パリ五輪、大注目の新競技「ブレイキン」。DJが流す即興の音楽に合わせ、1対1でダンスを踊り合い、勝敗を決する。そんなブレイキン界で“金メダル候補”と言われているShigekixに迫った。

「ブレイキン」ルーツは1970年NYのギャング抗争

その始まりは、意外なもの。1970年アメリカ・ニューヨークでギャング同士の抗争が激化する中、血を流さず平和的に解決する手段としてダンスバトルを用いたのが「ブレイキン」の起源。カルチャーとして生まれ、今では、“オリンピック競技”になるまで発展し、進化を遂げた。

「ブレイキン」は大きく分けて4つのスタイルから構成される。立った状態でステップ、流れに入るまでの立ち踊り「トップロック」。地面に手を突いた状態で足さばきやステップを繰り出す「フットワーク」。頭や背中、肩など様々な部分で回転するブレイキンの代名詞「パワームーブ」。一連の流れから音に合わせて動きを一瞬で固めて止める「フリーズ」。これらの要素を、難易度・オリジナリティ・完成度などの観点で採点し優劣をつける。

Shigekix(シゲキックス)こと半井重幸(20)
Shigekix(シゲキックス)こと半井重幸(20)
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そんなブレイキン界で今、世界を席巻してるのが、Shigekix(シゲキックス)こと半井重幸(なからい・しげゆき)。弱冠20歳にして世界大会の優勝は、なんと46回。2020年には世界で最も権威のある大会「BC One World Final」を史上最年少となる18歳で制覇した。

Shigekixのルーツは大阪の広場
Shigekixのルーツは大阪の広場

そんな男のルーツは、地元・大坂のとある広場。

「自分の原点と呼べる場所の一つ」

西日本でのいわばダンスの聖地はJRなんば駅に隣接した施設OCAT
西日本でのいわばダンスの聖地はJRなんば駅に隣接した施設OCAT

西日本でのいわばダンスの聖地、JRなんば駅に隣接した施設OCAT。

Shigekix(当時7歳)
Shigekix(当時7歳)

幼少期からの練習仲間・Hi-Hatさんは「Shigekixは練習バカ。練習バカ。絶対に出来るようになるまでやり続ける感じは今も変わらず、ずっと」と語る。

“ダンスの聖地”で踊るShigekix
“ダンスの聖地”で踊るShigekix

「世界で最もかっこよくて最高で最強のBBOYになりたい」

先日行われた全日本選手権。大阪が生んだ世界のブレイキンヒーローは自分だけの理想を求め、刺激的に決めて見せた。

「気持ちで戦った」全日本選手権決勝

「最強」を証明するため、19日に第4回全日本ブレイキン選手権男子決勝(代々木第二体育館)に臨んだShigekix。

3ラウンドのバトルで勝敗を決める決勝戦。即興で流れる音楽に合わせ、いきなりキレッキレの「パワームーブ」を見せる。

そして2ラウンド目、ここでShigekixは上着を着る。

――上着を着た意図は?
これはオリジナルムーブとしてやっている『ホールド・ドリル・トゥ・Aトラックス』をするためには長袖で踊るのが最適。自分の練習の中で見いだした“答え”です。

さらに「パワームーブ」の連続技を次々に決めると、ここでShigekixの代名詞「FREEZE」を出す。

――ここで「FREEZE」
曲調が変わった瞬間に即興で対応した動きです。これぞ“音楽とFREEZEの調和”かと思います。

そして最終3ラウンドは、さらにギアを上げる。この日だけで、なんと7ラウンド目。

それでも、一切変わらない「動き」を見せる驚異の「体力」そして再び、今度はビタ止めの「FREEZE」。

――ラストバトルはどんな気持ちで?
メンタル的にもフィジカル的にもかなり疲れている状態ではあったんですけど、泣いても笑ってもラスト一戦ということで逆に決勝戦は疲れなかったです。

「気持ちで戦った」と語った決勝バトルの結果は3対0の完勝。Shigekixは見事に全日本選手権3連覇を成し遂げた。

馬並みの脚×バキバキ腹筋×手のマメ

Shigekixが3連覇を成し遂げた全日本選手権。その第1回大会で優勝し、今大会も3位決定戦を制したのはShigekixの姉・AYANE/半井彩弥(25)。

同じブレイクダンサーとして活躍するAYANEに弟について聞いた。

Shigekixの姉・AYANE(25)
Shigekixの姉・AYANE(25)

――AYANEさんからみた弟のスゴさは?
筋肉がスゴい!
腹筋とか代表的にあると思うんですけど、私がいつも目がいくのは脚。
脚のふくらはぎが「馬」みたいになるんですよ。「筋肉だけがあります」みたいな締まり具合になっていて、「おかしいやん!その脚」みたいのでネタにするのは脚です(笑)。

