和歌山県雑賀崎漁港で、応援演説に訪れた岸田総理に爆発物を投げ込み、逮捕された無職・木村隆二容疑者。
現場からは複数のナットも見つかっているが、犯行に使われた爆発物の特徴と殺傷能力について、銃器専門家の津田哲也さんに聞いた。
15センチの「パイプ爆弾」
ーー爆発物はどういった種類?
今回使用された爆弾はいわゆる「パイプ爆弾」と呼ばれるものです。
爆薬にあたる火薬を入れるケースが“パイプ状”のものだったため、そう呼ばれます。
爆弾の中心部分がパイプで、両側を塞いだ形になっていました。

ーー15センチの鉄パイプが使用されたが?
大きさとしては、携帯に便利で、そこそこ威力のある大きさです。
数100グラムの火薬を詰めることが可能だったと思いますが、今回は満タンではなかったと思います。満タンだったらもっと爆発力が強かったはずです。
煙の状態や燃焼後の臭いから「黒色火薬」が使用されたと推測できますが、もし黒色火薬が満タンに詰まっていたらもっと白煙が大きく上がります。
黒色火薬は花火に使われますが、花火後の炭が混ざったような独特な臭いがしたということなので、間違いなく黒色火薬が使われたと考えられます。

ーー他の火薬に比べて威力は?
黒色火薬は何百年の歴史がある古い火薬なので威力は小さいです。
ただ、材料が簡単に入手できて、素人でも調合できることから使用されたと考えられます。
聴衆に当たらず“頭上を通過”は奇跡
筒状の爆発物は地面に投げられた後、約50秒後に大きな破裂音と白煙をあげて爆発。その後、200人の聴衆の頭上を越えて飛び、倉庫の壁を直撃した可能性がある。
壁の痕跡を見た津田氏は、「爆弾が聴衆に当たらず頭の上を通過したのは奇跡に近い」と指摘する。

ーー40メートル離れた所で破片が見つかったが?
爆弾は燃焼ガスによって爆発しますが、今回は片方の塞ぎが外れて、そこから圧力が逃げて、ロケット弾のように飛んで行ったと考えられます。
もし密閉度が高い一体型だったら、全体が破裂していたかもしれません。
爆弾はどこに飛ぶか狙いを定めるわけにはいきませんから、偶然人に当たらない角度、高さで聴衆の頭の上を飛んで行ったのは奇跡に近いと思います。
飛んでいったパイプが人体に直撃していたら、重傷、場合によっては、死亡していた可能性もあります。

ーー容疑者の爆弾知識や殺意は?
爆弾は、火薬され調合できればどんな容器を使っても製造できます。
例えば1960年代から70年代にかけて盛んだった学生運動の過激派の活動でも、缶やパイプを使っていました。
今回の爆弾も密閉度が高く、本体そのものが爆発して破片が飛び散っていたら殺傷力はもっと高くなり、被害は大きくなっていたと思います。
不幸中の幸いで、被害が出にくい状態で爆発したということです。
爆発物は「銃弾に近い威力」
一方、爆発後の現場には、複数のナットが散らばっていたといい、もしナットが人に命中していたら「銃弾に近い威力」があったと津田氏は話す。
ーー現場にナットが落ちていたが?
爆弾は、火薬と一緒に金属片が飛散することによって殺傷力が生じます。
故意に爆弾の中に金属片を仕込むのはよくある手段で、今回発見されたナットがもしそれを目的としたものならば、人に命中していたら銃弾と同じような結果になります。
ナットは本体を構成していたパーツかもしれませんが、もし破片が飛散して人体に直撃していたら負傷者は確実に出ていたと考えられます。

ーー1本目を投げた後、2本目に火を付けようとしていたが?
1発目が不発だったため、2本目は確実な手段で点火して投げようと思ったのかもしれません。
殺意についてはわかりませんが、複数の爆発物を所持していたようなので、確実に犯行を実行したいという強い意思を感じます。