神奈川県厚木市で、車の中に幼い子ども2人を放置し、熱中症で死亡させた罪に問われている母親に、懲役3年6カ月の実刑判決が言い渡された。我が子2人を死に追いやった母親なのに、量刑が軽すぎるのではないかとの指摘もある。裁判メモから、その背景を探った。

真夏の車内に2時間44分放置

長沢麗奈被告(22)は、去年7月29日、厚木市の路上で、長女の姫梛ちゃん(ひな・当時2歳)と長男の煌翔ちゃん(こうが・当時1歳)を車内に放置し、熱中症などにより死亡させた、保護責任者遺棄致死の罪に問われている。

逮捕直後、厚木署から移送される長沢麗奈被告(22)(去年8月)
逮捕直後、厚木署から移送される長沢麗奈被告(22)(去年8月)
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この日、長沢被告は、交際相手の男性宅近くの路上に、車を止めていた。車内に、我が子2人を放置したのは、2時間44分。その間、長沢被告は、男性宅で過ごしていたという。男性の証言によると、「腕まくらをして寝ていた」とのこと。

長沢被告は、我が子のことを思って、エアコンをつけたまま車を離れたという。設定温度も、最も低くしていたそうだ。しかし、神奈川県警による再現実験では、エアコンの温度を18度に設定しても、日が当たる場所では、車内の温度は30度を下回らなかったという。

「彼氏と一緒にいたかった」

救急隊員は、搬送時、煌翔ちゃんの体温が42度にまで達していたことを明らかにしている。被告人質問で、長沢被告は、7月に入ってから、子どもの車内放置を7~8回繰り返していたことを打ち明けた。

幼い姉と弟が意識不明の状態で見つかった車(去年7月29日 神奈川・厚木市)
幼い姉と弟が意識不明の状態で見つかった車(去年7月29日 神奈川・厚木市)

その動機については「交際相手の男性と一緒にいたいという気持ちを優先させた」のだという。また、煌翔ちゃんを車内に置いたまま買い物に出かけて、児童相談所に通告されたこともあったという。再三に渡る”車内放置”の末に、今回の事件が起きたことになる。

一方、法廷では、長沢被告がついた「ウソ」についても審理の対象となった。事件当時、車に戻ってきた長沢被告は、ぐったりしている我が子2人を見つけて、119番通報している。通信指令本部の担当者からは、心臓マッサージをするよう促されていた。

母親がついた「ウソ」

ところが、長沢被告は、駆けつけた救急隊員、警察官、さらには自分の母親に対してもウソをついたのだった。

逮捕翌日、身柄を検察庁に送られる長沢被告(去年8月 小田原署)
逮捕翌日、身柄を検察庁に送られる長沢被告(去年8月 小田原署)

我が子2人を車内に放置したまま、彼氏の部屋に過ごしていたのに、「公園で遊んでいたら子供たちが寝たので、後部座席に寝かせて、自分は運転席でスマホを触っていた、30分くらいして様子を見たら、ぐったりしていた」と虚偽の説明をしていたのだ。

実際、長沢被告は、つじつまを合わせるため、119番通報をしながら、自分の車を、およそ180メートル離れた公園の駐車場まで移動させていた。その際、右手でハンドルを握り、左手にスマホを持ち、右腕で娘を、左腕で息子を抱えていたという。そこまでして、なぜ・・・。

「迷惑かかるから」「怒られるから」

なぜ、ウソをついたのか?被告人質問で、長沢被告は、交際相手の男性に「迷惑がかかるから」と釈明。また、彼氏の部屋いることがバレたら、「(自分の母親に)捨てられ、怒られると思ったから」、母親にもウソをついたという。

2月28日から、長沢麗奈被告の裁判が始まった(横浜地裁小田原支部)
2月28日から、長沢麗奈被告の裁判が始まった(横浜地裁小田原支部)

母親も、自分の娘が、ウソをついているのではないかと疑っていたようだ。供述調書によると、母親が、「ウソをついていない?」「ウソをついたら周囲の人が大変な思いをする」などと問い詰めたものの、長沢容疑者は「ウン」と答えるだけだったという。

彼氏に会いたい思いを優先させ、繰り返された”車内放置”。彼氏に迷惑がかかるから、母親に怒られるからとの動機でついたウソ。子どもへの心臓マッサージを中断してまで、車を移動させて、つじつまを合わせようとするとは・・・。

むごたらしい児童虐待とは「一線を画す」

あきれるばかりの言動に対して、検察側は「保護者の自覚を欠いている」として懲役8年を求刑。弁護側は、「日常的な虐待はなく、愛情をもって子育てをしていた。今回の事件で、最大の苦しみを味わっているのは被告自身だ」として懲役3年が相当と主張した。

長沢被告は「子供2人は後部座席で寝ていて、自分は運転席でスマホを触っていた」などとウソの説明をしていた。
長沢被告は「子供2人は後部座席で寝ていて、自分は運転席でスマホを触っていた」などとウソの説明をしていた。

これに対して、横浜地裁小田原支部は、量刑を判断するに当たり、過去の児童虐待事件と比較している。親がパチンコ店や居酒屋で楽しんでいる間に、子どもを死亡させた事件と比べて、「危険性は低かった」と指摘。

また、日常的な暴力により死亡させたり、食事を与えずに衰弱死させるような事件とは違い、長沢被告は、日頃から愛情を持って、子どもたちを養育していたと認定。「むごたらしい、典型的な児童虐待事件とは一線を画す」と判断した。

「あまりにもモノを知らない。考えが足りない」

では、事件の原因は何だったのか?判決では「究極の原因は、無知や若さ、未熟さ、不勉強などによる危険意識の薄さにある」と結論づけた。過去の事件の量刑を参考にした上で、裁判官と裁判員が導いた量刑が、懲役3年6カ月だったことになる。

裁判長は、長沢被告に対して「あまりにもモノを知らない。考えが足りない」などと説諭した。
裁判長は、長沢被告に対して「あまりにもモノを知らない。考えが足りない」などと説諭した。

判決言い渡し後、裁判長は、次のように、説諭をしている。この声は、長沢被告に届いたのか。

「あなたは、あまりにもモノを知らない、考えが足りない。母としても、自動車に乗る人としても、大人として未熟だった。それが今回のような事件を生んだ。猛省を求めないといけないまずは刑期をしっかり務め、罪をつぐなって、勉強してほしい。経験値を積み、良き社会人として再起、更生して欲しい。好きだから嫌いだからで行動するのではなく、まずは立ち止まって、良い大人になってもらいたい、我々一同、強くそう思います」

 
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社会部
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