2022年2月、新型コロナウイルスにより停滞していた世界経済がようやく回復軌道に向かう中、ロシアによるウクライナ侵攻が始まった。
エネルギー大国ロシアによる暴挙は、世界のエネルギー情勢に混乱をもたらす。想定外の寒さや、自然災害も重なり、我々の生活に必要不可欠なエネルギーは激しく高騰。2022年は高止まりした。そんな中、年が明け、電力逼迫のリスクはあるのか?電気料金はどうなるのか?今年のエネルギー問題の行方を占う。
電力需給“必要最低限は確保”の見通し
ロシアによるウクライナ侵攻が激化しエネルギー情勢が混乱を見せるなか、2022年3月21日夜、政府は東京電力と東北電力管内に、史上初の「電力需給ひっ迫警報」を発令した。これは、電力供給の余力を示す「予備率」が3%を下回った時に出されるもの。
この記事の画像(6枚)数日前に発生した地震で火力発電所が稼働停止していたことや、想定外の寒さで暖房の需要が増加したことなどが相まって、余力が3%を下回る深刻な状況となっていたのだ。
政府をあげて節電を呼びかけた結果、最悪の事態=大規模停電は免れたが、6月末には「電力需給ひっ迫注意報」、7月~9月、12月~2023年3月にかけては「節電要請」が発出されるなど、電力需給に予断を許さない状況が続いている。
2022年ほど、年間を通して「電力需給ひっ迫」という言葉を耳にした年はこれまでなかったのではないだろうか。こうした状況は、今年も続くのか?資源エネルギー庁の関係者は、「あくまでも暫定の値」としたうえで、今年は必要最低限の電力の供給力は確保できる見通しとした。
予備率を見てみると、暖房需要で電力使用が増え、雪により太陽光発電が止まるリスクもある1月~3月、冷房需要が高い7月~9月は3%以上確保できている。ただ想定外の暑さや寒さ、発電所の停止の可能性もあることを踏まえると、予断を許さない状況は続きそうだ。
燃料価格“高止まり継続”か
世界のエネルギー情勢の混乱は、日本の企業や家計の電気料金を跳ね上げた。仕組みはこうだ。日本は発電量の約8割を火力発電が占めているが、その主要燃料となるLNG=液化天然ガスは、ロシアや中東諸国などから輸入している。
一方、ヨーロッパは、これまでロシアからつながれたパイプラインで天然ガスを輸入していたが、ロシア側が設備保守点検などを理由に完全停止した影響で、ヨーロッパ諸国が不足を補うためLNGを買い足している。そのためLNG価格が高騰しているのだ。
資源エネルギー庁の関係者は、「今年もLNGの需給がタイトな状況は続く」として、今後も高止まりは継続するとの見通しを示した。また、この状況は「ここ数カ月で変わる状況ではない」として、「少なくとも向こう数年は今のような状況が続くのではないか」と警戒感を示した。
LNGの価格には、前述のようにヨーロッパ諸国とロシアとの関係が大きく関わっており、両者の関係が改善されるか、再生可能エネルギーのさらなる普及などヨーロッパ諸国のガス依存が解消されない限り、LNGは高止まりする可能性が高い。
電気料金は値上がり継続か
このLNGの価格に大きく左右されるのが電気料金だ。家庭向けの電気料金には、大きく分けて、電力会社が自由に電気料金を設定できる「自由料金」と、料金を設定する際には国の認可が必要な「規制料金」の2種類がある。自由料金の場合、上限無く燃料高騰分を電気料金に上乗せ出来るが、「規制料金」には上乗せできる上限が設けられている。
いま電力大手10社の規制料金は、全てこの「上限」に達していて値上げ出来なくなっている。自由料金はそもそも、電力自由化の際に生まれた価格設定で、本来自由競争が働き“割安”になるはずだった。
しかし皮肉なことに、急激な燃料高騰により、現在の多くの自由料金は、規制料金よりも高くなっている。逆転現象が起きている状況だ。その結果、自由料金から規制料金に料金プランを変更する利用者も急増している。
こうした影響により、東京電力を含む大手電力10社の2022年度の中間連結決算は、四国電力を除く9社で経常損益、純損益ともに赤字を計上するなど燃料費の高騰が経営を大きく圧迫している。
先述したように、LNGなど燃料の高止まりは下期でも続く見通しで、通期見通しを下方修正する社も出てきている。その結果2022年11月下旬、北陸電力をはじめとする電力大手5社は経済産業省に対し「規制料金」の値上げを相次いで申請した。
東京電力も値上げに向けた検討を開始したと発表していて、申請を正式に決定するのも時間の問題だ。12月7日には、公開の審議会での審査が開始されていて、各社の燃料費や人件費など、支出が適切かどうか審査し、最終的な判断が出るまでは4カ月程度かかる見通しだ。
各社が申請している平均の値上げ率は、約28%から約45%にのぼり、審査で多少減額されたとしても、家計への負担は大きくなりそうだ。
電気料金は補助金投入も負担増か
電気料金の家計への負担を少しでも軽減するために、政府は家庭の電気料金を1kWhあたり7円補助することなどを盛り込んだ、新たな総合経済対策を決定した。電気料金への補助期間は2023年1月~9月までで、脱炭素の流れに逆行することがないように9月以降は補助額を縮小すると明言している。
この補助により今後どのくらい負担が軽減されるのか。そして仮に4月から規制料金の値上げが申請通り実施された場合、どの程度家計負担は増えるのか。申請している平均の値上げ幅が最も大きい(約45%)北陸電力の場合で考える。標準家庭では、現状、燃料費の上昇分を電気料金に転嫁できる上限に到達しているため、6402円で据え置きの状態が続いている。
しかし、1月分から補助金が適用されるため、2月検針分からは一時的に若干負担が軽減され4792円となるものの、4月から値上げされれば、補助金を使ったとしても7773円(申請中の託送料金の値上げ分込み)となる。つまり、現状よりも高くなってしまうのだ。このように、政府の補助金を加味しても、4月以降は現状よりも高くなってしまうのは避けられない見通しだ。
電力の安定供給に向けて
当然だが国の財政には限りがあり、補助金をいつまでも出し続ける訳にはいかない。一方でエネルギーの高騰がいつまで続くのか先が見通せないのも事実だ。
政府は国民に節電を要請するが、限界はある。現在、脱炭素や再生可能エネルギーを推進して社会システムを変えるGX=グリーントランスフォーメーションに関する議論が、官民を挙げて急ピッチで進められている。他国から輸入するエネルギーに頼る構造から脱却しなければ根本的な解決にはならないだろう。
(フジテレビ経済部 経産省担当 秀総一郎)