「静岡市は政令市の失敗事例」、「政令市を返還してもらいたい」。知事の過激な発言もあり“不仲”と言われてきた静岡市長が、退任を前に知事と面会した。面会後に語った知事に対する感想は、長年の“口撃”を思い返しているようだった。2人をよく知る元市長が関係性を語った。
「(知事は)言葉がすぎることがある」田辺市長

2023年4月4日、 4年ぶりに川勝知事と1対1で面会した静岡市の田辺市長。12日に退任する田辺市長があいさつに訪れた形だ。知事は任期12年の労をねぎらい、田辺市長は「プロ野球誘致への協力」「リニアの課題解決の加速化」などをお願いした。
県のトップに立つ知事と、政令市をあずかる静岡市長との間で続いてきた深い確執。
30分の面会は距離を縮める機会にはならなかった。

川勝平太知事:
いろいろとおっしゃりたいことがあって、それをお聞きすることができたということ。いま「立つ鳥 跡を濁さず」ということで、一生懸命に仕事をされているのは良く存じ上げている

静岡市・田辺信宏市長:
(Q.知事との関係については雪解けになったと思いますか?)ハハハッ、申し上げたいことは申し上げましたので。これまでの知事の言動、知事はとても知識量が多くて、例えばスピーチの中で和歌をそらんじたりしてすごいなと思いましたが、時々 言葉がすぎることがあります。
言葉は武器にもなるし、凶器にもなる。10年後に歴史の評価に耐えうるかどうかというのが、田辺市政の責任、あるいは川勝県政の責任というふうに思っています
「非常に関係が悪かった」2人を知る元市長

町議・県議を経て、3期12年にわたり静岡県牧之原市の市長をつとめた西原茂樹氏に聞いた。川勝知事も田辺市長もよく知る人だ。

― 田辺市長と川勝知事の関係性を市長時代にどう見ていたか?
西原茂樹氏(元 牧之原市長):
田辺市長が当選した当初は同じ早稲田大学の先輩と後輩ということで仲が良かったのだが、その後、「政令市失敗」とかいろいろな話の中で離れていってしまって、非常に関係が悪かったのは事実だ。
(田辺市長は「言葉は武器にも凶器にもなる」と言っていたが)言葉は人を喜ばせたり幸せにする側面もあるが、田辺市長にとって川勝知事の言葉はそうではなかった。
もっと早く面会を何年も前からやっていれば良かったのにと、誰もが思っている。
激しい言葉のやりとり…確執の軌跡
最初は関係が良好だった2人の間の亀裂は、2014年から見え始める

川勝平太知事:
政令指定都市を返還してもらいたいぐらいです。その資格があるのか

静岡市・田辺信宏市長:
トップ同士のコミュニケーションは、すごく心がけていかないといけない
2015年には川勝知事は、「県都構想」を打ち出した。県と静岡市の二重行政を解消するため、静岡市を廃止して市内の3つの区を東京のように自治権のある特別区にする構想だ。

川勝知事:
キミのためでもない。私のためでもない
田辺市長:
キミキミとおっしゃいますけど、静岡市長です。聞いてください、聞いてください。私はずっと粘り強く知事の言葉に耳を傾けました。20分位だったでしょうか。あなたは私が話し始めて3分と経たないうちに口をはさむ。もっと私の、市民の声をよく聞いてください

川勝知事:
政令指定都市と県の二重行政を、これから静岡型でやっていくべき時がきた

田辺市長:
カウンターパートナーとしての相方の私が、市が納得していないのに、そういうことをするのは順序が違うのでは
2016年 知事と静岡市長と浜松市長が集う会談でも、2人は火花を散らした。浜松市も静岡市と同じ政令市だ。

川勝知事:
静岡市は、私は政令指定都市としては失敗事例だったと

田辺市長:
この公の席で失敗と断じた。これは断じて看過できません。静岡市政に口出しをしすぎているのではないでしょうか
静岡市が政令市に指定された2005年の人口は約72万人だったが、2023年3月現在は約68万人で、全国の20の政令市の中で最も少ない。
「連携がとれていたら、もっといろいろなことが」
― ここまでバトルが激しくなると、会いたくないという気持ちになるのでは?

西原茂樹氏(元牧之原市長):
それはそうだが、まず人間関係がないと話は前に進まない。その前段のところで、お互いに相手を認め合うところがなかったというように思える。
首長どおしで反目していたりすると、それによって非常に損失が大きい。川勝知事は浜松市長とは非常に連携がとれている。田辺市長とも連携がとれていたら、もっといろいろなことが進んでいたと思う
― 知事と市長の間で激しい言い争いもあったが、トップとしての品格や言葉選びは適切だったのか?
西原茂樹氏:
マスコミも「キミ、キミ」や「携帯電話」などにとびついて具体的な内容や課題にもっていけなかった。これは2人の問題ではなく、マスコミや周辺の議会も含めて、次は反省してうまくやってほしいと思う

― 隣の愛知県の大村知事と名古屋市の河村市長も不仲と言われている。トップの仲が良いか悪いかで市民への影響はあるのか、あるとしたらどんな所に出てくるか?
西原茂樹氏:
大村知事も河村市長も政治的には反目しているが、それで市民に影響がでないようにしている。水泳場の移転問題でも知事と市長はタッグを組んでいる。政治的には反目していても、大人の判断で、県民・市民が直接 不利益を被らないようにすべきだ。
特に予算は国に要望してつけてもらうものなので、知事がトップに立って(自治体の)要望を国に伝えてほしいと思うが、そこが今ぎくしゃくしている

静岡県知事と、県庁所在地で政令市の静岡市の市長。
良好な関係を、静岡市民はもちろん、静岡県民全体が望んでいるだろう。
次の静岡市長とは、心の底から握手ができる関係を築けるのだろうか。
(テレビ静岡)