名古屋駅の老舗地下街「メイチカ」が2023年3月31日で営業を休止します。「メイチカ」で65年に渡って多くの人に愛されてきた喫茶店チェーンの「コンパル メイチカ店」も閉店することになりました。別れの近づく店内には、コーヒーの香りと寂しさが漂っていました。

名物“エビフライサンド”に魅了され…2日連続で来店した観光客の夫婦

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名古屋駅の地下に広がる、味わい深い“街”「メイチカ」には、飲食店など約20店が軒を連ねています。

1957年の開業以来、長年親しまれてきましたが、駅前広場の再整備に伴い3月31日で営業を休止します。

メイチカの開業とともにオープンした老舗喫茶店「コンパル メイチカ店」も、愛され続けた65年の歴史に一度幕を下ろします。

午前8時。店のシャッターが上がりました。

東京からの観光客で、店を訪れるのは2日連続という夫婦がサンドイッチを食べていました。

夫(31):
濃厚な味わいでおいしいです

妻(28):
この後、東京に帰るんですけど、(夫が)気に入ったらしくて、今日も行きたいって言われて

夫:
おいしかったので、今日も来ました

妻:
(ネットで)名古屋のカフェと調べたら、まずここが出るんですよ。やっぱり代表的な店なのかなと思って。エビフライって普通サンドイッチに入れます?

こんがり焼いたトーストに、大きなエビフライを3本。キャベツをたっぷり挟んだコンパルの名物「エビフライサンド」(1050円)。

夫:
落ち着けてゆっくりできる場所ですかね。また来たくなりますね

妻:
でも、もうないんだよ…。悲しすぎる

地下鉄東山線の名古屋-栄町間が開通した1957年。

開通に合わせ開業した「メイチカ」には、毎日多くの人が行き交い、1つの「街」が生まれました。

同じ日、「コンパル メイチカ店」はその一角に開店。昭和・平成・令和と時代が移っても、変わらず愛され続けてきました。

メニューを見ずに注文…50年間2日に1度通い詰めた女性客

別れを惜しんで、愛知県岡崎市から来た2人組の女性がいました。

岡崎から来た女性A(79):
いただきます。食べ納めですね、これで…

岡崎から来た女性B(72):
18の頃に名古屋に来たら寄っていたのよ。ここがなくなっちゃうと聞いたから、寄ってみようかって…。青春時代の思い出の場所だよね。界隈がなくなるわけでしょ、ちょっと寂しいけどまた新しく復活してくれれば、また来ます

岡崎から来た女性A:
命があったらね(笑)

名古屋市に住んでいる87歳の女性は、50年間、2日に1度は通ってきたと話します。

50年来の常連の女性C(87):
Aランチ、それでミルク、あとでコーヒー、食べ終わってからコーヒー

メニューを見ないで注文していました。

常連の女性C:
見なくてもわかっているから。(すぐ近くの)大名古屋ビルに勤めていたもんでね。朝ここへ寄ってコーヒー飲んで、仕事に行ったんだわね。癒しの場所かな。ボーッとここでコーヒー飲んで、なんか落ち着く

大学時代を名古屋で過ごした男性はメイチカを歩き感慨に

閉店を惜しむのは、地元の人だけではありません。

静岡県から来た男性A:
静岡県から。学生時代とか20代の頃この辺でうろうろしていたので、今来ないと後悔するかなと思って、今日は日帰りで

大学時代を名古屋で過ごしました。

食事を終え、男性は思い出のメイチカを歩くことにしました。

静岡県から来た男性A:
昔はこの辺に本屋さんとかあった気がしたけど、まだあるのかな…。これ(JRセントラルタワーズ)ができたのが20年くらい前か?

