2023年3月、東日本大震災で息子を亡くした夫妻が、新潟県の小学生に命の大切さを伝える授業を行った。宮城と新潟をつないだのは、ひとりの男性教師。語り部として活動している夫妻の話を聞いたことがきっかけだった。

宮城と新潟をつなぐ命の授業

新潟県三条市の月岡小学校。この日、4年生の児童がリモートで命の尊さを学ぶ授業を受けた。

田村孝行さん:
皆さんは東日本大震災という大きな地震があったことを知っていますか?今、自分があるのは当然で当たり前ではないこと、かけがいのない大切な存在なんだということを、きょうの話から考えてもらえたらいいなと思っています。

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講師を務めたのは、宮城県大崎市に住む田村孝行さん(62) 弘美さん(60)。田村さん夫妻は東日本大震災で、七十七銀行女川支店に勤めていた長男・健太さんを亡くした。

田村弘美さん:
息子は何事にも諦めることなく、目標に向かって進む強さや、実直さを持った子供でした。そんな息子の将来がすごく楽しみでした。

この授業を実現させたのは、月岡小学校の教師・霜﨑大知さん(28)。田村さん夫妻と交流を重ねる中で、2年前から宮城と新潟をつなぐ授業の構想を練ってきた。

月岡小学校 教師 霜崎大知さん:
田村夫妻はただ悲しむだけではなく、これからを生きる未来の人たちに守れるはずの未来は守ってくれとメッセージに変えて発信しているところに、ものすごく敬意を持っている

霜崎さんは高校生のとき、東日本大震災の現状を自らの目で確かめたいと、2012年3月、ボランティアのため被災地を訪れた。そのとき見た光景が、児童と教職員あわせて84人が犠牲となった宮城県石巻市の大川小学校だった。

月岡小学校 教師 霜崎大知さん:
学校そのものが被災することがあるんだ。学校そのものが危険な場所になることがあるんだという意味では、ものすごく印象的だった。衝撃を覚えたのを、今でも覚えている

その後も被災地でボランティア活動を続ける中、2016年、霜崎さんは田村さん夫妻と出会う。田村さんは、企業防災の向上を訴え、震災の翌年から女川で語り部を続けていた。

田村さんのある言葉が、心の中に残っていると霜月さんは話す。

月岡小学校 教師 霜崎大知さん:
田村さんがよくおっしゃるのが、助けられたはずの命なんだということ。助けられたはずの命がなぜ助けられなかったのだろうということを、すごく考えさせられるきっかけになって…

震災を直接知らない世代に

その後、霜崎さんは新潟県で教師になった。田村さん夫妻の話を思い出し、企業と学校には共通点があると感じたという。

田村孝行さん:
生存者の証言で、息子は「時間があるから高台に行ける」という言葉を残していました。信頼する会社と日頃から慕う支店長の指示に疑問を持ちながらも、その指示に従わざるを得なかった。

田村弘美さん:
津波避難は、ここで大丈夫だろうではなくて、次から次へと上がれる高台へ逃げなければ命は守れない。

企業にある「上司と部下」、学校にある「教師と児童」という関係性。霜崎さんはこの授業に、いざという時は自分の命を自分で守る判断力を付けてほしいという願いを込めた。

月岡小学校 教師 霜崎大知さん:
もちろん上からの指示をしっかり聞いて行動することも大切だが、場合によっては「いや、待てよ」と。ここの地域はこういうことが考えられるから、こういう行動が適切なのではないか、柔軟に意見として出せる。柔軟に意見を交わして最善な判断を下すことができる。児童たちにそういう醸成・文化を創っていってほしい。

授業を受けた児童の多くは、東日本大震災の翌年に生まれた。震災を直接知らない世代にも、その思いは届いたようだ。

月岡小学校の児童は「自分の命は誰かが守ってくれるではなく、自分の命は自分で守る。津波が来たら高いところに逃げようと思いました」「どこに逃げるかを家族と話し合って、津波が起きたときの食べ物とかを用意したりしたい」と話した。

次世代に「防災の種」をまこうと、語り部を続けてきた田村夫妻。震災の発生から12年となった2023年3月11日も、神奈川県から訪れた子供たちに命の大切さを伝えていた。

田村弘美さん:
真剣に聞いてくれて、しっかりと受け止めてくれる、うれしいですよね。次の世代につなげることができているのであれば、何とかやってきて良かったなと、息子も良かったなと思ってくれているんじゃないかと思います。

田村孝行さん:
この12年1つ1つやってきたことがつながってきているので、今後も1つ1つ種をまく、そういうことを地道にやっていく必要性があると改めて感じている。

12年を経て新潟で花開いた、防災の種。各地で花が咲き誇るまでこれからもまき続ける。

(仙台放送)

仙台放送
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