東日本大震災から12年の月日が経った。津波で甚大な被害を受けた被災地はハード面での整備がほぼ終わり、街づくりは着々と進んでいるように見える。一方で、興味深いデータがある。        宮城県内で復興事業として行われた土地区画整理事業で、現在活用されている土地は「79%」にとどまり、約2割の土地が現在も使われていないというのだ。
かさ上げされた土地に広がる広大な「空き地」。多額の税金が投入された事業の現状を追った。

3億円で整備された土地の活用率は0%

宮城県気仙沼市沿岸部に位置する松崎片浜地区。空から見ると空き地が目立つ。
宮城県気仙沼市沿岸部に位置する松崎片浜地区。空から見ると空き地が目立つ。
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2019年に土地区画整理事業が行われた、宮城県・気仙沼市の沿岸部に位置する松崎片浜地区。震災前には約200戸の住宅があったが、残ったのはわずか20戸で、住宅以外の用地として4ヘクタールが整備された。整備にはおよそ3億円が投入されたが、土地の活用率はなんと「0%」だ。地区の住民からは「最初の話とは違って何も進まないうちに時間だけが過ぎていく」「活用されることを住民は期待していた」などと落胆に近い声が多く挙がる。

松崎片浜地区の土地活用率は0%。有効活用を期待していた住民からは落胆の声が聞かれた。
松崎片浜地区の土地活用率は0%。有効活用を期待していた住民からは落胆の声が聞かれた。

東日本大震災後、地盤が沈下した気仙沼市では、かさ上げをした上での住宅地の回復を目指し、まず、被災した宅地の買い取りが行われた。しかし、全員が土地を手放したわけではなく、結果、市が購入した土地と私有地がモザイク状に出現した。これらの土地を集約し活用の幅を広げるため、土地区画整理事業は行われたワケだ。区画整理後の土地には当初、商業施設誘致の可能性があったが、新型コロナや物価高騰などのあおりを受け、今もなお実現には至っていない。

“実数字はもっと低い”専門家の指摘

仙台放送の取材によると、県内11の市と町のあわせて38カ所で行われた総事業費は、およそ2989億6000万円。そのうち現在活用されている土地は、住居用地で84%、非住居用地で73%、あわせて79%となっている。一方でこの数字だけにとらわれてはいけないと専門家は指摘する。

東北大学災害科学国際研究所・姥浦教授
東北大学災害科学国際研究所・姥浦教授

東北大学災害科学国際研究所姥浦道生教授:
区画整理と言っても種類は様々で、防災集団移転と組み合わせた区画整理は、9割といったかなり高い利用率になる。一方で普通の区画整理事業の場合はもっと低い数字になる

実際、県内最多の15地区で土地区画整理事業が行われた石巻市では、新蛇田南地区など3つの地区で100%に達するなど軒並み高い数値になった。一方、防災集団移転と組み合わせず、元々あった市街地の整備を目的とした地区では7割から8割程度の活用に留まり、住宅以外の用地も3つの地区が7割に達していない。
また、「活用率79%」には工事のための駐車場なども含まれている。何をもって「活用」と定義するのかは議論の余地がありそうだ。

東北大学災害科学国際研究所 姥浦道生教授:
ポテンシャルがある土地ではるので、それをどう生かしていくのか。継続して考えていくことが必要。出てきた需要に対して供給が対応できる形になっているのか、態勢の整備・情報の提供も重要になってくる。

被災地に全社移転を決断した企業も

沿岸部では震災後、三陸道が全線開通するなど、インフラ面で大きな変化があった。各自治体は固定資産税の助成や、土地の無償貸し付けを行うなど、誘致に力を入れている。こうした中、被災地で大きな決断をした企業もある。

閖上東地区に操業拠点の移転を決めた、株式会社「陣中」福山良爾社長(右)
閖上東地区に操業拠点の移転を決めた、株式会社「陣中」福山良爾社長(右)

陣中 福山良爾社長:
ここは、今回作っている陣中本社工場となります。

牛タンの加工製造や販売を手掛ける「陣中」は、仙台市と名取市にある2つの工場と配送センターを、名取市閖上東地区に集約することを決めた。総事業費は約17億円。キッチンスタジオを備えた多目的ホールなども整備するほか、集客施設の整備も検討しているという。福山社長は「地域の発展に貢献できれば」と意気込む。

陣中・福山良爾社長 閖上地域の活性化を目指す
陣中・福山良爾社長 閖上地域の活性化を目指す

陣中 福山良爾社長:
地域全体で人が集まるような場所にしたい。閖上地区の発展のカンフル剤にしっかり役割を果たしていければいいかなと思っている。コロナ禍に物価高騰で建設代金も上がったが、今やならないとダメ。ワクワク感でいっぱいです。

陣中が進出を決めた閖上東地区
陣中が進出を決めた閖上東地区

東日本大震災の津波で大きな被害を受けた名取市閖上。このうち閖上東地区に整備された40.4ヘクタールの産業用地に進出を決めたのはこれまで44社にのぼる。(2022年12月時点)

今だからこそ事業の検証の場を

未曾有の災害からの復興事業としての土地区画整理事業。約2割の活用されていない宮城県内の土地について、村井嘉浩知事は、「賑わいを生み出す場所があると前向きに捉えるべき」と前向きな見解を示す。

村井嘉浩宮城県知事
村井嘉浩宮城県知事

村井嘉浩宮城県知事
すぐに埋めなければ無駄というわけではなくて、時間を置いてよく考えながら街づくりとあわせて有効に活用できる方法を一緒に考え、お手伝いをしたいと考えている

「土地活用率79%」。短い時間で積みあがったこの数字は、決して低いものではないだろう。一方で多額の税金は投入されている現状は疑いようがない。「住民にとって効果的な活用」とは何なのか。震災から12年の節目を迎えた今、検証するタイミングがきているのかもしれない。

(仙台放送)

仙台放送
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