手もすごくてマメとか手のひら皮の厚さがゴツゴツしている。
ずっと床を触ってるので「パワームーブ」とか「フットワーク」とか毎度、驚かされますね。

Shigekixの左手のマメ
Shigekixの左手のマメ
Shigekixの右手のマメ
Shigekixの右手のマメ

実際にShigekixの手を見せてもらうと、両手の中指の下あたりに大きなマメがあった。

「ブレイキンの中でフットワークという動きをする時に、『突き手』と言って地面にこの部分を着けて体重を支えるためできるマメです」

Shigekixの腹筋
Shigekixの腹筋

さらに腹筋を見せてもらうと見事に8パックに分かれていた。

「(テレビで見せるのは)ありがたい気持ちと恥ずかしい気持ちが同時にあります(笑)。ブレイキンの動きの影響で、腹筋の位置が(左右で)少しずれているんです」

Shigekixのふくらはぎ
Shigekixのふくらはぎ

姉・AYANEが最も評価していた“ふくらはぎの筋肉”も、腓腹筋が二つに分かれているのが分かるほど盛り上がっていた。

――普段の練習量は?
踊っている時間だけで3時間。ブレイキン以外の体のアプローチも取り入れています。いわゆるダンベルを持ち上げるみたいな“ウエイトトレーニング”はあまりしないですが、全身運動で20分休憩なしで動き続けたりする“サーキットトレーニング”は取り入れています。

「世界中に色々な影響を与えていきたい」

Shigekixのインスタグラムには…

Shigekixのインスタグラム
Shigekixのインスタグラム
イタリアで踊るShigekix(インスタグラムより)
イタリアで踊るShigekix(インスタグラムより)
インドで踊るShigekix(インスタグラムより)
インドで踊るShigekix(インスタグラムより)

ニューヨーク・タイムズスクエアで踊っているかと思えば、アメリカ西海岸・カリフォルニアのヴェニスビーチやイタリアでは子供たちの輪の中で、さらにはインドのムンバイで練習するなど、まさに世界各地のストリートに神出鬼没で踊る様子が投稿されている。

――世界中で踊ろうと思ったきっかけは?
いま、大会にたくさん注目していただいていて、すごくありがたいんですけど、大会だけに限らず、“ダンス”自体が一つの世界共通言語のように、ダンスしてるだけで通じ合えるコミュニティーがすごく大きい。
子供たちもそうですけど、ブレイキンで世界中に色々な影響を与えていきたい。そういう思いで活動をさせてもらってます。

――子どもたちの興奮している姿が印象的でした
僕自身もブレイキンに出会って人生がすごく楽しくなったんで、同じように世界中の子供たちがそういう風に自分の活力になったり、熱中できるものに出会えてもらえたらうれしいな、そのきっかけになれたらうれしいな、そういう気持ちでやっています。

オリジナル技「タッチ チェアトラ」とパリ五輪

若干20歳にして世界を46回も制したShigekixの得意技は「タッチ チェア トラックス」(通称:タッチ チェアトラ)。

彼のオリジナル技だ。

そもそもの「チェア トラックス」はブレイキンの花形、頭や肩で回転する「パワームーブ」における一つの動き。脇腹を肘で支えて手だけで回る技。

その「チェア トラックス」に“タッチ”を加わえたのが「タッチ チェア トラックス」

「チェア トラックス」の前に“両手で両足をタッチ”するという世界中で誰もまだしていなかった動きをShigekixが生み出した。

「タッチ チェア トラックス」解説画像①:まずはヘッドスピンをする
「タッチ チェア トラックス」解説画像①:まずはヘッドスピンをする

①まずは「ヘッドスピン」をする。

「タッチ チェア トラックス」解説画像②:ヘッドスピン中に両足先を両手でタッチする
「タッチ チェア トラックス」解説画像②:ヘッドスピン中に両足先を両手でタッチする

②「ヘッドスピン」中に両足先を両手でタッチする。

「タッチ チェア トラックス」解説画像③:タッチした後に「チェア トラックス」
「タッチ チェア トラックス」解説画像③:タッチした後に「チェア トラックス」

③タッチした後に片手で体を飛ばして反対側の手で床に手を突いて「チェア トラックス」をする。

この3段階で構成されるものだという。

実際に「タッチ チェア トラックス」を実演しながら解説をしたShigekixは「筋力とバランスとタイミングの全てがかみ合ってできる動き」と話した。

この“唯一無二のスゴ技”で何度も頂点に輝いてきたShigekix。今回3連覇を成し遂げた第4回全日本選手権も「色々な思いがあって挑んだ大会」だったという。

パリ五輪については「今までやってきたこと、今もやっていることを今後もやっていくのが自分の進むべき道だと思うので、オリンピックだけを目指すのではなくて少しずつ少しずつステップアップして噛みしめながら成長していきたい」と冷静にそれでも熱い思いを語ったShigekix。

“五輪だけではない”彼の刺激的なアクションひとつひとつにこれからも注目だ。

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