将来への不安や悩みから、「このままでいいのだろうか…」とモヤモヤを抱えている人は多いかもしれない。

国際コーチング連盟のライフコーチで、BYBSコーチング代表のボーク重子さんは、先行きが見えにくい激動の時代だからこそ、数値化されない能力である「非認知能力」が大切だと語る。

近著、『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)では、その「非認知能力」を自らの武器にするためのスキルの取得法が記されている。

なぜ今「非認知能力」が必要なのか、身につけ方も合わせて、ボークさんが解説する。

今、最も必要とされるリスキリング

最近リリースされたChatGPT4(言語に強いAI)をご覧になったことはありますか?

人間の言葉を理解して文章を作ることができるのですが、恐ろしいスピードでAIが人間化しているのが見て取れます。

人間レベルのパフォーマンスのエビデンスとして司法試験の模試で上位10%のスコアを叩き出したり、画像を入力するとそれに対応した回答をしたりできちゃうのですから。

2049年にシンギュラリティーが来るとか来ないとか言われてきましたが、もっと早い時期に本当に来るのではないかと思わせるテクノロジーの進化やリサーチ結果を見ない日はありません。

まさに3年先の予測がつかない、そんな前例も正解もない激変の時代に私たちは生きています。だからでしょう、最近よく聞くのが「リスキリング」という言葉です。

2021年に経済産業省が発表した資料では「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。

「非認知能力」を身につけることもリスキリング(画像:イメージ)
「非認知能力」を身につけることもリスキリング(画像:イメージ)
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つまり、これまでのスキルではもう間に合わないから、新しいスキルを身につけましょう、ということです。そこでIT関係のスキルや、人を相手にする仕事関連の資格習得が人気となっているのが現状。

ですが私が提案するリスキリングは、大人になった私たちが「非認知能力」を身につけることです。

ITのスキルを身につけようが新しい資格を取得しようが、激変の時代では一時的なことです。これからは何が起こっても自分に価値を認め、主体性を発揮し、失敗を恐れずに行動し、柔軟に対応し、問題解決を図り、果敢に挑戦し、自分をアップデートし続けていくことが求められます。

そんな自分になるために必要なのが「非認知能力」なのです。

だけど今大人になってしまっている人は「非認知能力が重要だよね」と言われる前の世代です。だからこそ必須のリスキリングなのです。

非認知能力とは何か?

非認知能力とは2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン博士の研究で「人生の幸せと成功に大きく寄与する」と言われ注目を集めた能力で、点数や偏差値のように数値化されない能力の総称です。

そこには自己肯定感・自信・自己効力感・自制心・主体性・柔軟性・創造力・想像力・楽観性・回復力・やり抜く力・好奇心・コミュニケーション力・共感力・協働力・社会性などが含まれます。

欧米では20年前からすでに非認知能力を育む教育(社会情緒的教育SEL:Social Emotional Learning)が進んでいて、グローバル社会では基礎学力+非認知能力(SEL)の育成が常識となりつつあります。アメリカではすでに全米の公立校でSELが導入されています。

教育の場でも非認知能力の育成は加速している(画像:イメージ)
教育の場でも非認知能力の育成は加速している(画像:イメージ)

グローバル化・多様化・AI化が加速する激変の時代には、これまでの認知能力だけでは人生を切り拓けないという危機感と現実が、非認知能力の教育現場での育成を加速させているのです。

近年OECDには世界各国から非認知能力の育成を取り入れた教育は「学力向上」「幸福度向上」「生きる力の向上」に役立つというエビデンスが多数報告されています。日本でも2020年の教育改革で「認知+非認知能力」の育成に対応し始めました。

生きる力や幸福度の向上のために「非認知能力」を養うことは有効であるというエビデンスが多数ある今、子ども時代に非認知能力を育む環境に置かれなかった私たちこそ、この能力を身につける必要があるのではないでしょうか?

何しろ激変の時代を生き抜くことには変わりはないのですから。

リスキリングで「非認知能力」を高めると可能になること

ちょっとこんな光景を想像してみてください。

ここに同じ中学・高校に通い一緒に英語の勉強をしたA子さんとB子さんがいます。

A子さんはこんな人です。

・英語を話すなんて無理、自信ないと思うから話さない(過小評価)
・そもそも英語を話す機会がないから話せない(指示待ち)
・自分の意見がないから話せない(他人軸)
・失敗するのが怖いから話さない(低い自己効力感)

一方のB子さんはこんな人です。

・下手でいいから英語を話してみたい(好奇心)
・機会がないなら自ら英語を話す機会を作る(主体性・創造力)
・伝えたい自分の意見を持っている(自分軸)
・発音が下手と言われても自分はダメと思わない(自己肯定感)
・伝わらないならどうすれば伝わるか考えればいい(自己効力感・柔軟性・楽観性)
・相手の考えを知りたい(共感力・社会性)

同様の認知能力を持つ2人の違いはなんでしょうか?

