今、北海道出身の企業の躍進が止まらない。

特にニトリ、ツルハドラッグなどは、日常的に利用していて、北海道発の企業だと知らない人もいるかもしれない。

売上高1兆円企業の誕生も目前に迫る中、北海道の「小売」、“ノーザンリテーラー”はどのような軌跡をたどり、全国に名を知られるような存在となったのか。

人口減少、少子高齢化などさまざまな課題がある中、どんな逆境でも生き抜く強さを持ち、市場の拡大を続ける“ノーザンリテーラー”がどのように立ち向かってきたのかを記した、日本経済新聞・白鳥和生氏の著書『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)から、コンビニエンスストア「セイコーマート」の取り組みを中心に、一部抜粋・再編集して紹介する。

社会課題に立ち向かう“ノーザンリテーラー”

真の変革者は周辺からやってくる。21世紀に入って存在感を示している小売業の多くも地方出身だ。山口県宇部市の商店街にあったメンズショップが祖業のファーストリテイリングが代表的だが、北海道出身の企業も忘れてはいけない。

家具・インテリアのニトリホールディングス、ドラッグストアのツルハホールディングス、調剤薬局のアインホールディングス、ホームセンターのDCMホールディングスは店舗を全国展開し、売り上げ規模は業種・業態別でトップもしくは2位につける。

スーパーマーケットのアークスは北海道から栃木県まで戦線を伸ばしている。

日本経済新聞社が「日経MJ(流通新聞)」紙上で毎年まとめている「日本の小売業調査」によると、2021年度で売上高50位以内に入る北海道本社もしくは北海道を源流とする企業は5社(ツルハHD、 ニトリHD、アークス、DCMHD、コープさっぽろ)。

総生産が19兆6528億円で、日本全体の名目GDPの3.47%(2018年度)しか占めない北海道経済の位置からすると、北海道の「小売」“ノーザンリテーラー”の奮闘ぶりがわかる。約20年前の2000年度は50社以内に入る北海道企業はゼロだっただけに、バブル崩壊後のデフレ経済下での躍進も目立つ。

北海道発の企業は「アンビシャス」を持つ経営者が多い(画像:イメージ)
北海道発の企業は「アンビシャス」を持つ経営者が多い(画像:イメージ)
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その理由の一つは厳しい自然や経済環境に鍛えられてきたからだ。そして開拓者精神を持って北海道に渡った先祖のように、「アンビシャス」を持った企業経営者が多い。1年の多くの時季を雪に閉ざされつつ広大な大地に住む人々に、小売業の使命として豊かな生活のための商品を届けるため、ノーザンリテーラーは、知恵を絞り仕組みを整えていった。

小売業は「地域産業」だ。出店エリアに根ざさないと商売はできない。ノーザンリテーラーの経営者には「地域愛」があり、人口減少や過疎化、物価高といった社会課題に敢然と立ち向かった。

その結果、広大で希薄な人口、長い冬が「標準」となり、北海道に比べれば環境は穏やかで人口も多い本州は戦いやすい土俵になっていった。 

過疎地へも商品を届けるセコマの執念

北海道は広く、人口密度が薄い。だから物流をいかに効率的な運営にしていくかが小売業として最大の課題だ。

「セイコーマート」を展開するセコマは全179市町村のうち4つを除く175市町村に店舗を持つ。1997年から始まった第2次物流整備で約120億円を投じて全道をカバーできる物流網を整備し、現在13カ所(このほか本州に3カ所)の拠点を構える。

過疎地の小さな店でも物流トラックがくまなく配送可能なネットワークが、人口1000人ほどの町への出店も可能に。物流に力を入れた結果として、新しいマーケットを切り開けたといえる。

北海道中央部の新得町。人口5700人ほどの町にセイコーマートの店舗がある。この店舗から次の配送先である南富良野町の店舗までの距離はなんと37キロメートル。首都圏では東京駅を中心とした場合、この距離の範囲には6000店ものコンビニがある。

こうした希薄な商圏に出店できるのは、店舗を起点とした物流効率化の追求がなせる技だ。

セコマグループが全道をカバーするトラック約210台の走行距離は1日延べ7万キロメートル。地球2周分に迫る計算だ。

地方の店に商品を配送し、帰りが空の便では年間5億円に達する燃料費や運転手の人件費を賄えない。そのために店舗配送とグループの製造工場などを抱き合わせた配送ルートを組んでいる。

