いわゆる袴田事件で、東京高裁がやり直しを認める決定を出して4月13日で1カ月。再審に向けた協議で、検察が求めたのは3カ月という「時間の猶予」、初公判の時期は見通せない状態だ。「弟の真の自由」を願う姉は、弟を逮捕した警察にいま何を思うのか問うと「恨みつらみを言っても始まらない」と前だけを向いていた。
袴田事件の再審開始が決定

「再審開始・再審開始と書かれた旗が広げられました。」
2023年3月13」日、いわゆる袴田事件について東京高裁は裁判のやり直しを認める決定を出した。

「特別抗告断念という知らせが来ました」
1週間後、検察は、最高裁への特別抗告を断念。静岡地裁で、やり直しの裁判が開かれることが正式に決まった。
変わらない日常を過ごす袴田さん

死刑判決を受け、およそ48年収監された袴田巖さん(87)。再審開始決定が出てからの1カ月間もこれまでと変わらず、散歩に出かけ、穏やかな日々を過ごしてきた。

姉・ひで子さん:
早く再審開始になって、巖が死刑囚でなくなってくれれば良いなと思っているよ。まあそれだけですよね

事件から57年目、やり直しの裁判で無罪の公算が大きくなっている。
再審・裁判のやり直しに向け協議が進む一方、事件現場周辺に住む人たちは複雑な思いを抱えていた。
地元に広がる困惑 弁護士は警察を批判

1966年、当時の清水市で4人が殺害され、現金が奪われ、放火された大事件。一体だれが起こしたというのだろうか。
地元の住民からは「袴田さんが無実なら、犯人がまだいるっていうことですからね。そう思うとなおさら複雑です」と困惑する声もあがっている。

えん罪が確定した場合、袴田さんを犯人として逮捕し、死刑囚とした警察や検察の捜査は何だったのか、今後 問われることになる。
弁護団の小川弁護士は、当時の捜査を批判する。

袴田事件弁護団・小川 秀世 事務局長:
警察はもう最初から袴田さんを犯人に仕立てようという、そういう意図があったと思いますね
過酷な取り調べ
開示された録音テープには当時の取り調べの音声が残されていた。

袴田さん:
俺は潔白だ
捜査員:
潔白だって、言ったってだな

袴田さん:
お宅が潔白じゃねえって言うのだったら、ちゃんと出る所に出て裁いてもらいましょう

袴田さん:
もう不愉快だよ

袴田さん:
本当に俺の一生をめちゃくちゃにしたのは、あんたらだよ

袴田さん:
一生忘れんぞ、よくも あんた方こそ人殺しだよ

捜査員:
袴田、認めろ。認めないのか、どっちだ

捜査員:
被害者に対して申し訳ないという気持ち持っているのか、袴田

逮捕からの23日間で、連日10時間を超える取り調べが行われ、室内で用を足すよう便器も持ち込まれた。

当時の捜査幹部が集まった会議の記録には「取調官は、確固たる信念をもって、犯人は袴田以外にはない、犯人は袴田に絶対間違いないということを、袴田に強く印象付けることに努める」と記されている。
当時の捜査ついて思うことは―。姉・ひで子さんに質問した。
姉が語る警察への思い

姉・ひで子さん:
そんなこと思ったって仕方がない。再審開始になりはしない。恨みつらみを言ってみたって、あいつがあーだ、こーだ言ってみたって始まらんよ。だからそんなことは問題にしていない。いろいろ書類を見るとひどい調べ方をしたって書いてあるけど、だけどそんなことね、今さら言ってもはじまらん。警察は警察で言い分があってやったことでしょうから

事件から1年2カ月後に見つかり、有罪の決め手とされた犯行着衣。いま裁判所から、捜査機関による「ねつ造」の可能性が指摘されている。

姉・ひで子さん:
ねつ造も上の人は知らんと思う、下の役人・警察が悪知恵を働かせてやったと思うよ。それをわかってくれて、裁判所もねつ造としっかり謳ってくれているでしょ。巖の言っている通りなのよ。本人が一番よくわかっている

まもなく始まるやり直しの裁判。袴田さんの無罪が確定する日は訪れても、それ以上 事件の真相が明らかになる日が訪ることはない。

袴田事件弁護団・小川 秀世 事務局長:
もう殺人罪でも強盗殺人も、公訴時効が完成しています。その意味では罰することができない人を捜査することもできないです。警察にはものすごく反省してもらわないと困ります
願いはただ一つ「もうひと踏ん張り」

ひで子さんにとって大切なのは、弟が訴えた身の潔白。捜査員にも裁判所にも認められなかった主張を、受け入れて貰うだけだ。

姉・ひで子さん:
私たちは犯人さがしをしているわけじゃない。巖が無実であることを証明している。もうひと踏ん張り、もうひと踏ん張り頑張っていこうと思う

三者協議は5月と6月にも予定されているが、袴田さんはすでに87歳。早い対応が求められる。
(テレビ静岡)