長期化しているロシアによるウクライナへの軍事侵攻。母国を離れ、富山・高岡市でブロンズ像を制作しているウクライナ人の彫刻家がいる。高岡の人々に支えられながら制作活動を続ける男性の思いを取材した。

戦争で制作活動が困難になり日本へ

粘土を使い、凛とした女性の像を作るのは、ウクライナ人彫刻家のフォロディミール・コチュマルさん、52歳。

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高岡市に来て約1カ月。まもなく、ブロンズ像の元になる粘土による原型、塑像(そぞう)が完成の時を迎えようとしている。

フォロディミール・コチュマルさん:
私はこの作品の下書きを始めた時は戦争の2カ月前で、周りでは嫌な予感もしていたし不安だった

コチュマルさんが撮影した自宅の写真
コチュマルさんが撮影した自宅の写真

2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの軍事侵攻。
ウクライナ北東部に位置する第2の都市ハルキウにあるコチュマルさんの自宅にも戦争の爪痕が…。首都、キーウにいった時には街に何度も砲撃があったという。

翻訳アプリを使用して話すコチュマルさん
翻訳アプリを使用して話すコチュマルさん

フォロディミール・コチュマルさん:
私は爆弾を落とされた交差点を見た。毎日、日本大使館に行くために通っていた場所で、(私が通る2時間前に)その交差点に爆弾が落とされて、多くの一般市民が亡くなったため、迂回路ができていた

コチュマルさんは2022年7月、福岡・行橋市の公募展で大賞に選ばれ仕上げ作業を控えていたが、戦争の影響で制作活動は困難となり、単身で日本へ。銅器の街として知られる高岡市で、銅の鋳造製品を手掛ける梶原製作所などの支援を受けながら、ブロンズ像の制作を続けてきた。

フォロディミール・コチュマルさん:
ここは道具が全てそろっていて作業しやすく、プロフェッショナルな場所。高岡の人はやさしい。こちらは平和ですし

コチュマルさんの作品のモチーフは、20世紀を代表するメキシコ人女性画家フリーダ・カーロ。
不運な病気や事故の後遺症と闘いながらも創作に打ち込んだ女性で、戦争を乗り越え母国が立ち上がる将来像と重ね合わせ制作している。

フォロディミール・コチュマルさん:
彼女は大変なドラマチックな人生にも関わらず、明るくて美しいフリーダ・カーロのイメージを作りたい。(作品を見た人に)ポジティブな気持ちになってほしいと思う

職人や地元の人との交流も

日本食が好きだというコチュマルさん、お弁当もお気に入り。

職人さん:
ハートで付き合ってるから、OK。(彼は、スマホの翻訳アプリで)日本語に訳したものをくれるから、返すときは身振り手振りで

フォロディミール・コチュマルさん:
彼はいつも私にコーヒーをもてなしてくれる

職人さん:
またコーヒーいれるから

コチュマルさんは、スマホの翻訳アプリを使いながら職人さんとのコミュニケーションも楽しんでいる。

梶原製作所・梶原壽治社長:
(コチュマルさんが)休むことなく作られたものを、忠実にブロンズに再現するのは私の仕事なので、細部まで再現してあげたい

取材に訪れたこの日、コチュマルさんの宿泊先で行われていたのは、高岡鋳物の発祥の地である金屋町で店を経営している人たちが集まったホームパーティ。

富山らしい「細工かまぼこ」のプレゼントが贈られた。

女性:
きれいに飾ったかまぼこです

フォロディミール・コチュマルさん:
とてもきれいですね

コチュマルさんが富山県内を巡ったときの写真
コチュマルさんが富山県内を巡ったときの写真

パーティでは、コチュマルさんに宿泊先を提供しているNPO法人「金屋町元気プロジェクト」の藤田正英さんが、コチュマルさんと県内を巡った写真を披露したり、富山の文化に触れ、職人と交流したことなど思い出を振り返っていた。

フォロディミール・コチュマルさん:
高岡は景色もきれいだし、人も優しくてすてきな所。そのうえで、彫刻の技術レベルも高い

ーー高岡は好きになりましたか?

フォロディミール・コチュマルさん:
イエス

コチュマルさんの塑像の作品は、このあと高岡の職人の手によって鋳造され、ブロンズ像になることになっている。

コチュマルさんは一度日本を離れ、家族が避難するフランスに向かい、鋳造が出来上がる1月下旬に再び高岡を訪れ、最後の仕上げをするという。

(富山テレビ)

富山テレビ
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