「空振り三振はいいが見逃しはダメ」

13日早朝に北朝鮮が日本海に向けて発射したミサイルについて労働新聞は14日、固体燃料式の新型ICBM「火星18型」であることを明らかにした。固体燃料式のICBMを北朝鮮が発射したのは初めてだ。

14日付「労働新聞」
14日付「労働新聞」
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日本政府は当初北海道の陸地に落下する恐れがあるとする「Jアラート」を発令したが、20分後に「落下の可能性はなくなった」と訂正。これに対して野党だけでなく自民党からも「オオカミ少年だ」という批判の声が上がったのはちょっとピントがずれていると思う。

ミサイルがレーダーから消失したのは高い確度で発射する「ロフテッド軌道」だったからとみられるが、韓国政府はその後も追跡していたとの情報もあり、今後は韓国との連携を含め監視体制を強化しなければならない。

ただ福田充・日大教授が「空振り三振はいいが見逃し三振はしてはいけないというのが危機管理の鉄則」と14日付の産経新聞に語っているのは正しい。北朝鮮だけでなく中国も核ミサイル技術の開発を加速させており、国民は強い危機感を持つべきだろう。

実験ではなく攻撃ではないのか

僕が最も驚いたのは自衛隊制服組トップの吉田圭秀・統合幕僚長が会見で、今回のミサイルについて、日本の領域内への弾道ミサイル落下が予測された戦後初めてのケースだったことを明らかにしたことだ。

自衛隊 吉田圭秀統合幕僚長(13日・定例会見)
自衛隊 吉田圭秀統合幕僚長(13日・定例会見)

これは日本に対する攻撃ではないのか。北朝鮮は「発射実験」と言っているが、当初は日本の領域内、しかも北海道の陸地に着弾するという予測結果が出たのだ。自民党の小野寺五典・安保調査会長は党の会合で「実際に対抗しなければならなかったかも含めて検証すべきだ」と述べた。

つまり「オオカミ少年だ」などと騒いでる場合ではなく、北朝鮮のミサイルが北海道に着弾するいう予測をしたのなら、それは日本への攻撃と判断したのか、そして迎撃準備をしたのかしなかったのか、そのあたりを検証してほしい。

党の会合で稲田朋美・元防衛相が「ミサイルをミサイルで撃ち落とす防衛のみならず、反撃能力を持っていないと、結局日本を守ることができない」と述べたのはまさに正論だと思う。

慎太郎の「鯉口を切れ!」

岸田文雄首相は昨年、防衛力強化のための国家安全保障戦略を閣議決定し、反撃能力の保有を明記した。日本が保有しようとしている反撃能力は、侵攻してくる敵のミサイル射程圏外から反撃できる長射程のスタンドオフミサイルだ。

今ある「12式地対艦誘導弾」の射程を中国大陸まで届く1000キロ以上に伸ばす改良を行うが、改良に時間がかかるのでそれまでの間は、米国から巡航ミサイルトマホークを400発購入し、2026年にも海上自衛隊のイージス艦に配備する。

日本は何もミサイルをバンバン撃ちますと言っているわけではない。ならず者を相手に丸腰でいてはダメだということだ。

故・石原慎太郎元東京都知事
故・石原慎太郎元東京都知事

亡くなった石原慎太郎元東京都知事はよく「日本は鯉口(こいくち)を切れ!」と言っていた。「鯉口を切る」とは鞘(さや)に収まった刀をすぐに抜けるようにしておく事を言う。時代劇などに「おぬし、鯉口を切ったな」などと出てくる。刀を差し、時に鯉口を切れば、ならず者は寄って来ない。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。