LGBT法案は今国会で通るのか

首相秘書官による性的少数者(LGBT)や同性婚をめぐる差別発言をきっかけに、岸田文雄首相はLGBT理解増進法案についての議論を進めるよう、自民党に指示した。この法案は今国会で通るのだろうか。

法案は2021年に超党派でまとめられたのだが、自民案になかった「差別は許されない」との文言が加わったことに自民の一部が反発し、結局法案提出はできなかった。

自民が反対した理由は、「差別は許されない」という言葉が入ることで、「差別された」という訴訟が増えて社会の分断を招いたり、急激な変化で社会が混乱するなどというものだった。

「差別と感じたら差別」

当時幹事長代行だった野田聖子氏は「内心の自由はあるが、本人たちが差別だと感ずることについては差別なんだと。それは無くしていかないといけない」と述べている(21年5月24日付産経新聞)。これは野田さんの言うとおりだと思う。

野田聖子氏
野田聖子氏
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ただ訴訟ということになると、訴えた方は差別だと感じて訴えるが、訴えられた方は差別の意識は全くなかったということも起こるだろう。まさに人の「内心」を司法が判断しなければならなくなる。これは社会の分断を招くかもしれない。

同性婚や性的マイノリティーについての差別発言で首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏
同性婚や性的マイノリティーについての差別発言で首相秘書官を更迭された荒井勝喜氏

先日夕刊フジに、首相秘書官の発言のオフレコ解除に関するコラムを書いた。大意は以下の通り。

毎日新聞は秘書官の発言が「重大」と判断したのでオフレコ解除したのだが、確かに「重大」なオフレコ情報を国家権力とメディアが国民から隠すことに、不快感を持つ人は多いだろうから、「オフレコ解除」を否定はしない。

問題は何が「重大」なのかを誰が決めるのかということで、もしメディアが恣意的にオフレコ解除するのであれば、オフレコ取材に応じる人はいなくなるだろう、という話だ。

これに対し読者の方から面白いコメントを頂いたので紹介する。

「オフレコでの話だったということは秘書官も公には宜しくない内容だということはわかっていたわけで、いわば内心の話を表に出したようなもの。立派な見解であるとはとても言えないが、それでもその価値観に基づいて政策なり立案をしたということが明確でないうちは周囲がそれを断罪することはできないだろう。」

心の中にあることを罰するのですか

このコメントに対し「でも口に出した時点でダメ」と反論があるのはわかっているのだが、オフレコ懇談というのは本来「存在しないもの」「口に出してないもの」なのだ。

だから2002年に当時の福田康夫官房長官が、オフレコで「政府首脳」として懇談し、非核3原則見直しとも取れる発言をした際、批判された福田氏がその後の会見で、「政府首脳に聞いたが確認できなかった」と答えて、一人二役を演じたのは有名な話だ。

官房長官時代の福田康夫元首相(2002年)
官房長官時代の福田康夫元首相(2002年)

つまり秘書官は「内心」を本来「存在しない」はずのオフレコ懇談の席で口に出した。これは本当に差別に当たるのだろうか。 

永田町は今やLGBT法案を通さなきゃダメ!という空気である。野党だけでなく、与党の公明党、自民党内からも賛成の声が上がっている。期限を切ってやろうという人もいる。

実際に差別を受けて苦しんでいる人はいるのだからこのままでいいわけはない。僕は理解増進法を作るのは賛成だし、文言についても与野党で話し合えばいいと思う。ただこれがもし低支持率の岸田政権が、春の統一地方選に向けての「人気取り」で拙速に進められているのだとしたら、それは少し考えたほうがいい。

もし選挙目当てで我々の内心の自由が制限されるなら、それは本末転倒の話だ。心の中のことは期限など切らず、落ち着いて議論すべきだ。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

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平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。