自治体に妊娠を届け出て受け取る、いわゆる母子手帳。出産後は子どもの成長を記録するために使われるが、つらい思いを感じている人たちがいる。小さく生まれた、「リトルベビー」とよばれる赤ちゃんのお母さんだ。今こうした赤ちゃんと親を支えていく動きが広がっている。
保育器のなかの小さな体にいくつもの管が繋がれた赤ちゃん。大きさは大人の手のひらほど。体重772グラムで生まれた高橋愛乃ちゃんだ。

高橋日奈さん:
早く産んだせいでこういうふうにさせちゃった。『生まれてきてくれてありがとう』より『本当にごめんね』という気持ちのほうが日に日に強くなっちゃう

2500グラム未満で生まれた「低出生体重児」、リトルベビー。

不安を感じる母親にとってさらに心理的な負担となっているものがある。
高橋日奈さん:
みんなが使う母子手帳なのに自分の子は書けなかった
小さな命、お母さんの思い。理解してほしいと動き始めた人たちを取材した。
愛乃ちゃん:
ママはこれ
室蘭市に住む高橋日奈さんと、次女の愛乃ちゃん。
愛乃ちゃんは2019年、身長31センチ、体重772グラムで生まれた。

体重2500グラム未満の低出生体重児、リトルベビーとも呼ばれる。
高橋日奈さん:
25週ちょうどで生まれました。おなかの中の羊水がほとんど空っぽになっているので(赤ちゃんを)このままおなかにはおいておけなくて、もう出産になりますと(病院で言われた)。元気に生まれてくるかどうかがわからない。死んでしまうかもしれないと先に言われていた。(出産直後は)放心状態に近いような感じだった

インフルエンザ桿菌と呼ばれる感染症で子宮内感染を起こしていたことが原因だった。
両手に収まるほど小さく生まれた愛乃ちゃん。名前を考えたのは姉の凜さんだ。
高橋日奈さん:
私が手術している間に名前を考えてくれていて、そのまま名前がついた
姉・凜さん:
みんなに愛される素敵な子になってほしい

厚生労働省によると、北海道内で2021年に生まれた2500グラム未満の低出生体重児は2719人で、全体の約9.5%、10人に1人の割合だ。

低出生体重児は体のさまざまな器官が十分に成長しないまま生まれてくる。
愛乃ちゃんも体を動かす機能や目の網膜の発達が不十分で、いまも治療を続けている。
高橋日奈さん:
他の子と比べてしまった時にやっぱり発達が遅れているというのは実感して、そういうところはちょっと辛かった

さらに、あるものが心理的な負担に。
高橋日奈さん:
みんなが使う母子手帳なのに自分の子は書けなかった

一般的な母子手帳の成長曲線のグラフは体重1000グラム、身長40センチから始まる。

772グラム、31センチで生まれた愛乃ちゃんは書き込むことができなかった。
さらに、月齢に応じた発育状況は、「はい」「いいえ」の2択。

リトルベビーは成長がゆっくりのため不安を感じてしまった。
高橋日奈さん:
このままの記録でいくとたぶん「いいえ」についちゃう。『ダメな子』と思われるのも嫌だし、検診で何かいわれるとかいろんな風に思ってしまって

高橋さんは、親同士が悩みを共有したり、リトルベビーについて知ってもらう機会を増やそうと、2022年、サークルを立ち上げ、展示会を開いた。

親同士の繋がりを求めて小さく生まれた2歳の息子と一緒に訪れた女性も。
来場者:
苫小牧から来ました
高橋さん:
何グラムくらいですか?
来場者:
721グラムでした
高橋さん:
うち772gだから同じくらいですね
高橋さんの娘・愛乃ちゃんの大きさを再現したクマのぬいぐるみを前に、当時の記憶がよみがえる。

高橋さん:
(わが子の)このころの重さを誰も抱っこはしていないと思う

来場者:
(保育器に)手をいれるくらいで精一杯
あの時の思いを語り合う貴重な場所になっていた。
自治体がリトルベビーの親をサポートする動きも出始めている。
苫小牧市役所は北海道内で初めて、小さな赤ちゃんの成長を記録する「リトルベビーハンドブック」を作った。

このハンドブックは体重は1キロ未満から自由に記録できる。発育状況はできるようになった日付を書き込む仕組みだ。

苫小牧市役所 健康子ども部・秋保真奈美さん:
お子様のできること、できたことに視点を合わせて記録できるような手帳になっている。不安だったりそこで生まれる感情を少しでも救える手立てがここにあるなら、何よりうれしいこと

室蘭市の高橋さんはサークルの仲間とともに道にリトルベビーハンドブックの導入を呼びかけています。
高橋日奈さん:
北海道が主体となって発行してもらえることで北海道のみんながもらえるようになることが一番。我が子の成長をたどっていけたらすごく幸せな気持ちで子育てに向き合えると思う

親同士をつなぎ、小さな赤ちゃんとその家族を支える輪が広がっている。