変化の激しい時代の中で、自分はこのままでいいのだろうか、と自身の将来やキャリアに不安を覚えている人もいるだろう。

そんな時代に必要とされるのが「非認知能力」だと訴えるのは、国際コーチング連盟のライフコーチで、BYBSコーチング代表のボーク重子さん。この非認知能力は生きる力や人間力とも言える。

近著、『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)では、「非認知能力」を自らの武器とするためのスキル取得法が記されている。

非認知能力の第一歩は自己肯定感を高めること。そして、「できる」という自信を持つための「成功体質」も重要になる。

非認知能力は「人間力」

「非認知能力」はどんなときも自分のキャリアを切り拓ける人たちが使っている武器です。

それには、自己肯定感、自制心、主体性、柔軟性、創造力、想像力、楽観性、回復力、やり抜く力、好奇心などがあります。

従来のテストの点数など目に見える能力とは真逆の目に見えない能力で、「生きる力」とも言えますし、「人間力」と言ってもいいでしょう。

今回は「できる」という自己効力感と、失敗を恐れない自己信頼感が基礎になる「成功体質」に注目していきます。

この本題に入る前に、まずは思考のくせを見直してみましょう。

“思考のくせ”が自分自身を止めていることも…(画像:イメージ)
“思考のくせ”が自分自身を止めていることも…(画像:イメージ)
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よく講演会で「絶対に失敗しないとしたら何をしたい?」と聞くと、驚くほどたくさんのワクワクする答えが返ってきます。次に、「そんな人生を手に入れましょう」と言うと、「無理…」「自信がない…」と、みなさんは考えます。

私もずっと、そんな自分を生きてきました。

30代でアメリカに移住したときも、「私にギャラリーなんて開けるわけがない」とやる前からあきらめていました。

古い武器で育ってしまった「思考のくせ」が、私を止めていたのです。

半分の水が入ったコップがあったら?

非認知能力はこの思考と行動(スキル)の書き換えをすることから始まります。「視点を変える・増やす」ことがコーチングの基本です。

例えば、半分水の入ったコップがあったとします。「半分しかない」「半分ある」、どちらを思いますか。

水の入ったコップに何を思う?(画像:イメージ)
水の入ったコップに何を思う?(画像:イメージ)

前者だと損した気持ちになりますが、後者だとなんとなく満たされた気分になりますよね。物事をどの視点で見るかによって、感じ方もこれほど変わります。

次に、あなたの部屋にある黄色のものを数えてみてください。10秒後に「青色はいくつありましたか?」と聞かれて答えられますか。

黄色のものを数えて、青色には目も向けませんよね。黄色しか見えなくなっているということは、人生の可能性と選択肢を自ら狭めてしまっている状態とも言えます。

これまでと同じ視点、見方をしていても結果は出ません。視点を変えたり、増やしたりすることが必要なのです。

完璧を維持するために“やらなくなっていく”

さて、「成功体質」の話に戻りますが、真逆には「失敗体質」があります。

完璧じゃないと気がすまなくて、できない記憶が強烈に焼きついて「できない」を連発する。

それは、自分をどんどん“失敗体質”へ追いやります。

私たちは100点を目指し、小さい頃から“完璧”を目指すことを刷り込まれました。1点足りないのは“失敗”だと認識し、失敗の経験やできなかった体験が蓄積されて、やる前からあきらめるように。

そして、ついにやらなくなる。なぜなら、失敗しないから。やるのは確実にできることだけ。それなら完璧を維持できるからです。

これが失敗体質です。「完璧じゃない=失敗」と捉え、できそうにないことはやらない、できることしかやらない。それは、つまり後退しかない生き方ですよね。

この失敗体質には3つの原因があると考えています。

「できない」は成功体質の大敵

【失敗体質3つの原因】
・100%以外は認めない完璧主義
・できなかった経験や失敗がつくり出す『学習性無力感』
・できないという口癖

「きちんとやる」のは良いことだと思っていませんか。私自身もそうでした。

しかし、完璧主義は自分の足りないところにフォーカスするため、99%できていても失敗と考えがちです。それだと、ほとんどが失敗になってしまいますよね。

「もっと頑張ろう!」と思うことは悪くないのですが、「100%以外は失敗」と決めつけてしまうのは問題でしょう。

2つ目の「学習性無力感」は、マーティン・セリグマン博士の研究によって明らかになりました。失敗や嫌な経験をしたことがきっかけで、やる前から「どうせまた無理」「頑張ってもまた報われないから、やっても意味がない」とあきらめてしまう、ということです。

私たちは成長するにつれて、間違えや失望などの経験が増えていきますが、それらは強く記憶に残ります。

その記憶によって、何をしてもダメだと決めつけ、行動する前からあきらめてしまったり、仕事や勉強へのやる気が起きない“無気力状態”に陥ってしまうのです。

「できない」は成功体質にとっての敵(画像:イメージ)
「できない」は成功体質にとっての敵(画像:イメージ)

3つ目の「できないという口癖」、つい言ってしまうことがありますよね。

ただし、「できない」と言った瞬間に「できない」ことになります。

私たちは本当に「できない」のでしょうか。

簡単にこの言葉を使いがちですが、「できないのではなく、やったことがない」「やり方を知らない」「教えてもらっていない」「慣れていない」のです。

だったら、この部分を補ってあげればいい。

35歳くらいまでの私も「できない」で埋め尽くされていました。

でも今思うと、ただの言い訳でした。本当にできないのではなく、失敗への恐怖や失敗したときの恥ずかしさから「やらない」を選んでいた。

「できない」という口癖は、成功体質の大敵です。

まずは、やってみることから始めてみましょう。分かれ目は「やるか、やらないか」。あなたは、どちらを選びますか。

失敗は“想定内”と見方を変えてみよう!

