「ながら運転」の罰則が強化された道路交通法の改正から、2022年12月で3年だが、罰則強化の対象はスマートフォンやカーナビだけでよいのか。ある脇見運転により、大切な家族を失った遺族の訴えを取材した。

脇見運転のトラックに突然奪われた命

運転中の“脇見運転”のうち、スマートフォンやカーナビを操作しながら運転する「ながら運転」。

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亡くなった西村さんの妻:
よそ見でも、人が死ぬってこんなに大きいことなのに、何の罰も受けないのは本当に納得がいかないです

突然の事故で夫を失い、涙ながらに訴える妻。2021年8月、当時35歳だった西村隆一さんは、バイクで通勤中に脇見運転のトラックに正面衝突され、命を落とした。

重大な事故につながる脇見運転のうち、スマートフォンなどを注視した場合については、3年前、ながら運転として罰則が強化されたが、西村さんの命を奪ったトラック運転手が見ていたのは、仕事の「書類」だった。

過失運転致死の罪で起訴された男に下された判決は「禁錮3年 執行猶予5年」。判決には執行猶予が付いた。脇見の対象がスマートフォンと書類で一体何が違うのか。残された妻は、大切な家族を奪った男の罪の軽さに憤っている。

亡くなった西村さんの妻:
子どもでも、人を殺したら罰を受けるっていうのを分かるのに、何で罪にならないんだろうなっていうのは、すごく思って…。交通事故に対して、法が甘い気がします

YouTubeでは西村さんがツーリングを楽しむ姿が残されている
YouTubeでは西村さんがツーリングを楽しむ姿が残されている

故・西村隆一さん(YouTube動画):
気持ちいい~、めっちゃいい天気~、最高~

お気に入りのバイクでツーリングを楽しむ西村隆一さんの姿が、いまも動画サイトに残されている。

亡くなった西村さんの妻:
子どもと一緒にふざけすぎて、私に怒られるみたいな感じで。子どもが2人、男の子なんですけど、男の子が3人いるみたいな感じでした

笑顔の絶えない4人家族を支える大黒柱だった西村さん。2021年8月、突然、命を奪われた。

亡くなった西村さんの妻:
子どもたちの父親を奪った犯人に対しては、本当に許せない気持ちでいっぱいです

見る対象が違うだけで…「執行猶予はあり得ない」

2021年8月8日の午前4時半頃、福岡・太宰府市の県道で、バイクで仕事に向かっていた西村さんは、対向車線から中央線をはみ出してきたトラックと正面衝突。すぐに病院に運ばれたが、約1時間後、帰らぬ人となってしまった。

職場に向かう通い慣れた道で、奪われた命。トラックを運転していた当時61歳の男は、過失運転致傷の現行犯で逮捕。その後の裁判では、事故を引き起こしたトラック運転手の「危険な行為」が、明らかとなった。

トラック運転手:
左手で持った「納品書」を見ていた

西村さんが犠牲になった正面衝突事故の原因は、手元の納品書を見ながらの脇見運転。一連の調べの中で、納品書に目を落とした時間が約4秒に及んだと明かしたトラック運転手。それに加え、時速40kmの法定速度を20km超過する「スピード違反」だったことも分かった。

事故の真相を知らされた西村さんの父親の均さんは、いまも強く憤っている。

父・西村均さん:
3~4秒、じっと凝視するというのは、前を見ていないということですから、事故を起こすの分かるでしょ?と言いたいですし…。何でそんなことするのという思いですね

重大事故につながる脇見運転のうち、特にスマートフォンやカーナビを注視する行為は、2019年12月、ながら運転として罰則が強化された。

「ながら運転」の変更点
「ながら運転」の変更点

全国で死亡事故が相次いだことを受けた厳罰化で、運転中に携帯電話を手に持ったり、カーナビを注視したりした場合の違反点数が、1点から3点に。反則金も6,000円から1万8,000円と、それぞれ3倍に増えた。

「ながら運転」の変更点
「ながら運転」の変更点

さらに、ながら運転で事故を起こした場合は、即座に「免許停止」の行政処分を受けるほか、刑事罰が適用されて1年以下の懲役、または30万円以下の罰金が科されることになっている。

悲惨な事故を教訓にした厳罰化から2022年12月で丸3年となるが、福岡市内の道路でドライバーの様子を観察したところ、1時間の撮影で5件のながら運転が確認された。

ずっとスマホを見ているドライバーも
ずっとスマホを見ているドライバーも

鑓水航記者:
子どもを横に乗せていますが、目線がチラチラと右下に移っていますね。スマートフォンを持っているのでしょうか…ずっとスマホを見てますね

一向に無くならない運転中の危険な行為。前をよく見ずに運転することの危険性は、脇見した物が、ながら運転として厳罰化されたスマホやカーナビであろうと何であろうと変わらないはずだ。だが、手元の納品書を注視していたトラック運転手に下された判決は「禁錮3年 執行猶予5年」。

西村さんの遺族にとっては、到底納得できない判決内容だった。

父・西村均さん:
「控訴してください」と検察庁にはお願いしたんですけど、「今までの過去の判例で携帯電話以外のながら運転については、これ以上は無理です」と言われた。やるせない思いで、いっぱいですね

福岡地裁は判決のなかで、運転手の男が事故の1年前にも携帯電話によるながら運転で検挙されていた経緯を明かし、以前からながら運転を繰り返していた常習性を指摘した。にもかかわらず、男に下されたのは執行猶予のついた有罪判決だった。

遺族側 島晃一弁護士:
例えば、書類ではなくてスマホだったら、実刑になったケースが非常に高いんじゃないかと思いまして、スマホではなかったということで執行猶予になったのかなという印象は正直受けました

島弁護士によると、2016年以降スマホによるながら運転で、死亡事故を起こした被告が実刑判決を受けたケースは、全国で14件あるという。

遺族側 島晃一弁護士:
危険の程度としては同じじゃないかと。見る対象が違うだけでやっていること自体は変わらない。最低限、実刑だと思います。長さはともかくとして実刑。執行猶予はあり得ない

妻子を残し35歳の若さで逝った息子を思い、西村さんの父親は再発を防ぐ術を社会全体で考え直してほしいと訴えている。

父・西村均さん:
ある程度きちっとした基準を設けて、携帯電話以外でも3秒とか4秒、よそを向いて運転に集中してない行為というのは無くすよう、法律で決めていかないと無くならないと思います

(テレビ西日本)

テレビ西日本
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