通常の2倍ほどの値段にも関わらず飛ぶように売れる人気のトマト。生産している佐賀市の農家の男性は、実はトマトアレルギーだ。「味は客に教えてもらう」と対面販売に力を入れている農家のこだわりを取材した。

栽培だけでなく販売も自身で

トマト農家・永尾真治さん:
たった一粒のトマトで人の笑顔をつくれるとしたら、こんなに楽しいものはないな

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笑顔でトマトを収穫しているのは、佐賀市の農家・永尾真治さん。「永尾産ち」という農園を営みながらトマトなどを栽培する一方、客への販売も自身で行っている。

トマト農家・永尾真治さん:
みなさんおやつ感覚で食べられて、こっちはサラダとかパスタとか、あとお酒飲む方はこっちが良い、こっちは昔のトマトの青臭いのが好きな方

佐賀市のショッピングモール。永尾さんが売っているのは、自身の農園で栽培した「ドトマト」だ。

トマト農家・永尾真治さん:
お客さまが「ドってなに?」って、ここ(売り場の前)に止まってもらったときにお話してもらえるように、「何だと思います?」っていうかんじになり、お客さまと言葉のキャッチボールができるように“ドトマト”っていう商品名を決めました

時間と手間かける分 価格は2倍超

ドトマトは3種類の大きさがあり、値段は約100グラムで260円からと、スーパーで売られているものと比べると2倍以上だ。

トマト農家・永尾真治さん:
お客さまがおいしいものを食べたいって言われるようであれば、その分、時間・お金がかかった分いただきますっていうことで、正常な金額をいただく。多分、これ(トマト)を100円にすることもできます。ただそのかわり、来年はこのトマトをつくることは不可能です

土づくりや肥料づくりなどに時間と手間をかけるほか、水をやるのは年1回という方法で栽培されているドトマト。試食をした客が次々と手に取り、購入していく。

購入した人からは「普通のトマトと全然味が違って、とてもおいしかったです。甘かったです」、「ちょっと値段は高めだけど、おいしいので買いますね」、「トマトだいすき」といった声が上がっていた。

また、「ぼく飲食店を経営しているんですけれども、ドトマトをお客さんに出すとかなり喜んでもらえます。(永尾さんの)人柄も素晴らしい」、「ひ孫がこのトマトしか食べない。他のトマトは酸味が強かったか、なんか知らないけど、これだとバクバク食べて。(永尾さんは)楽しい人、気さくな人、真面目な人」などの声が聞かれた。

永尾さんは、定期的に県内外の商業施設で対面販売をしていて、この日は用意していたあわせて約130kgのトマトが4時間ほどで完売した。
客が「べた褒め」するトマトの味。実は永尾さんにはその味が、とある理由から分からない。

トマトアレルギーでも「農園継ぐ決意」

トマト農家・永尾真治さん:
(自分が)トマトを食べられない、味がわからないので、お客さんに味を教えてもらいたいっていうのと、全部最終的な答えはお客さんが持っているなということで、対面で話しながら、答えを聞きながら

両親が農家をしていて、子供のときに毎日たくさんのトマトを食べ過ぎ、アレルギーになったという永尾さん。代々続いてきた農園を継いだのは、33歳のときだった。

トマト農家・永尾真治さん:
農園を継ぐ前は、車の板金塗装整備を行っていました

3人兄弟の末っ子ということもあり、農園を継ぐつもりはなかったが、ある事がきっかけで継ぐことを決意する。

トマト農家・永尾真治さん:
ここのハウスが、11年くらい前に漏電から火事になりました

火事の煙が充満したハウスの中で、収穫を翌日に控えていたトマトがすべて枯れてしまったという。専業農家だった永尾さんの両親は、ひどく落胆した。

トマト農家・永尾真治さん:
父母も今まで専業農家で、私たちを育ててくれたというのもあり、なにもせず「農業は嫌だ、したくない」というよりは、「やってみよう、まずやってみよう」と思ってスタートしました

農園を継ぐという永尾さんの決断に対し、周囲の反応は決して良くなかった。

トマト農家・永尾真治さん:
(農業は)「重労働よね」。休みもなく、働いている時間も長く「意外にもうからないよね」と仲間からよく言われていました

そんな中で農家になり、10年以上がたった永尾さん。「農家になったらもうからなかった」と自虐的に話しながらも、今では「農業が一番楽しい」と笑顔で話す。

トマト農家・永尾真治さん:
作物ひとつ、たった食べ物ひとつで人の笑顔をつくることができる、つくりがいがある、ものすごくやりがいがある仕事だなって思っています

永尾さんは、そんな農業の楽しさを知ってもらうことが、農業の未来につながっていくと考えている。

トマト農家・永尾真治さん:
農家が目いっぱい楽しんでもらう、楽しんでもらった中で、そういう姿を見た子どもさんたち、大人が「ああいう職業いいね」って言えるような職業に

(サガテレビ)

サガテレビ
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