とヘメッティ氏の両方と深い関係にあり、中国よりも両者との距離ははるかに近い。

中国は第二の貿易相手国

第四に、中国は確かにスーダンと強い経済関係を持ってはいるが、だからといって両者を調停させるための魅力的な取引材料を持っているかというと疑わしいからである。

現在中国は、スーダンにとって第二の貿易相手国であり、一帯一路のパートナーとして投資や融資も進め、2022年5月の段階で130社以上の中国企業がスーダンで事業を展開していた。中国企業はさまざまなインフラ部門に関与し、請負工事において50%以上の市場シェアを誇っている。両国は2022年11月には約1700万ドル相当の経済・技術協力協定を締結している。

スーダンから退避する中国人(ポートスーダン・4月26日)
スーダンから退避する中国人(ポートスーダン・4月26日)

「経済成長を目指すスーダンという国家」にとって中国は重要だったに違いない。しかし経済成長や国家の安定や国民生活をかなぐり捨てて戦闘に突入した両者にとって、中国の存在が同等の重要性を持つかというと疑わしい。

中国がアフリカを戦略的観点から重視していることは、中国がジブチに海外で最初の軍事基地を作ったことからも明らかである。スーダンについても紅海に港の建設を目指すなど、「野心」を持っているのは間違いない。しかし現状では、中国が仲裁に乗り出し停戦を実現させる公算は低い。

【執筆:麗澤大学客員教授 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。