セコマ・丸谷智保会長は「戦術や戦略の前に『よりよい商品を届けたい』『暮らしに貢献したい』という“熱い想い”が不可能を可能にする。当然無理な場合があるが、どうすれば地域の要望に応えられるか、商品を届けられるかに常に知恵を絞っている」と話した。

地域の要請で出店するケースもある。北海道紋別市(もんべつし)のセイコーマート上渚滑(かみしょこつ)店は2017年、土地を住民が買い取って市に寄付、市はこれをセコマに無償貸与し、出店コストの一部も補助して開業にこぎ着けた。

十勝地方の豊頃町では2020年12月、前年に撤退した町内唯一のスーパーマーケットの跡地に出店。こうした例はこれまでにもあり「セコマは困っている地域を見捨てない」という評判につながり、熱烈なファンを獲得している。

また、店舗では顧客ニーズにきめ細かく対応できるよう「1カ月はセイコーマートで生活に困らない」品揃えを目指している。

25年間は半径150メートルに出店しない

セコマのビジネスモデルは大手コンビニとは一線を画している。

フランチャイズチェーン(FC)加盟店がほとんどの大手に対し、セコマは直営店が8割を占める。以前はセコマもFC店が多かったが、オーナーの高齢化や代替わりが進む中で、直営店中心に切り替えていった。これにより製造から物流、販売までを一気通貫で手掛ける仕組みを強化した。

FCは本部と店舗、ベンダー、物流業者それぞれが利益を上げないと成り立たない、いわば「部分最適」の仕組み。これに対してセコマは「全体最適」を目指す。直営が増えることで店内調理の惣菜や弁当の販売(ホットシェフ)など独特の経営方針を浸透させやすいメリットもある。

また、JAと連携した野菜の直売所や、コミュニティバスの待合所を併設するなど、地域に密着した店づくりも可能になる。

『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)より
『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)より

数は少ないがFCについても、丸谷会長は「本部が利益を取り過ぎず、オーナーと共存共栄するのがフランチャイズビジネスの本来のあり方」とし、FC加盟店のロイヤルティー(経営指導料)は10%。

開店後25年間は半径150メートル以内には出店しないといった規定を設けて、加盟店の「テリトリー権」を守っている。こうした加盟店に優しい経営姿勢もセコマが道民から愛される要素の一つだ。 

コロナ禍でセブン、ファミマに勝つ!

セコマでは「地域経済の疲弊やコロナ禍など、経済的に厳しい世帯も増える中で、地域のマーケットや顧客の経済事情に合わせた価格設定も重要だ」(丸谷会長)と考える。

求めやすい価格を実現するために、自社工場をつくり、物流を効率化し、原価計算を徹底。

例えば人気の惣菜「クリーミーカルボナーラ」は、ソースで使う生クリームをグループの豊富牛乳公社(豊富町)で製造した牛乳を加工し、塩やチーズ、パスタは自社で直接輸入。

トレーは自社製で8割近くコストカット。1個118円からというお手頃価格を実現し、年間3000万個以上を販売。惣菜は少量パックが多く、高齢者の利用や副菜としての購入にもつながっている。

2020年初頭から始まったコロナ禍で、コンビニ業態は大打撃を受けた。そもそも市場が飽和気味だったところをパンデミックが襲い、オフィス需要が一気に減退。セブン&アイ・ホールディングスの国内コンビニ事業やローソン、ファミリーマートの2021年2月期(2020年度)はいずれも減収となった。

しかし、セコマの2020年通年の全店売上高が1837億円と前年比1.4%増えた。コロナ禍の“裏年”となった2021年度も1904億円と増収を果たした。

郊外の店舗が多いという条件がダメージを最小限に抑える一方、地域密着で進めてきた店舗づくりが結実した格好だ。

『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)白鳥和生著
『不況に強いビジネスは北海道の「小売」に学べ』(プレジデント社)白鳥和生著

白鳥和生
日本経済新聞社編集総合編集センター調査グループ調査担当部長。小売、外食、卸、食品メーカー、流通政策を長く取材。2003年消費生活アドバイザー取得、2020年日本大学大学院総合社会情報研究科博士後期課程修了、博士(総合社会文化)。國學院大学および日本大学大学院の非常勤講師も務める。著書に『即!ビジネスで使える 新聞記者式伝わる文章術』(CCCメディアハウス)などがある

白鳥和生
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