無実を訴えながら服役中に亡くなった父親。遺族たちの闘いは、2月27日大きく前進した。

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阪原弘さんの長男・阪原弘次さん:
本当嬉しいです。皆さんのご支援のおかげで、この良い決定を得ることができました。皆さんどうもありがとうございます

事件が起きたのはおよそ40年前。

滋賀県日野町で、酒店を経営していた女性(当時69)が草むらで遺体となって見つかり、店の金庫が別の場所から見つかった。

発生からおよそ3年後、警察は女性の店の常連客だった阪原弘さんを強盗殺人の疑いで逮捕。

長男・弘次さん:
(取り調べ中)イス蹴っ飛ばして転ばされるわ、鉛筆束ねたもので頭を小突かれるわ

(Q:けがをしていた?)
長男・弘次さん:
(父の)顔が腫れてました。明らかに

厳しい取り調べの中で当初は否認していた阪原さん。

「自白」に転じ逮捕されることになったのは、“脅迫めいた”刑事の「娘の嫁ぎ先をガタガタにしたるわ」という言葉がきっかけだった。

阪原弘さんの音声(1988年起訴当時):
それまでなんぼ拷問受けても“死なへんさかい”にと私はこう思いましたが、娘のことを言われた時には、もうそれに(警察に)応じないとしょうがない

その後、阪原さんは「無罪」を主張したが、2000年に無期懲役の判決が確定。

阪原さんは「獄中」から裁判のやり直し=「再審」を求めましたが、その手続きの最中に、75歳で亡くなった。

長男・阪原弘次さん:
誰も信じてくれん。でもお前らだけは信じてくれ。「父ちゃんなにもやってへん」と泣きながら言ったんや

その後、家族があらためて「再審」を求めると、そこで初めて検察側から開示されたのが、「引き当て捜査」の時に撮影された写真のネガだ。

「引き当て捜査」とは、容疑者を現場に立ち会わせ、犯行場所などを案内できるか検証するもので、警察は、阪原さんが盗まれた金庫の発見場所まで案内する写真を撮影し、証拠としていた。

しかし、弁護側が「写真のネガ」を調べると、19枚のうち8枚が、現場からの「帰り道」に撮影されていたことが発覚した。

弁護側は「警察側が自分たちにとって“都合がいい写真”だったため使った疑いがある」と主張している。

伊賀興一 弁護団長:
明らかなんですよね。行くのを知らなかった人を連れて行っても、帰りは帰れますよね。そんな帰り道の写真で何を証明できるのか

これを受け、大津地裁は5年前、裁判のやり直しを認める決定を出した。
しかし、検察はこれに不服を申し立て、「裁判をやり直すか」は大阪高等裁判所に委ねられることになった。

そして27日、大阪高裁(石川恭司裁判長)は検察側の即時抗告を棄却し、裁判のやり直しを認める決定を出した。

弘さんの長男・弘次さんは再審開始の喜びを電話で伝えた。

長男・阪原弘次さん:
ばぁちゃんか?即時抗告棄却になった再審が開かれるで。良かったなぁ

長男・阪原弘次さん:
この決定は我々よりもむしろ母が待ち望んだ決定なので、母に良い決定をできたことを嬉しく思います

決定の中で大阪高裁は「引き当て捜査」について金庫の発見現場では「捜査官の誘導があったとまでは認められない」としましたが、遺体発見現場での引き当ては「誘導の可能性を含め、信用性に疑問が生じた」と判断した。

さらに、自白の信用性も揺らいだと指摘したほか、阪原さんが事件当日、「『知人の家で酒を飲んで寝ていた』と主張していたアリバイについても『虚偽』とするのは疑問」などとした。

その上で、「無罪を言い渡すべきことが明らかな証拠が発見されている」と結論付けている。

長男・阪原弘次さん:
1日も早く再審裁判を開いていただいて1日も早い再審無罪の決定。みんながそろって父の墓前に「父ちゃんやったよ。再審無罪やで。これで大手をふって世の中歩いていけるんやで」と言えるような日が1日も早く来ることを願っております

