東京・歌舞伎町の新宿東宝ビル横の広場、通称「トー横」。家庭や学校で居場所を失った若者が、数年前から集まるようになった。

東京・歌舞伎町の広場、通称「トー横」 家庭や学校で居場所を失った若者が集まる
東京・歌舞伎町の広場、通称「トー横」 家庭や学校で居場所を失った若者が集まる
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そこで問題となっているのが、多発する傷害事件やトラブルだ。こうした若者が集まる場所は、トー横だけではない。

大阪・ミナミのシンボル、道頓堀グリコサインの下、通称「グリ下」。ここでも、30歳くらいまでの若者が昼夜を問わず数十人集まってくる。

大阪・ミナミの道頓堀グリコサインの下、通称「グリ下」 ここにも昼夜を問わず若者が集う
大阪・ミナミの道頓堀グリコサインの下、通称「グリ下」 ここにも昼夜を問わず若者が集う

未成年が飲酒 薬物過剰摂取でビル飛び降りも

取材班:
何歳ですか?

少女:
14です。

半年前から、週に3回「グリ下」に通うという少女
半年前から、週に3回「グリ下」に通うという少女

取材班:
いつからグリ下に?

少女(14):
半年前から。週に3回は絶対に行ってます。みんなで喋って、お酒飲んでるみたいな。

14歳の少女は週に3回、グリ下に通い飲酒までしているという。そんなグリ下で最近、未成年の飲酒同様、問題となっているのが…。

未成年飲酒と同様、問題になっている薬物の過剰摂取「OD=オーバードーズ」
未成年飲酒と同様、問題になっている薬物の過剰摂取「OD=オーバードーズ」

少年(17):
今はODが主流というか、楽しくなる方法というか。前はみんなでお酒飲んでたと思うけど、いまはODばっか。

「OD=オーバードーズ」とは、薬物の過剰摂取のこと。グリ下には、風邪薬などの市販薬を大量に持っている若者が多くみられた。何に使うのか。

少年(17):
最近は2シートじゃパキれ(=ハイになる)なくなってきたから、4シート40錠ぐらい。不思議な気分。全てから解放される感覚。

少年「4シート40錠ぐらい。全てから解放される感覚」少女「みんなでパキったほうが楽し。もう宇宙見えるっす」
少年「4シート40錠ぐらい。全てから解放される感覚」少女「みんなでパキったほうが楽し。もう宇宙見えるっす」

少女(14):
みんなでパキったほうが楽しいです。もう宇宙見えるっす。

取材班:
(ODで)病院に運ばれる子は?

少年(17):
いますよ運ばれる子は。この前、心臓止まった子もいるし、夢と現実が区別できない子もいる。

少年「病院に運ばれる子はいる」 集団ODで気持ちが高ぶり、ビルから飛び降りた若者も
少年「病院に運ばれる子はいる」 集団ODで気持ちが高ぶり、ビルから飛び降りた若者も

集団で薬を大量に飲んで、気持ちを高ぶらせる。しかし、それが原因でビルから飛び降りてしまった若者もいると話す。気づけば深みにはまっている。そんなグリ下から抜け出そうと、もがく人がいた。

自己嫌悪で死を考え…再起へ弁護士がサポート

19歳のかなとさん(仮名)。1年前に福岡から家出してきたというが、その理由は。

模試の結果などがプレッシャーに 「もう無理だってなって抜け出してきました」
模試の結果などがプレッシャーに 「もう無理だってなって抜け出してきました」

かなとさん(19・仮名):
偏差値65から75の進学校だったから。常に勉強がある。模試の結果だったりとか、そういう一つ一つがプレッシャーになっていて。もう無理だってなって抜け出してきました。

SNSでの交流をきっかけにグリ下へ行くように 「対等にしゃべれることが、安心したりもしました」
SNSでの交流をきっかけにグリ下へ行くように 「対等にしゃべれることが、安心したりもしました」

かなとさん(19・仮名):
孤独に感じてたんです、大阪に来て。それでツイッターでつながって、グリ下に行くようになっちゃって。対等にしゃべれるってことが、自分の中で安心したりもしましたね。

安心感をもたらしたというグリ下。しかし、当時、生活のために働きはじめたホストクラブで、かなとさんは再び精神的に追い込まれたという。

生活のためホストクラブで働きはじめたが「(情緒不安定な客に)店内でリストカットされたり…」
生活のためホストクラブで働きはじめたが「(情緒不安定な客に)店内でリストカットされたり…」