それでも失敗体質は厄介です。頭ではわかっていても「でも…」と思ってしまうでしょう。

永遠に別れを告げるためには「行動を起こすこと」です。

人間は生きている限り、何かをしますし、そこにはいつだってうまくいかない可能性が潜んでいます。散歩中も、ドアを開けるにしても。失敗を恐れて何もしませんか?

失敗体質の特徴は「行動をしないこと」。一方、成功しやすい人は、まずは行動します。

私の言う成功は「できた」という経験です。成功体質の人はその経験がたくさんある人のことを言います。

「できた」という経験の積み重ねが成功体質へつながる(画像:イメージ)
「できた」という経験の積み重ねが成功体質へつながる(画像:イメージ)

そんな成功体質をつくるカギは、自己効力感を高め、行動する自分を作ることです。

自己効力感は、「自分には達成できる」「それはできる」「自分は大丈夫」といういわば、自信のような感覚です。

自己効力感の高い人は、困難な状況でも「きっと大丈夫。できる!」と考えて行動する原動力になり、人生の可能性と選択肢が広がりますが、低いと「どうせできない…」と行動に移しにくくなります。

では、どうすれば高めることができるのか。

「Just Do It!やってみて、そこから学ぶ」こと。失敗は最初から“想定内”にしてしまうのです。

失敗して学んで成長して、新たな「できた!」を手にして、ポジティブなサイクルを繰り返すと、成功体質になっていきます。

2つ目は「できなくて当たり前」から始めること。

完璧を求めすぎる自分のハードルを下げて、行動しやすくしてみましょう。「Just Do It」へ思考や行動を移しやすくなります。

失敗に直面したときが“成長”のとき

3つ目は地味な行動を繰り返すこと。私たちはカッコよく生きたいと思いがちです。

ですが、やらない方が格好悪いと思いませんか。試行錯誤しながらも、毎日小さなステップを繰り返して、夢を手に入れる地味な生き方が最高に素敵だと思えるのです。

これこそが成功体質のカギです。

「できる自分をつくる」のは意外と地味なのですが、そのプロセスで培った「できる自分」はどんなときも必ず前に進むことができるのです。

4つ目は「失敗というコンセプトはない」。

私は35歳くらいから自分の非認知能力を育み始めましたが、私の中から「失敗」というコンセプトが消えました。

そもそも、失敗とはなんでしょう。

行動すれば必ず「うまくいかないこと」に直面しますが、そこからが勝負どころです。

私たちには問題を解決していく力もあります。失敗を「成長のプロセスでしかない」と捉えれば、必ず何らかの道は開けるはずです。

失敗はつい「後退」をイメージしがちですが、単に自分を前に進めるプロセスでしかありません。この思考の書き換えが「Just Do It」な自分をつくっていきます。

さあ、ここから成功体質のできる自分をつくっていきましょう。カギは「できる」という自己効力感を高めていくこと。失敗を成長の機会にできるようにハードルを下げることです。

私もしっかり伴走します。

『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
『人生・キャリアのモヤモヤから自由になれる 大人の「非認知能力」を鍛える25の質問』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

ボーク重子
Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ、アートコンサルタント。セカンドライフをライフコーチとして、全米・日本各地で子育てやママに向けたコーチングを展開中。著書に『しなさいと言わない子育て 普段の育児のままで子どもが変わる小さなしかけ』(サンマーク出版)など。直近では「“非認知能力”格差があってはいけない」という考えから、学研エデュケーショナルの従業員や全国の学研教室フランチャイズオーナーが受講する完全オリジナルメニューのプログラム制作・監修にも携わっている

ボーク重子
ボーク重子

Shigeko Bork BYBS Coaching LLC代表。ICF(国際コーチング連盟)会員ライフコーチ。アートコンサルタント。
福島県生まれ。30歳目前に単独渡英し、美術系の大学院サザビーズ・インスティテュート・オブ・アートに入学、現代美術史の修士号を取得する。1998年に渡米、結婚し娘を出産する。非認知能力育児に出会い、研究・調査・実践を重ね、自身の育児に活用。娘・スカイが18歳のときに「全米最優秀女子高生」に選ばれる。子育てと同時に自身のライフワークであるアート業界のキャリアも構築、2004年にはアジア現代アートギャラリーをオープン。2006年、アートを通じての社会貢献を評価され「ワシントンの美しい25人」に選ばれた。
現在は、「非認知能力育成のパイオニア」として知られ、140名のBYBS非認知能力育児コーチを抱えるコーチング会社の代表を務め、全米・日本各地で子育てや自分育てに関するコーチングを展開中。大人向けの非認知能力の講座が予約待ち6ヶ月となるなど、好評を博している。著書は『世界最高の子育て』(ダイヤモンド社)、『「非認知能力」の育て方』(小学館)など多数。