14日、奈良県上北山村で登山中の46歳の男性がクマに襲われ、転落死した。

男性が登っていた大峰山系の山はツキノワグマの生息地。奈良県によると、昨年度は20件だったクマの目撃情報は、今年度はすでに65件と3倍を超えているという。

クマに遭遇した時、命を守るために必要な対応について、特定非営利活動法人「日本ツキノワグマ研究所」の米田一彦さんに聞いた。

どんぐり類の凶作と人出が影響

――クマの目撃情報が増えている理由は?
クマは照葉樹のどんぐりなどを食べていますが、理由の一つとして、これらの不作によって、登山道や人里周辺に餌を探しに降りて来たということがあります。

もう1つは、2年ほど前からコロナ禍による旅行制限もあり、山に行く人が増え、キャンプで襲われる、テントを引っ張られるというのが一昨年からずっと続いています。

“どんぐり類の凶作”と“人出”が重なって、目撃情報が増えているんだと思います。

クマはもう少しで冬眠ですが、雪が降る前、気象が悪くなる前に動き回って餌を捕るため、今かなり活発に動き回っていて、そこで衝突が起きているので、十分注意が必要です。

「日本ツキノワグマ研究所」米田一彦さん
「日本ツキノワグマ研究所」米田一彦さん
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――山岳地帯でクマに遭遇した場合、どう対処するべき?
転落事故を防がないといけません。その上でクマに対処する、その両方をやらないといけません。

まずは、動かないのが一番。
何かにしがみついて足場を確保する。私の場合は大体木に捕まっています。

クマを見たら、木に隠れるというのが私のやり方です。
隠れて動かなければ、クマは無害なものだと思い、無視して行きます。

クマは深視力、深く見る力が弱いようで、前後の動きは距離感がつかみにくく、あまり見えていませんが、左右に動くと発見されやすくなります。

だからクマからは遠ざかるのが一番です。

左右に逃げては絶対にダメ、そして山では足場を確保する。ひっくり返ると人間が小さくなった弱い動物だと思って、攻撃してくる率が高くなります。

私の場合は、とにかく動かないというのを1つ基本にしています。

クマスプレーで約9割は助かる

クマを見たら、木に隠れて足場を確保。
撃退用のクマスプレーの使用のためには、木につかまることも大切だという。

――近くの木にしがみつく?
私は、足場を確保するために、近くの木にしがみつきます。
今は、クマを撃退する“クマスプレー”も売っているので、狙いを定めるためにも木につかまって安定するのが大事で、私はそれで何回も助かっています。

――クマに攻撃されたら太刀打ちできる?
太刀打ちはできません。怪我しますね。

3000件近くの事故を知っていますが、何をやっても完全というのはなくて、一番最強のクマスプレーであっても9割は助かるけど、残りは事故になることがアメリカの調査でわかっています。

私はクマスプレーを使って日本国中でたくさんのクマを撃退していますが、アメリカより日本のクマの方が小さいですから効果は絶大だと思います。

突進されたら“伏せる”

しかし、ひとたびクマに体当たりされたら致命傷は避けられないという米田氏。

まずは、伏せて一撃目をかわすことが重要だと指摘する。

――クマが突進してきたらどうする?
突進してくれば重症化は非常に高くなります。特に爪を左右に振ってきて、首、頭をやられると致命傷になります。

まずは、一撃目をかわさないといけません。

立ったままやられると、首がざっくりいきますので、あごが外れる、頭陥没するという形で、それを防ぐためには、“伏せる”ことがアメリカや日本のクマ研究者のガード法です。

過去に確実に助かった5例では、キャンプでスコップを持っていて、これを振り回した5人が無傷で助かっています。
スコップがクマの爪に見えて、人が大きく見えたんだと思います。

しかし登山時にスコップは持っていないので、北米や日本の研究者は“伏せる”、“首をガードして丸くなる”のが一番としています。

一方、危険を減らすためにも、鈴を付けて歩き、クマを目撃したら鈴を鳴らして周りに知らせることが大事です。鈴は安価で一番効果があります。

あとは、1万3000円ほどしますが、クマスプレーも大変効果があります。