“イラ”に“オジサン”…未利用魚を全国へ　「もったいない」を「おいしい」に替えるベンチャー企業【福岡発】

価値のなかった魚を価値ある食材に。普段は市場に出回らない未利用魚の活用に取り組む福岡のベンチャー企業が、着実に成果をあげている。

「もったいない魚」を商品化

ハーブで風味付けした福岡県産の地魚のオーブン焼き。ふっくらした白身と香ばしく焼き上げた皮目は、高級感さえ漂う仕上がりだ。

試食した感想は…。

高島彩記者：
とても甘いです。普段なじみのない魚とは思えないほど食べてびっくり！おいしいです

パスタやドレッシングで知られる「ピエトロ」が、福岡の本店をはじめ全国9つのレストランで提供している期間限定の特別メニュー。福岡市の水産系ベンチャー企業「ベンナーズ」とタッグを組んで、通常は使われることのない未利用魚を使って商品化したものだ。

未利用魚とは、漁獲され食用にできるにもかかわらず、サイズや形が悪かったり傷があったりするために、市場には出回らない「もったいない魚」のこと。今回のコラボメニューに使われたのも、「イラ」と「オジサン」という普段、スーパーなどではなじみのない魚だ。

ベンナーズ・井口剛志社長：
日本全国の水産業を盛り上げて、日本全国の方に、もっとお魚好きになっていただける機会を創出したい

ピエトロの高橋泰行社長と共に、連携協定締結の会見に臨んだベンナーズの井口剛志社長は27歳。大学卒業後、すぐに会社を設立した若き経営者だ。

ベンナーズ・井口剛志社長：
代々、水産系の家系で育ってきたんですけど、祖父母からは、この水産業界には関わるなっていうか、ほかの業界を選んだ方が良いっていうふうに言われておりました。ずっと魚を食べて育ってきた私からすると、それは非常に悲しいことだなというふうに思いますし、この現状をどうにか打破していきたいなと

総水揚げ量の約3割は“未利用魚”

衰退する水産業界を盛り上げ、日本伝統の魚食文化を守るために興した会社。どんな事業を展開しているのか―。

ベンナーズスタッフ・矢野功祐さん：
きょう入ってきた未利用魚です。日によって変わるし、量もバラバラなんですけど、全体で200kgぐらいが入ってきています

味には何ら問題がないのに値段が付かないため、ほとんど流通に回ることのない未利用魚。実は、総水揚げ量の約3割、年間130万トン以上をこの未利用魚が占めているのが、日本の水産業の現状なのだ。

ベンナーズは、この「もったいない」に目をつけて、価値のなかった魚を価値ある食材として送り出している。

ベンナーズスタッフ・矢野功祐さん：
手間がかかるというのは、確かにありますね。ウロコを取ったりするのに、取りやすい魚は機械にかければ一発で飛んでいっちゃうんで

料理人として約20年の経験を持つスタッフの矢野さん。魚をさばくのは本来なら朝飯前なのだが、未利用魚は勝手が違うと話す。ウロコが硬い魚や毒のあるトゲを持つ魚もいるため、手作業で丁寧に処理する必要があり、一般的な魚と比べて倍の時間がかかるのだ。

ベンナーズスタッフ・矢野功祐さん：
面白いですよ。いろいろ魚に触れて。今まで扱ったことのない魚があるので経験にもなります

丁寧にさばかれた魚は、国産の調味料で味付けしたあと、専用の機械で瞬間凍結。

鮮度を保ったままミールパックとして出荷され、生食用は解凍するだけ、加熱用は湯煎したり焼いたりするだけで、手間をかけずに食べることができる。

水産業を“かっこいい産業”に

販売開始から約2年、累計の販売数は7万食を超えていて、その売り上げは漁業者にも還元している。

福岡市の玄界島で18年間、漁を続けてきた宮川友芳さんは、ベンナーズと最初に契約を交わした漁業者だ。宮川さんは、これまで売り物にならなかった未利用魚に値段が付くようになり、手応えを感じている。

漁師・宮川友芳さん：
もったいないと思っていたので、思いが合致したというか、やろうかってなりましたね。価値にならない魚が、価値になり始めたというのはありましたね。3割捨てていた魚がお金に替わるので、もうけが増えるのも助かりますよね

水産業界の活性化を見据え、「もったいない」を「おいしい」に！井口社長はそんなシンプルな発想で、ピエトロとの連携をきっかけに未利用魚の活用の幅をさらに広げたいと意気込んでいる。

ベンナーズ・井口剛志社長：
どうしても未利用魚とかSDGsとか、そういったことを聞いてしまうと、ちょっと押し付けがましく聞こえてしまうので、純粋に「おいしい魚を食べてみたい」、「食べてみよう」というふうに思っていただけるような取り組みをして行く必要がある。水産業自体がもうかる、“かっこいい産業”に生まれ変わっていく必要があるなというふうに思っています