人口減少や高齢化が進み、山陰両県でもいわゆる「買い物弱者」が増えている。こうした中、特に食料品や日用雑貨など日常の買い物の場を提供するため、島根県内で、車で地域を回る移動販売を始めた女性を密着取材した。
移動販売車「とくし丸」
JALふるさと応援隊・佐藤亜紀子さん：
あそこにありますね。移動スーパーですね。にぎわっています
島根・出雲市内の寺の駐車場に来ていたのは、1台の軽トラック。移動販売車「とくし丸」だ。
JALふるさと応援隊・佐藤亜紀子さん：
ご利用されていかがですか？
買い物客：
良いです。助かります。町中のお店がどんどんなくなっているので、本当に助かります
車などの移動手段がない、いわゆる「買い物弱者」のための「動くスーパー」で、主に訪れるのは高齢者だ。
移動販売「とくし丸」の本社は徳島県。地域のスーパーマーケットと提携し、その店と契約している販売者が移動販売車で地域を回り、商品を売る仕組みだ。島根県内では、JAが運営する「Aコープ」と、出雲市に本社を置く「ウシオ」が提携している。
JALふるさと応援隊・佐藤亜紀子さん：
きょうはにぎわっていましたね。いつもこんな感じですか？
松浦麻美さん：
にぎやかに、皆さん、買い物してくれます
出雲市に住む松浦麻美さん。「ウシオ」と契約し、2022年11月からこの仕事を始めた。
「たった15分かもしれないけど…」
午前8時。松浦さんの1日は、商品を積み込むところから始まる。スーパーの店内で、約2時間かけて、商品を見繕っていく。
松浦麻美さん：
選ぶのは楽しいです。「この人にこういうのを持っていったら喜びそう」とか、そういうのを考えるのが楽しいかな
1日で回るのは、旧平田市内約13カ所。営業は週4日で、2日ずつ同じコースを回っている。
松浦麻美さん：
ゆずこしょうはおいしそうじゃないですか？辛そうだけど
利用者：
辛くはないわね
松浦麻美さん：
ゆずこしょう、辛くないですか？
利用者：
あんたは子ども、まだ
松浦麻美さん：
まだ子ども？大人になったら食べられるようになる？（笑）
高齢の利用者に突っ込まれ、松浦さんも思わず笑顔になる。訪れた人に気さくに声をかける松浦さんに、利用者は…。
利用者：
便利、便利。それに話ができるでしょ。1人だと1日中、黙ってるから、うれしいです。待ってます
松浦麻美さん：
たった15分と思うかもしれないけど、もしかしたら1日話すことのない人もいるかもしれない。なので、その15分が、きょう1日よかったなと思ってもらえる15分だったらいいなと思う
地域課題の解決へ
鳥取県内で、中山間地域に店舗を構えるJA系のスーパーやコンビニが閉店する方針を示すなど、山陰両県でも、一部の地域で、地域の買い物の場がなくなり「買い物弱者」が増えることも予想されている。
出雲市でも、一人暮らしや高齢者だけの世帯は1万5,000を超えている。こうした中、注目されているのがこの移動販売車だ。
JALふるさと応援隊・佐藤亜紀子さん：
なぜ移動販売を始めようと思ったのですか？
松浦麻美さん：
夫がやってみたいというのがきっかけだったけど、好きな商品がたくさんあったスーパーが提携しているのも魅力的で始めることにしました
移動販売車を始めて3カ月。意外と体力のいる仕事だと、最初は戸惑ったというが…。
松浦麻美さん：
体力面では、仕事に慣れるまでは大変だったが、今は（巡回先に）話が好きな方が多くて、私もしゃべる方なので、逆に楽しませてもらって楽しい時間が増えました
利用者の喜ぶ顔が原動力に。スーパー側も新たな取り組みに期待を寄せている。
スーパーウシオ・秦慎一郎さん：
これから移動スーパーはどんどん必要になってくると思います。「グッディ（ウシオ）」としても、この活動を続けていって、お客さまの手助けができればと考えています
一方で、課題もある。松浦さんは契約している「ウシオ」から、売り上げに対して数パーセントの手数料を受け取っているが、その額はまだ少なく、現状では、夫の収入が家計を支えている。顧客を増やさなければ、松浦さんの収入も増えない。
JALふるさと応援隊・佐藤亜紀子さん：
この仕事ですが、これからも続けていきたいと考えていらっしゃいますか？
松浦麻美さん：
細く長くやっていきたいと思っていて、たくさんの人にもちろん喜んでもらいたいんですけど、1人でも「いいね」と喜んでもらえる人がいたら、やっていきたいです
移動販売を通じて住民の要望に応え、良い関係を築いていくことが、買い物の場の確保など地域の課題の解決へのひとつの道と言えそうだ。地域の高齢者のために。松浦さんは、移動販売車で助け合いの輪を広げていく。
（TSKさんいん中央テレビ）