それは非認知能力が育まれているか否か、です。

そして私たち大人は往々にしてA子さんのような思考と行動を取りがちです。

それはなぜか?非認知能力が育まれない環境に置かれてきたからです。

「あなたのため」「こうあるべき」などの声かけは非認知能力を育めない(画像:イメージ)
「あなたのため」「こうあるべき」などの声かけは非認知能力を育めない(画像:イメージ)

前回の記事でも話しましたが、私たちの多くは非認知能力が育まれない環境で育ってきています。

・「あなたのためを思って言っているのよ」他人軸を生きる
・「女の子・男の子はこうあるべき」他人軸を生きる
・「言われたことを言われたようにやる」指示待ち
・「口答えするな!」と言われないように意見を持たないようになる
・「目立たない・失敗しない・主張しない」できない・やらない自分を作ることで生まれる低い自己効力感
・「良い成績・良い大学・良い就職」比較で価値を決めることで低くなる自己肯定感
・「他者に勝つのが幸せと成功」結果だけをみて価値を決めることで少なくなる自己を認める機会

ですが今、教育は明らかに変わってきています。

SELでは自己肯定感をはじめとする自己認知や自己受容、目標達成や責任ある行動のための自己管理、他者理解、良好な人間関係、そしてコミュニティーの役立つ一員となるための社会認知など5つの要素を育んでいきます。

そこで重要視されることはこんなことです。

・自分、自分という個性を大切にする
・やりたいという主体性や探究心を大切にする
・失敗できる環境の中でどんどん行動(失敗)して学んでいく
・学力以外で語れる自分を作る
・強みを見つけ研ぎ澄ます
・比較で勝つのではなく自分にとっての成功や幸せを見つける
・社会の役立つ一員となるために自分にできることは何かを考える

大人になった私たちとは教育も子育ても軸が変わってきているのです。そうしなければ激変の時代、幸せな人生を作っていくことは難しいからです。

どうかな?「非認知能力」というリスキリングに興味が湧いてきましたか?

非認知能力を育む第一歩は自己肯定感

そんなあなたのために、今すぐ、誰でも、非認知能力を高める方法を共有したいと思います。

非認知能力を高めるために最も重要なのは、まずは自己肯定感を育むことです。自己肯定感とは自分には無条件に価値があると思える感情、良いところもダメなところもある自分をありのままに受け入れ大切にする感情です。

日本人の自己肯定感は低いという調査結果がいろんなところで出ています。それには上記で列挙した従来の子育てや教育の軸が関係しています。

そんな従来の環境では自分という個性を認めることも、失敗を恐れずに行動することも、主体的であることも、他者と自分を比較しないことも難しくなります。ですがこれが私たちの多くが育ってきた環境なのです。

だから、もし「自己肯定感が低いなあ」と思ったら心配しないで大丈夫。それは環境の産物。だったらそれとは真逆の環境を作っていけばいいだけです。

まずは自分の心の中にそんな環境を作っていきましょう。ではどうするか?

たったひとつの新習慣から始める「非認知能力」リスキリング

寝る前に「今日も頑張ったね」と優しい言葉を自分にかけてあげましょう。たったそれだけ?と思うかもしれません。でもそこにはものすごくたくさんのことが詰まっています。

自分を大切にする気持ち、他者の評価に左右されずに自分に価値を認める気持ち、行動した自分を認める気持ち、行動の結果にかかわらずそのプロセスを認める気持ち、今日も目を覚まして行動した自分に感謝する気持ち。

夜寝る前に「今日も頑張ったね」と自分に言ってみよう(画像:イメージ)
夜寝る前に「今日も頑張ったね」と自分に言ってみよう(画像:イメージ)

自己肯定感は自分という存在を認め、価値を認め、個性を認め、行動を認めることで高めていきます。「今日も頑張ったね」の一言はその全てを高める魔法の言葉なのです。

まずはそこから始める。どんな時も大切に思える自分だからこそ自分の意見を持つことが怖くなくなり、やりたいことをやってみようと思え、失敗しても自分を責める代わりに柔軟に問題解決しようとし、やり抜く力を発揮し、できなくてもがいている人を見たら見下す代わりに共感することができるようになるのです。

こんな自分だったらこれからどんなリスキリングを迫られようと、ドーンと構えて挑戦していける気がしませんか?

だからこそどんな時でも「自分には無条件に価値がある」と思える自分を作る環境をまずは自分の心の中に作る。

まずはそこから始める

自己肯定感に始まり、次々といろんな非認知能力を高めていってくださいね。

直近で私は、“非認知能力に格差があってはいけない”という考えから、学習教室を全国展開している学研エデュケーショナルのフランチャイズオーナー向けにプログラムを制作・監修しました。教室で指導にあたるフランチャイズオーナーが「非認知能力」を身につけることで、子どもたちがそれらを育む場にもつながると考えています。

「人生100年時代を自分らしく最高に幸せに生きていくために」

まずはそこからです。自分が身につけることで家庭、親兄弟姉妹、友人、知り合い、仕事関係に波及していく。させていく。ではどうやって?

それについてはまた別の機会に。

Be your best self, for yourself, for the others and for the society.

「今日も頑張ったね」、そんなあなたを応援しています。心から。

ボーク重子

『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティーワン)
ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。