かなとさん(19・仮名):
(情緒不安定な客に)店内でリストカットされたり。そういうことが起きて自己嫌悪に陥って、自分なんかと思って。死のうかなとか、思ったりとかしました。

ホストクラブでの出来事に自己嫌悪に陥り「自分なんかと思って」
ホストクラブでの出来事に自己嫌悪に陥り「自分なんかと思って」

絶望して死のうと考えたことも。そんな時、手を差し伸べてくれた人がいた。

田村健一弁護士:
寝坊した?しゃーなしや。

かなとさんが生活を立て直せるようにと、2002年の春ごろからサポートしている弁護士の田村健一さん(42)だ。

「(夏に)話した時は、死ぬことじゃなくて、どう死ぬかをずっと調べていた状態だった」
「(夏に)話した時は、死ぬことじゃなくて、どう死ぬかをずっと調べていた状態だった」

田村健一弁護士:
(夏に)話した時は、死ぬことじゃなくて、どう死ぬかをずっと調べていた状態だった。河川敷で全然、目線も合わなかったし。目に力ないし。

グリ下から抜け出すため、田村さんは、かなとさんに信頼できる大人たちと会わせた。飲食店の経営者や…。

「(人生の選択は)楽な方ではなく、楽しい方を選びましょう」かなとさんを信頼できる大人に会わせる田村弁護士
「(人生の選択は)楽な方ではなく、楽しい方を選びましょう」かなとさんを信頼できる大人に会わせる田村弁護士

飲食店経営者:
(人生の選択は)楽な方に行くんじゃなく、楽しい方を選びましょう。しんどい方に行きがち。じゃなくて、どっちか自分が笑える方に行こう。

「それが絶対、きっかけだと思ってて」
「それが絶対、きっかけだと思ってて」

かなとさん(19・仮名):
今まで、楽して笑う方選んじゃって。それで今こうなっちゃってるのかなって。それが絶対、きっかけだと思ってて。

IT関連会社の社長とも面会
IT関連会社の社長とも面会

IT関連会社の社長など、グリ下にはいなかった大人たちと会うことで、かなとさんを取り巻く環境が変わっていった。

かなとさんは「悪い大人ばかり見てきてる」
かなとさんは「悪い大人ばかり見てきてる」

田村健一弁護士:
悪い大人ばかり見てきてるんで。本当はもっといい大人がたくさんいるよってところを見せられる。説得力があると思う。

生活苦で悩みも資格取得へ「自分も変わろう」

田村弁護士と出会って半年以上が経ったこの日。かなとさんは、ある決意を打ち明けた。

田村弁護士と出会って半年以上、かなとさんの決意「宅建の資格とか取りたいんですよ」
田村弁護士と出会って半年以上、かなとさんの決意「宅建の資格とか取りたいんですよ」

かなとさん(19・仮名):
やっぱ、改めて大学行こうかなと思って。自分でも取りたい資格があって、宅建の資格とか取りたいんですよ。

前を向き始めたが悩みも
前を向き始めたが悩みも

ついに前を向き始めたかなとさん。しかし、同時に悩みも…。家賃滞納が続き生活費もなく、家も追い出される寸前だ。

「性格上、頑張り屋さんで色々やってしまう。一緒になって考えていく」
「性格上、頑張り屋さんで色々やってしまう。一緒になって考えていく」

田村健一弁護士:
性格上、頑張り屋さんで色々やってしまう。今回、一緒になって考えていくけど。大学・資格・家賃。家賃のことは俺がなんとかするって。どこだったら自分がテンション上がって、「いくぞ!」となる大学があるか調べること。早く本屋行こう。私からのプレゼントは甲南大学と近畿大学の赤本。

「どこだったら自分がテンション上がって、いくぞ!となる大学があるか調べること。早く本屋行こう」
「どこだったら自分がテンション上がって、いくぞ!となる大学があるか調べること。早く本屋行こう」

新たな人生を手にするため、踏み出した大きな一歩。

勉強時間が確保できるなど融通が利くアルバイトを探し、全力でサポートする田村さんの姿に、かなとさんは…。

「初歩的なことですけど、グリ下には行かないようになった」
「初歩的なことですけど、グリ下には行かないようになった」

かなとさん(19・仮名):
救いの手を差し伸べてくれたから、自分も変わろうと思って。初歩的なことですけど、グリ下には行かないようになった。

居場所をなくした若者がたどり着く場所。その深みにはまる前に救い出すことが、大切なのかもしれない。

(「イット!」2月3日放送)