力強さやカッコよさから、子どもたちに人気の昆虫、カブトムシ。生態は“夜行性”とされてきたが、常識を覆すような新説が唱えられた。

カブトムシは実は昼ごろまで活動できるが、オオスズメバチの脅威によって、夜行性を“強いられている”というのだ。山口大学大学院・創成科学研究科の小島渉講師が発表し、2022年11月、米国の生態学専門誌「Ecology」に掲載された。

昆虫の王様、カブトムシが数分で退散

なぜこんな説を唱えたのか。発表内容などによると、小島講師は2022年8月中旬、山口県内のクヌギ林でカブトムシを観察していた。

オオスズメバチに囲まれるカブトムシ(提供:小島講師)
オオスズメバチに囲まれるカブトムシ(提供:小島講師)
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当時は1本の樹木に10頭以上が集まって樹液を吸っていたが、午前5時ごろに数頭のオオスズメバチが来ると、カブトムシの脚にかみついて次々と木から落とし、数分で場所を乗っ取ってしまったという。

樹液はオオスズメバチが占領(提供:小島講師)
樹液はオオスズメバチが占領(提供:小島講師)

さらに、地上に落下した後も攻撃する様子もあったとのことだ。こうした現象は、観察を行った 数日すべてで見られたという。

陽がのぼってから樹液を楽しむカブトムシ(提供:小島講師)
陽がのぼってから樹液を楽しむカブトムシ(提供:小島講師)

そこで、スズメバチ除けのスプレーを使い、明け方からオオスズメバチが近寄るのを阻止したところ、カブトムシの半数以上が正午まで、樹液が出る場所に留まり続けたという。こうした結果から、カブトムシは攻撃を受けなければ昼間も活動する可能性が示されたという。

カブトムシは“昆虫の王様”と呼ばれることもあるだけに、ネットでは「ショックだわ…」といった反応も見られた。力強いイメージにもかかわりそうなものだが、オオスズメバチとどちらが“最強”なのだろうか。

樹液が出る場所は競争が起こりやすい

オオスズメバチと対峙する背景、カブトムシの活動時間などを、小島講師に聞いた。

――カブトムシの活動時間を調べたのはなぜ?

オオスズメバチとの争いを、明け方に見たことがきっかけです。カブトムシは夜行性といわれますが木からどんどん排除されていたので、本当にそうなのかな?と思いました。私たちは数年前、カブトムシがクヌギ以外の木に来た時、昼間も餌を食べ続けることを発見して論文も出しまました。それもあり、完全な夜行性かを確かめたいと思いました。
 

――実際の調査はどのように行われた?

調査期間は2022年8月15日~20日のうちの数日です。オオスズメバチは昼行性で、明け方から日没ごろまでは活動をしますが、調査時は午前5時ごろになると樹液に集まってきました。スズメバチ除けのスプレーで追い払うことを昼ごろまで続け、カブトムシの数を確認しました。

オオスズメバチは顎の力が強いという(画像はイメージ)
オオスズメバチは顎の力が強いという(画像はイメージ)

――カブトムシとオオスズメバチはなぜ対峙する?

クヌギは樹液が出る場所が限られ、もともと競争が起こりやすい環境です。カブトムシとクワガタムシなどが遭遇して戦うこともあります。また、オオスズメバチは顎の力が強く、自分たちで樹皮を削って樹液を作り出すことがあります。オオスズメバチの攻撃は執拗だったので、今回の調査場所がそういうところだった可能性もあります。

オオスズメバチの攻撃にカブトムシは抵抗できない

――カブトムシは本当に強い?王様ではないの?

樹液が出る場所(樹液に集まる昆虫)で考えると、カブトムシは強い昆虫です。例えば、クワガタムシは好戦的に仕掛けることもあるのですが、カブトムシが来ると追い払われてしまいます。

オオスズメバチは脚をかむ(提供:小島講師)
オオスズメバチは脚をかむ(提供:小島講師)

――オオスズメバチにはどうして負けてしまう?

脚をピンポイントでかんでくるところですね。純粋な力で考えると、カブトムシが強いのかもしれませんが、オオスズメバチはちょこまかと動いて弱点をついてくる。その攻撃にカブトムシは抵抗できないんです。相撲で例えると、反則技のようなものかもしれませんね。
 

――オオスズメバチは夜中に樹液の場所に来ることはないの?

オオスズメバチは昼行性で、視覚に頼るところが大きい昆虫です。夜の真っ暗な環境では何も見えないと思われるので、そうした状況で戦うことは想定できません。

天敵に退散して活動を早く切り上げる

――カブトムシは周囲に脅威がないと、どのくらいの時間活動する?

原則的に20時ごろから翌日の午前5時ごろまでが、メインの活動時間で、脅威がない場合は正午ごろまで活動する可能性もあります。脅威があると早く切り上げるイメージでしょうか。

草むらなどに隠れているという(画像はイメージ)
草むらなどに隠れているという(画像はイメージ)

――天敵は他にもいる?カブトムシは昼間どうしている?

オオスズメバチは樹液を争う相手ですが、タヌキやカラスも天敵です。こちらは捕食しようとしてきます。そのためカブトムシは通常の環境だと、昼間は土や草むら、木の上に移動して隠れています。
 

――他の動物や昆虫で、夜行性を強いられているものはいる?

フクロウは同じ餌を食べるタカと競合しないため、夜行性になったと聞いたことがあります。クワガタムシの活動が活発になるのは、カブトムシが少ない時期といわれています。これも、競合しないためといえるかもしれません。

カブトムシの面白さといえるかもしれない(画像はイメージ)
カブトムシの面白さといえるかもしれない(画像はイメージ)

――研究結果を通じて感じたこと、今後の目標を聞かせて。

競争によって活動時間がシフトする、珍しい現象が証明できたと思います。カブトムシという、身近な昆虫の面白さがまた一つ分かりました。今後はこうしたことが普遍的に起こるのか、どういう状況だと昼間もとどまり続けようとするのか。この辺りを調べたいと思います。

 

カブトムシは強い昆虫だが、オオスズメバチとは相性が悪いようだ。本当は昼も活動したいのに早めに切り上げているのかもしれないという一面を知ると、より愛着がわいてくる人もいるだろう。