決定を受けて大阪高等検察庁は、「遺憾である。内容を精査して対応を決したい」とコメントしている。

取材した関西テレビ、司法キャップで弁護士資格もある上田記者は、今回の大阪高裁の判断について…

関西テレビ 司法キャップ・上田大輔記者:
一審(大津地裁)は非常に踏み込んだ決定でしたが、今回、大阪高裁(二審)はやや慎重な言い回しもありました。金庫発見現場の引き当て捜査のところは「(捜査官の誘導などを認めた一審の認定を)そのまま認めるわけにはいかない」という部分もあったのですが、結論として再審の開始を認めるということになったのは、長い闘いをされている遺族にとって良かったと思います

起訴から35年、元受刑者の阪原さんは亡くなっているのに今回の判断にここまで時間がかかったのはなぜか?これまでの経緯を説明する。

事件から3年余り経って1988年に阪原さんが逮捕・起訴された。裁判はおよそ12年間行われ2000年に無期懲役の判決が出された。

そして、2001年に阪原さん本人が1回目の再審を請求したが、2011年に阪原さんが亡くなり、この請求に関しては終了ということになった。

翌年の2012年、改めてご遺族が2回目の再審を請求、2018年に大津地裁が再審を開始する決定を出したが、検察側が抗告し、今回、大阪高裁が判断を出した。

起訴から35年、1回目の再審請求から22年、ご本人も既に亡くなっているという状況だ。

「開かずの扉」と言われる”再審” の問題とは

 上田記者はここまで再審に時間がかかってしまう理由について、制度の問題があるとした上で、再審開始までに立ちふさがる「3つの扉」を挙げた。

関西テレビ 司法キャップ・上田大輔記者:
1つ目の扉が「裁判官のやる気」です。再審を定める法律の中に、再審の制度に関しては、ほとんど明確なルールが書いてないんです。そのため、どのように手続きを進めていくかについては裁判官次第なんです。裁判官も人なんで、(再審を)やる気のある人、ない人に分かれ、裁判官のやる気次第…というのが現実としてあります。(再審をしないで)そのまま放っておいて、異動していく裁判官もいます

このように再審は、担当の裁判官の判断によるところが大きく「再審格差」ともいわれている。

関西テレビ 司法キャップ・上田大輔記者:
2つ目の扉が「眠れる証拠」です。結局、証拠は捜査機関側が持っている。最初の裁判で全てが開示されない。眠っている…開示されていない証拠の中には阪原さんにとって有利な証拠もたくさんあるわけです。そういったところを結局ルールがないので、それをどうやって開示していくか定められていない。日野町事件の場合も最初の再審請求では出てこず、2回目の再審請求で裁判官が促してようやく「引き当て捜査」のネガ写真が出てきたんです

関西テレビ 司法キャップ・上田大輔記者:
そして、3つ目の扉が「開始決定出ても続く検察の抗告」。まず、分かりにくいのですが、今回の判断は“裁判をやり直すかどうか”の手続きでした。やるかどうかで「やります」と再審決定が出てもう一回、公開で普通の裁判を地裁・高裁・最高裁とやり直す…で、検察は抗告を続ける。ルールはそうなっているが問題が多いといわれています

今回、再審決定が出た日野町事件、今後どうなるのか?今のところは再審決定を受けて検察側は「遺憾です。決定内容を精査して対応」としているが、検察が最高裁判所に特別抗告した場合、また年単位で時間がかかって、最高裁が再審するかどうかを決定する。そして最高裁が再審開始を決定して、そこから再審がようやく始まることになる。

関西テレビ 神崎博デスク:
(再審をするかしないかについては)、裁判所の面子(メンツ)というものも背景にあるという話がありましたが、検察側も抗告しないと結果的に先輩や上司の“誤り”を認めてしまうことになる。検察の組織を守るために抗告せざるを得ない…という状況も(背景に)あります

関西テレビ 司法キャップ・上田大輔記者:
法律上、再審請求をできる者として最初に書かれているのは、被告本人でも家族でもなく検察官なんです。これは無実の人を罰しないために、無実の人を(判決の)後からでも救済しようとする制度なんです。この意味もあらためて考えて対応してもらいたい

海外の事例ですが、イギリスやアメリカの一部の州では、第三者委員会が設置され、そこが別途、再審請求を受けて再審査を命じるといったシステムがあったり、検察庁の中に再審が必要な事例を調べるような“自分たちの誤りを正そうとする”部署を置いているところもあります。そういった改革が日本でも将来的には必要だと思います

(2023年2月27日 関西テレビ「報道ランナー」放送)

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