子育てのバラマキ合戦?

昨年10月に年収1200万円以上の家庭の児童手当(5000円)が廃止されたのだが、今年になって小池百合子東京都知事が所得制限なしの月5000円の児童手当を表明。さらに岸田文雄首相が「異次元の少子化対策」を打ち出したと思ったら、茂木敏充自民党幹事長が、国の児童手当の所得制限について「撤廃すべき」と述べて拍手喝さいを浴びた。

児童手当の“所得制限撤廃”を主張した自民・茂木幹事長(25日)
児童手当の“所得制限撤廃”を主張した自民・茂木幹事長(25日)
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なんだかバラマキ合戦のようにもなっているが、先行した小池知事が「本当は国がやらないといけないんだろうけど、国がやらないので都が独自でやります」とあおったのは小池さんらしくて面白かった。

少子化対策について「国が遅い」と述べた小池知事(13日)
少子化対策について「国が遅い」と述べた小池知事(13日)

ケンカを売られた国は面白くないだろうからどうするのだろうと期待していたら、「温和」な岸田首相はともかく、「剛腕」の茂木氏は我慢ならず大盤振る舞いの発言になったのだろう。

確かに日本はシルバー民主主義の国で、医療、年金、介護など高齢者への手厚い社会保障は世界一なのに、子供に使うお金は他国に比べて少ない。だから児童手当の所得制限を外すくらいは当然なのだろう。

ただ子育てに関係ない人たち(高齢者、子供のいない人)にとっては、しかも生活が決して楽ではなかったら、自分の払う税金や保険料が年収1000万も2000万も稼いでいる人たちに持っていかれるというのは納得できないかもしれない。

5000円もらえたら子供作りますか?

もう一つの疑問は、そもそも年収1200万円の人にとって月5000円の児童手当をもらえることが子作りのインセンティブになるのか、ということだ。

岸田政権の少子化対策は他にも色々あって年間の費用が数兆円に上るらしいのだが、財源の対象はこれまで子育ての費用を負担してきた国、地方、社会保険を念頭に置いているということで、つまり歳出削減(国と地方)、社会保険料の増額(国民と企業)であり、さらに国債発行もあり得るということだった。場合によっては増税もあるかもしれない。

財源を広く求めることについて政府は「子供への投資は返って来る」と説明している。確かに子供が成長して働いて税金や社会保険料を払えば社会にとってはリターンとなる。ただ投資という考え方をするならすべての子供に手当を配るのではなく教育費の方を増やすべきだろう。

投資にはリターンが必要

米国の研究では高等教育を受けた子供は受けない子供より、成人後の納税額が高く、さらに罹病率や犯罪率は低いという統計がある。納税額は当然だが、罹病率や犯罪率は意外に重要で、これらが下がれば社会的なコストが下がる。

おそらく高等教育だけでなく初等、中等教育でも投資すれば社会は確実にリターンを得られるのだろう。

低所得で生活継続が困難な子供達に国が手厚く支援するのは当たり前のことだ。その上で教育への投資として、成績がいいのに家にお金がなくて大学に行けない子、小学生や中学生でもっと勉強したいと思っているが塾に行けない子たちにもっと助成をすべきなのだろう。ただその場合の基本は「やる気のある子」を助けるということだ。

子育て世代に広く薄くお金をばらまくよりも…
子育て世代に広く薄くお金をばらまくよりも…

子育て世代に広く薄くお金をばらまくより、「子供の教育には国が責任を持つ」という意志を国が示した方が子供を作るインセンティブになるのではないか。

子育て政策は負担する側も受け取る側も納得できるものにした方がいい。だからバラマキでなく投資でなければならないのだ。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。