静岡県から来た男性A:
昔はパチンコ屋さんもビルの裏手にあったりとかしたので、そこでパチンコ打ってお金を稼いで、服を買ったり、ご飯食べたりとかね

時代とともに少しずつ変わる名古屋駅。また姿を変えますが、色褪せないものが心に残っています。

パンの街・神戸から来た男性とパン談議で“意気投合”したという女性がいました。2人は初対面だといいます。

女性D(74):
ここはパンがおいしいですから、パンがおいしい話から神戸の話に。神戸はパンがおいしいですよね。それで話が盛り上がって

神戸から来た男性B(35):
たまたま隣同士の座席で…、今日初めてです

女性:
ここはそういう雰囲気になるんです。安心して話せるというか、こういう無害なおばあちゃんもいるから、人生の先輩だし

知らない人に果敢に話しかける人もいます。

「最後に思い出の味を…」2歳の頃から祖父と来店している鉄道好き高校生

愛知県稲沢市から訪れた高校1年生・山口真輝さん(15)は、祖父(80)と一緒に黙々とサンドイッチを食べていました。

2歳の頃から祖父とこの店に来ていたという真輝さんは「最後に思い出の味を…」と来店。

山口真輝さんの祖父:
(鉄道旅行の)スポンサー代わり、スポンサーになっているだけ。本人の行きたいところのスポンサー

2人はとても仲が良く、鉄道が大好きという真輝さんは、祖父と一緒に全国各地を鉄道で旅行しています。

この日は、北陸への旅の仕上げに立ち寄りました。

山口真輝さん:
基本、来るのはここだったので、少し悲しいです。これからも、店は変わっちゃうけど、食べに来たいと思います

今しか作れない祖父との思い出が、また一つ増えました。

神戸の男性とパン談議で盛り上がっていた女性は、今度は別の女性と意気投合していました。

女性D:
新たな人です

相手の女性E:
ここの店は初めて来たんです。エビフライサンドが特においしいと聞いて

女性D:
それで意気投合して…

記者:
誰とでも意気投合しますね

女性D:
そうでもないよ!話してもいい人しか話しませんよ!

相手の女性E:
そうなんですか?

こんな出会いも、65年でたくさん生まれていたのでしょうか。

難病でほとんど目が見えないきょうだい 月に1度のコンパルでのひととき

午後3時。白い杖をついた男女が来店しました。永福平さん(73)と姉の洋子さん(77)です。

永福洋子さん:
うちら、学校行っとる頃からあったもんな、ここ

弟の永福平さん:
あった、あった

月に1度、一緒に食事をした帰りにこの店を訪れていました。2人とも、ほとんど目が見えないそうです。

永福平さん:
これ(白杖)はやはり自分もそうなんですけど、他の方がわかるように「よく見えていませんよ」という目印にもなるし、人通りが多いとこちらから避けることができないもんで…

平さんは30年ほど前に、姉の洋子さんは最近になって遺伝性の難病を発症。

外出が億劫になりがちですが、「見えない暮らし」のアドバイスも兼ねて、こうして月に1度コンパルで会っているといいます。

永福平さん:
出かける前に、そこへ行ったらどこにトイレがあって、こういう誘導ブロックがここへ連れて行ってくれるとか。こういう生活用具があるよ、こういう拡大読書器は市や県から給付してもらえるとか。そういうのは全部伝授していきますよね

永福洋子さん:
先生です。ありがたいですね

今後の2人の時間は、別の「コンパル」で続いていきます。

サラリーマンも大学院生も…「コンパル」に溢れる思い出と寂しさ

仕事の合間の一息に訪れたサラリーマンもいました。

サラリーマンの男性C(48):
管理職なので、いろいろ悩みもあるので。問題をじっくり整理してリフレッシュしながら、冷静に考える場みたいな感じで来ることは結構あります

研究途中の栄養補給でコンパルを利用していた女性は…。

大学院生の女性F(24):
いつも(研究に)行き詰まって帰ってきて…。エビフライサンドが好きなんですけど、食べて気合を入れ直すというか、「やるぞ!」となるところだったので…、寂しい

65年の歴史と、一旦お別れです。

「メイチカのコンパル」には、コーヒーの香りとともに、たくさんの思い出と寂しさが溢れていました。

2023年3月6日放送
(東海テレビ)

東海テレビ
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