大学などの研究者が研究成果を発表する論文。今、ある人物が発表した論文が物議をかもしている。

「実は私も48年前に、福岡大学医学部に泣きながら入学した1人でした」と話す福岡大学のトップ、朔啓二郞学長(70)。

福岡大学 朔啓二郞学長(YouTube 福岡大学公式チャンネルより)
福岡大学 朔啓二郞学長(YouTube 福岡大学公式チャンネルより)
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その論文の数は、なんと2089本。ところが、学会に参加した際の挨拶や機関誌のあとがきまで論文として掲載。

浮上した業績の水増し疑惑。渦中の朔学長を直撃した。

台湾料理の写真を掲載 学内広報誌の記事も“論文”?

研究者の業績となる論文。

2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥教授が、これまでに発表した論文は152本。同じく、ノーベル生理学・医学賞を2018年に受賞した本庶佑特別教授は、646本の論文を発表している(いずれも所属機関による数字)。

西日本最大級の学生数を誇る福岡大学
西日本最大級の学生数を誇る福岡大学

ところが、この2人を上回る数の論文を発表している人物がいた。それが、西日本最大級の学生数を誇る福岡大学のトップ、朔啓二郞学長だ。

福岡大学ホームページ
福岡大学ホームページ
 

大学のホームページに研究実績として掲載されている論文は、実に2089本に上る。しかし、その論文を見てみると驚きの内容が。

論文の1つとされているNPO法人の機関誌
論文の1つとされているNPO法人の機関誌

記者:
こちらは論文の1つとされているNPO法人の機関誌なんですが、台北での学会に出席したという報告のあと、ほとんどは現地で食べた食事の写真になっていて、あとがきには観光のブログのようなコメントが書かれています。

あとがきには観光のブログのようなコメントも
あとがきには観光のブログのようなコメントも

機関誌には台湾で開かれた学会の報告とともに、小籠包など現地の料理の写真が掲載されていた。

大学のホームページによると、この機関誌のあとがき部分が論文だというのだが、そこには「ノスタルジックな街並みが素敵です」「素晴らしい世界に浸ることができます」などと書かれていた。

「論文」とされている機関誌のあとがき部分
「論文」とされている機関誌のあとがき部分

これが論文なのかと今、物議を醸している。

さらに驚きなのが、会合に出席した際の朔学長の挨拶や医学部長に就任した際の学内の広報誌の記事までが、論文として数えられているのだ。

研究者の問題などに詳しい専門家はこう話す。

一般社団法人 科学・政策と社会研究室 榎木英介代表理事:
2000本というのはいくらなんでも多すぎると感じる。論文というのは、基本的には査読付きといいまして、他の研究者が認めて雑誌に載ったものを論文と称する。それのみが評価の基準となっていて、研究者にとっては命であり全てである。

「査読付き論文のみが評価の基準となっている」
「査読付き論文のみが評価の基準となっている」

同じタイトルを重複掲載 専門家「考えられない」

他の研究者などから認められ、学会誌に掲載された査読付き論文にこそ価値があるという。では、朔学長の論文で他に疑わしい物はどれだけあるのか?調べてみると…。

タイトルをカタカナ表記と英語表記にしている
タイトルをカタカナ表記と英語表記にしている

記者:
こちらの論文、タイトルは全く同じですが、論文を掲載した雑誌の名前をカタカナ表記にしているか、英語表記にしている。これも分けて掲載しています。

他にも、同じものを複数回掲載しているケースがあった
他にも、同じものを複数回掲載しているケースがあった

この他にも、同じものを複数回掲載しているケースがあり、調べること約3時間。素人が見ても明らかに疑わしいものが数百本もあった。

専門のサイトで調べると、朔学長の名前で出てきた査読付き論文は400本ほど
専門のサイトで調べると、朔学長の名前で出てきた査読付き論文は400本ほど

実際に専門のサイトで調べると、朔学長の名前で出てきた査読付きの論文は400本ほど。

2089本とする大学の情報とは大きく食い違っている。

「単なるエッセイみたいなのは、私たちは区別している。査読付き論文のみが評価の対象」
「単なるエッセイみたいなのは、私たちは区別している。査読付き論文のみが評価の対象」

一般社団法人 科学・政策と社会研究室 榎木英介代表理事:
他の研究者からの評価を得て正式に載った論文と、単なるエッセイみたいなのは、私たちは区別している。そして、査読付き論文のみが評価の対象となる。それを混ぜてしまうのは考えられない。常識的には許されない。結果論として、業績の水増しをしてしまったと感じる。

理事長が苦言 朔学長は「入力ミス」とコメント

業績を水増しする意図はあったのか。今回の件をめぐって、福岡大学では緊急理事会が開かれ、朔学長自らが説明を行ったという。

この理事会に出席した理事長に聞いてみると…。

「2000という数はデータベースの数だと。論文の数ではない、ということが朔さんの話」
「2000という数はデータベースの数だと。論文の数ではない、ということが朔さんの話」

福岡大学 貫正義理事長:
数え方の問題だと。2000という数はデータベースの数だと。論文の数ではない、ということが朔さんの話。外から見た時に、論文と勘違いするような発表の仕方はよくないのではないかと、私は申しております。

福岡大学によれば、ホームページでは査読付き論文以外のものも掲載できるため、いろいろなものが論文に数えられ、2000本を超える結果になってしまったという。

なぜ、そんな事が起きてしまったのか?朔学長本人を直撃した。

朔学長本人を直撃
朔学長本人を直撃

記者:
すみません。朔さん、すみません。ちょっとお話聞かせてください。

朔啓二郞学長
朔啓二郞学長

朔啓二郞学長:
広報が答えるようになっています。

朔学長はそう言って建物の中に入っていった。

その後、大学に確認すると、朔学長は「入力ミスや分類ミスがあった」として「今後、修正していく」とコメント。

論文の掲載基準を明確にするため、大学はシステムを改修へ
論文の掲載基準を明確にするため、大学はシステムを改修へ

さらに大学側も、論文の掲載基準を明確にするためシステムを改修するという。

(「イット!」12月12日放送)