中国の習近平国家主席は3月20日から22日までロシアを訪問し、プーチン大統領と会談した。その後、中国の国営テレビが配信した映像には、「印象操作」とも言える巧みな編集が施されていた。

習主席の存在感高める演出・編集

首脳会談では、ホスト役のプーチン氏が冒頭に発言したはずだが、映像は習主席の発言から始まっている。

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対するプーチン氏は真面目な表情でメモを取る姿だ。

「双方のやりとり」ではなく、「習主席の話をプーチン氏が聞き、メモを取っている」という印象を与えている。

これに先立つ両首脳の入場にも、時系列を入れ替える編集が行われている。

映像は、大広間に入場する習主席の姿から始まり、その後にプーチン氏が会場に入る。

実際はプーチン氏が先に入り、習主席を迎えたとみられるが、映像では双方が同時に歩み寄っている印象を与える。

習主席を待ち受けるプーチン氏は映らない
習主席を待ち受けるプーチン氏は映らない
プーチン氏が待ち受ける場面は一瞬
プーチン氏が待ち受ける場面は一瞬

「習主席を出迎えるホストのプーチン氏」ではなく、「同時に歩み寄り握手を交わす両首脳」の図にしようという意図がうかがえる。

非公式会談での習主席・プーチン大統領
非公式会談での習主席・プーチン大統領

非公式な首脳会談でもプーチン氏が習主席を出迎えるというより、2人が握手をするところから始まり、その後は椅子に座って話をするシーンだ。

ロシアメディアなど全ての映像を比べたわけではないが、中国の配信映像は明らかに習主席の存在感や立場を高める演出、編集がされている。

中国の狙いは「仲介する姿勢を示すこと」

日本と中国が国交正常化した際に首相だった周恩来氏は「外交に小事はない」と語ったという。本来は「相手国の様々な事情を考え、きめ細やかに対応しないといけない」という意味だとされるが、別の意味でも中国の対応は細やかで巧妙だ。「良い悪いは別にして、ある意味で日本も見習った方がいい」(外交筋)という指摘もあるくらいだ。

過去の映像でも習主席の存在感を強調?
過去の映像でも習主席の存在感を強調?

そもそも習主席のロシア訪問は、ウクライナ侵攻で苦しい立場にあるロシアに中国が救いの手を差し伸べる、という構図だとみられている。習主席にとっては2022年、冬の北京五輪が終わった直後にロシアがウクライナに侵攻し、その成果に水を差されている。

習主席はプーチン氏に「友人」と呼びかけた
習主席はプーチン氏に「友人」と呼びかけた

非公式の会談で習主席はプーチン氏に「友人」という言葉を使ったが、その本音はアメリカに対抗するためにロシアを利用したい、ないし「ロシアに恩を売りたい」(外交筋)からだろう。

中国側が示していた、ウクライナ情勢に対する“和平案”についても、北京では当初から「話し合いによる解決という当たり前のことで、新しい中身はない」(同)という冷めた見方が広がっていた。中国の狙いは仲介そのものではなく「仲介する姿勢を示すことが目的だった」(同)とされる。

中国外務省は中国の正当性を主張した
中国外務省は中国の正当性を主張した

このウクライナ情勢に関して中国外務省の報道官は「戦場に武器を提供することが公正か?衝突をエスカレートさせ続けることが公正か?」と語気を強くして語った。アメリカの関与の仕方は間違っているという意味だ。アメリカを批判しつつ、中国の主張と存在感をアピールし、賛同してくれる国、いわゆる味方を増やすのがロシア訪問の目的の一つだろう。

“強い経済力”で展開する外交

その一方、ホンジュラスとの国交樹立(3月26日)などに見られる、中米やアフリカ、島嶼国への積極的な関与も中国外交の特徴だ。

中国とホンジュラスが国交樹立を発表(3月26日)
中国とホンジュラスが国交樹立を発表(3月26日)

台湾で、中国と一定の距離を置く蔡英文政権が誕生した2016年から、このホンジュラスを含めた9つの国が台湾と断交して中国と国交を樹立した。

”中国は増えて、台湾は減った”(華春莹氏のツイッターより)
”中国は増えて、台湾は減った”(華春莹氏のツイッターより)

中国外務省の報道官だった華春莹(か・しゅんえい)氏は自身のツイッターで、中国と台湾が外交関係を持つ国の数を比較し、台湾と外交関係を持つ国が少ないことを示して「世界のトレンド」だと主張した。中国は今後も台湾の孤立化を図るとみられる。

中国を批判した台湾・蔡英文総統
中国を批判した台湾・蔡英文総統

これに対して蔡総統は、ホンジュラスとの断交を受けて「我々は無意味な金銭外交競争をするつもりはない」と中国の手法を批判した。

強い経済力、つまりお金の力で展開する外交は日本では敬遠されがちだが、経済的に苦しい途上国などにとっては中国に頼らざるを得ない事情もあり、中国との関係を重視する国は増えている。

「日本は魚の釣り方を教えてくれる国。中国は魚をくれる国」(外交筋)というが、魚釣りを楽しみたい人はともかく、魚を食べたい人にとっては後者の方がありがたいはずだ。国の仕組みも違えば価値観、経済状況、人々の生活水準も違うのが世界の実情だ。アメリカの力が相対的に落ちている中、中国外交は決して侮れない。

(FNN北京支局長 山崎文博)

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。