空いている壁に、新たな価値を生み出す「ウォールアート」。
壁を有効活用し、“壁主”とアーティスト、企業にもメリットがあるという。それぞれの架け橋となる、仕掛け人が目指すものとは?取り組みを取材した。
“壁主”・アーティスト・企業にメリット 街の人もアートに触れる機会に
東京・渋谷の街の中に現れた、高さ約20メートルの巨大なウォールアート。
この記事の画像(10枚)「ウォールシェア」の川添孝信代表は、「空いている壁の新しい有効活用。ミューラル(壁画)に彩ることによって、新しい価値が生まれる」と話す。
巨大なウォールアートの正体は、国内発のオーディオブランド「アビオット」をプロモーションするもの。タイアップアーティストである、アイナ・ジ・エンドさんをモデルにして描かれた。
注目すべきは、このアートが描かれた場所だ。
そこは、渋谷にある立体駐車場の壁。“空いている壁”を利用して、企業プロモーションのアートなどを制作する「ウォールシェア」という取り組みだ。
この取り組みでは、空いている壁を保有している“壁主”が新たな収入を獲得できるほか、アーティストの“新しい活躍の場”が期待できるという。
ウォールシェア・川添孝信 代表:
海外に比べるとやっぱり壁画、ミューラルで活躍できる場所ってまだまだ少ないのが今の日本の現状です。ウォールシェアを通じて、ミューラルという表現方法の新しい場の創出に繋がっていけるんじゃないかなと思っています。
僕らがしっかりアーティストの声を吸い上げながら、ビジネスサイドとしても成り立って、うまく架け橋となるような存在になっていけたらなと思っています。
また、広告を“描いてもらう”企業は、新たな客層へのアプローチを期待している。
プレシードジャパン・土山裕和 代表:
今まで、我々ですとオーディオ製品ですので、オーディオが好きな方とか、イヤホンに興味がある方というのがメインだったんです。だけど、やはりそうじゃない方々との接点として、こういう壁画を使って新しいお客様との出会いがあればいいなと思っています。
街の空いている壁に、アートを描いていくこの取り組み。目指しているのは、日常の中でアートと触れるキッカケ作りだ。
ウォールシェア・川添孝信 代表:
日本ってアート後進国で、やっぱりアートに触れるきっかけが少ないのが現状だと思っています。
その中で、ミューラルはそもそも街にあるので、子供から大人までアートに触れることになる。アートを身近にする一つのきっかけ、アートによる街づくりにも繋がっていくのかなというところに、可能性を感じています。
「バイラル効果」も期待 “宣伝色”弱め街に愛される存在に
「Live News α」では、マーケティングや消費者行動を研究されている、一橋ビジネススクール准教授の鈴木智子(すずき さとこ)さんに話を聞いた。
小澤陽子 キャスター:
空いている壁がアートに変わる試み、どうご覧になりますか?
一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
ウォールアートは、広告としての機能を果たしながら美しい芸術作品でもあるため、様々な目的を果たしています。
例えば、ブランドのエッセンスをアートで表現することで、ブランドのメッセージをより強く印象づけられることが出来ます。
さらに、芸術性が高かったり文化的なテーマが反映されたりするため、ウォールアートに接した方は、自分が受け取ったメッセージを違う誰かに広く伝えたくなる、「バイラル効果」が高いとされています。
小澤陽子 キャスター:
確かに、面白いドラマや美味しい食事などもそうですが、心が動くと、その思いを誰かと共有したくなりますよね。
一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
いま多くのウォールアートは、ハッシュタグを組み込むなどして、人々に写真を撮ってSNSへの投稿を促すなど、ソーシャルメディアとの連携を意識したデザインも増えています。
そして、心が動くことで何らかのアクションを起こすことは、受け身で終わるよりも、ブランドと消費者との間に深い絆をもたらします。
小澤陽子 キャスター:
今回は渋谷での試みですが、ウォールアートが日本でも広がると、街の景色も変わっていくかもしれませんね。
一橋ビジネススクール 准教授・鈴木智子さん:
本当にそうだと思います。
ブルックリンやサンフランシスコなどは、街の景観にウォールアートが溶け込んでいます。
そこで暮らす人たちに愛されているのは、それが広告や宣伝のにおいが弱いことが影響しています。
例えば、スターバックスやディズニーなど、ストリートアーティストと協業するブランドの多くは、ウォールアートを商品やサービスの広告とは考えていません。企業としてのパーパス、つまり“自分たちが何のために存在しているのか”を伝えるコミュニケーションとして、彼らは捉えているわけです。さらに、ウォールアートを通して街を美しく飾ることに大変意義を感じており、地域への貢献活動のひとつとしています。
日本で今後どのように発展するかは、さらなる検討が必要かもしれませんが、地域・企業・アーティストの三者が新しい価値をともにつくりだし、美しい街づくりが進むことを期待したいです。
小澤陽子 キャスター:
ウォールアートの写真は、SNSなどを通じて国境も越えて知ることがありますが、「この絵、有名だけど、どこのどういう絵なんだろう?」と気になって調べてみた時に「実はこんな意味・目的があった」となれば、より印象深く感じます。
その広がりの大きさから、言葉の壁を超えて視覚的に訴えるアートは、今の時代にフィットしているのかもしれません 。
(「Live News α」1月19日放送分より)