“炎上”の正体を見極めるアプリ

日常の中のちょっとした発見や、なんとなく目についた光景が思いがけない“バズ”を呼び、一躍有名人になってしまった…という経験が誰にでも起こりうるSNS。
もちろん、平和的な“バズ”なら大歓迎だろうが、中には悪意を持った拡散をされてしまい、そのせいで攻撃的なリプライが寄せられることもあるだろう。

そんな時、あまりにリプライが多いと社会全体から非難されているように感じてしまうかもしれないが、ちょっと待ってほしい。「炎上に加担する人は1.5%程度しかいない」という研究もあるように炎上の正体は実際は本人が抱くイメージとは違うようだ。

そんな中登場したのが「リプライユーザ可視化システム」

このアプリは、自分にリプライを送ってくるアカウントがどのようなアカウントなのかを解析・可視化してくれるというもので、「炎上時にTwitterで多くの人から攻撃されているように見えても、実は全体から見ると少数」ということが分かるという。

このアプリで分析できるのは、

・どのくらいの数のリプライが送られてきたか
・全Twitterユーザーのうち何%がリプライを送ってきたか
・リプライを行ったユーザの偏り


などの他、リプライを送ってきたアカウントについても

・フォロー・フォロワー数
・どれだけの期間Twitterを使っているか
・どの時間帯にリプライを送ってきたのか


などのデータを取得できる。

数十万のユーザーからフォローされているアカウントの分析結果

このアプリを使って、数十万のフォロワーを持つあるTwitterアカウントが炎上したケースを分析してみると、7日間で2595アカウントから3374件、平均で1日約440件、昼12時や夜18時~24時に多くリプライが寄せられている。

青いグラフがリプライを送ってきたアカウントのフォロワー数。フォロワー数0のアカウントもある

3000件ものコメントが全て自分に向けられた誹謗中傷だった場合、多くの人は動揺してしまうはず。しかし、リプライを多く送ってきたアカウントをさらに分析してみると、意外なことも見えてくる。

たとえば、最も多くのリプライを送ってきたアカウントを見てみると、わずか12秒ほどの間隔をあけて65件ものリプライを送ってきていることがわかる。

その65件の内容もほとんどが意味のない文字列だったりと、いたずら目的の可能性があるアカウントであることが確認できる。

さらに、別の上位アカウントには、フォロー・フォロワー数が0のものも。
このアカウントの総ツイート数とリプライ数を分析してみると、この場合は総ツイート数9のうちリプライ数が8件となっている。

多くのリプライを送ってきているにも関わらずフォロー・フォロワー数が極端に少なかったり、利用日数が短いアカウントは、いわゆる「捨てアカ(=捨てアカウント)」の可能性がある。
このような「捨てアカ」には、攻撃的なリプライを送ることそのものを目的としたものも多く、この場合はそれに当てはまりそうだ。


ちなみに、リプライ数が多かった上位10件のアカウントからの総リプライ数は210件。
中にはきちんとした意見を送っているアカウントも存在したが、その半数以上が「コピペ」を利用した同じ内容を連投していたりということが分かった。

約2500ものアカウントの反応・3000件のコメントは脅威に感じるが、実はその中には“バズった”アカウントを狙う「捨てアカ」や無意味な連投コメントなども混ざっており、実際に自分の投稿内容を読みこんで攻撃をしている、あるいは“正当な批判”をしている人は思っているよりも少ない、ということがわかるだろう。


このアプリを開発したのは、東京大学大学院准教授で計算社会科学を研究している鳥海不二夫(@toritorix)さん。

誹謗中傷のコメントが多く寄せられているときには「全世界から攻撃されている…」という感覚になってしまうものだが、アプリの説明の中で

「たくさんの人に攻撃を受けているように見えても、その実態は数十人から数百人程度」
「そのうちの多くがせいぜい1回か2回しかリプライを送って来ておらず、実際にはそれほどあなたには興味を持っていない人たちと言える」
「リプライを送ってこない人たちは炎上やバズりに興味すら持っていない可能性が高い」

と語っている。

そうはいっても、実際にネット上で横行する誹謗中傷により傷付く人は多い。
では、我々はこの問題にどのように向き合っていけばいいのだろうか。鳥海氏にお話を伺った。

誹謗中傷を受ける人が冷静に判断できるようになるのでは

――このアプリを作ったきっかけは?

基本的には、木村花さんの事件を受けて、です。
誹謗中傷などに加担する人は1.5%程度しかいないという研究が存在するため、それを可視化することで、誹謗中傷を受ける人が冷静に判断できるようになるのではないかと思って作成しました。


――実際にアプリを使ってみて、どんな発見があった?

安倍首相と蓮舫氏へのリプライを分析しましたが、どちらにもフォロワー数が0だったり、ほとんどそれぞれの方へのリプライしかないようなアカウントが多数見つかった点は興味深かったです。政治的な批判が左右どちらの立場でも似たようなことをやっていて不毛だなとは思いました。
非難専用のアカウントを作っている人はいるようで、そのようなアカウントからの批判は真に受ける必要はないのではないかと思われます。

“炎上”によって世界中から非難されているような感覚になってしまう(イメージ)

アプリの土台となったのは、2015年に発表された国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授の「炎上に加担する人は1.5%程度しかいない」という論文。

たくさんに見える誹謗中傷が実はごくわずかな人々の手によるものだということを可視化するため、このアプリを開発したという。

「客観的なデータを見て視界広げて」

――ネット上の誹謗中傷が絶えない現状、どう捉えている?

ソーシャルメディアのようなシステムがあれば、誹謗中傷が発生するのはある意味当然のことだと思います。自身の思いを相手にぶつけること自体を禁止するというのも、言論の自由という観点から、また健全ではないように思います。

事故をゼロにはできないが、事故が起きても怪我人が出ないようにすることと、事故を起こさないように気を付けることはできると思います。それと同じで、炎上しても十分にケアされること、そして悪質な炎上をさせた人は罰せられるということが十分に認知されること、そして誹謗中傷をしている側が、自分のやっていることが自分自身にとってもリスクがあることであると認識することは重要かなと思います。


――今後「リプライユーザ可視化システム」がどのように利用されることを期待する?

できれば、だれもこんなシステムを必要としないのがベストです。しかし、万が一のときは客観的なデータを見ることで視界を広げて、よりよい判断ができるようになってもらえればよいと思っています。
いわれのない誹謗中傷ばかりしてくる人がいたら、それはブロックすべきですし、1回だけ誹謗中傷を書いてくる人は、明日になれば別の楽しいことを見つける人たちですので無視した方がよいです。

ほとんどの炎上は3日で収束するというデータもあります。ですので、いわれのない誹謗中傷をされたら、本システムで客観的データを見て、必要ならばブロック機能を使った後3日ほどソーシャルメディアから離れてしまえば、大体は解決するのではないかなと思います。

ただし、システムを見れば必ず解決するものでもありませんので、最終的には必要に応じて専門家にご相談いただいたほうが良いと思います。

 

ちなみに、このアプリではリプライの分析のほか、日本全国のtwitterユーザーの何パーセントがリプライを送っているかなどを分析することも可能。
例に挙げたアカウントでは、リプライを送ってきたアカウントは日本の全twitterユーザーのわずか0.00577%、日本人口と比べると0.00216%という数値が出ている。

日本の人口との比較は少々スケールが大きすぎる気もするが、一度“炎上”したことで「日本中に知られてしまっているのでは…」と気にしてしまう人にとっては、安心できる指標の一つとなりそうだ。
鳥海氏はこの機能について「日本のついったらー総数と比較したら、どんな炎上も大したことないですね」と話している。


ネット上で誹謗中傷をした投稿者の情報開示など、対策が急がれている現在。
悪意あるコメントを無くすことは難しいかもしれないが、もしそのような被害に遭ってしまったときは、いたずら目的や“炎上”に参加したいだけのアカウントがあることを確認し、冷静に対処する手助けとなりそうなアプリだ。
 

(「リプライユーザ可視化システム」はこちら

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