「不足する防衛費の財源は増税」という岸田首相の表明に、身内であるはずの自民党内から批判が続出している。

閣内から批判の声

12月8日に行われた、政府与党の会合。岸田首相は来年度から5年間の防衛費としておよそ43兆円を確保し、それ以降、毎年かかる「1兆円強」は増税で賄う方針を示した。これに対し、自民党内部から疑問や反対の声が上がる事態に。

 高市経済安全保障相は12日、「閣僚も、自分の担当する部分以外、国家安全保障戦略の全体像は見せられていない」と述べ、今回の議論の問題点を次のように指摘。

高市早苗 経済安全保障相:
やはり順番じゃないですか。(防衛の)こういうことを強化しなければいけないんだとしっかりお示しをして、そのためにこれぐらいの財源が必要になりますというのが順番だと思います

その上で、「一つ一つ順を追って説明し、国民が、じゃあ負担しようよとなるのが順番だ」と述べた。

自民党内からも反発の声

防衛費増額に伴う増税に、自民党内から反発の声が上がる事態。国会で取材している関西テレビ東京駐在の原佑輔記者に、詳しく話を聞いた。

(Q:なぜ自民党内でこんなに反発が?)
関西テレビ 原佑輔記者:
「1兆円」という額が先行して、しかも唐突に出てきたからです。岸田首相がこの話を打ち出したのは12月8日の政府与党政策懇談会で、今後10年間の国防などをどうしていくのかという重要なテーマが話し合われる場でした。岸田首相は、簡単に言うと、『毎年4兆円のお金が必要になって、3兆円は何とかするから1兆円は国民によろしくね』ということを言ったんですが、1兆円がある意味先行した形です。また自民党内では今まさに来年以降の税制について議論が行われていて、政府としては、これを増税項目に盛り込みたいという思惑はあったと思います

この記事の画像(8枚)

(Q:自民党内からは税で賄うことへの反発が出ている一方、増税項目に盛り込みたいという考えも?)
関西テレビ 原佑輔記者:
そうですね。取材をすると、本音としては、「増税やむなし」と思っている人も多くいる印象です。ただどの人も、今回の件はプロセスがまずいと指摘していました。自民党の国防部会に所属している議員は、「ロシアのウクライナへの軍事侵攻で戦争のあり方が大きく変わったことを世界が認識した」と話し、その上で「今後の自衛隊をどうしていくのか、ミサイルだ船だという旧来型のマッチョな自衛隊から、現代の戦争に合わせてどう組織を変えて日本を守るのか。きっちり国民に説明をした上で増税の必要性をお願いするべきだ」と話していました。とはいえ高市経済安全保障相をはじめ、閣内からも反対の声が上がるこの状況を、岸田首相がどう収めるのか。国会が閉じても岸田首相にとって厳しい局面が続くと思います

(Q:閣内にありながら声を上げた高市経済安全保障相は、どの程度の覚悟を持っているように見える?)
関西テレビ 原佑輔記者:
この発言というのは、岸田首相が進めていく方向性と違うベクトルです。年明けに内閣改造といううわさも流れていますし、ある程度先を見据えて、覚悟を決めて、NOという発言をしたんじゃないかなと受け止めています

不足する1兆円 財源どうする?

岸田首相は、今年度約5.4兆円の防衛費を2027年度に倍増させ、約11兆円にする方針を示している。その際、およそ1兆円の財源を増税で賄う案が出ている。

対象とされているのが、法人税増税で7000~8000億円、たばこ税増税で2000~3000億円、復興特別所得税から半分を転用した約2000億円だ。

復興特別所得税とは、東日本大震災の復興予算として所得税に2.1%上乗せされているもので、大まかに計算すると、年収500万円の単身サラリーマンの場合、1年間で約1万2000円を納税している。2037年までの時限増税で、昨年度の総額は約4400億円だ。

政府は、現状で集めている復興特別所得税の総額には影響を与えない形で、半分を復興特別所得税として、半分を防衛税として徴収することを検討している。

復興のための税金を防衛費に転用できるかについて、元財務省官僚で追手門大学の百嶋計教授は、「復興のためという目的税なので、防衛費に使うことはできない。同じ枠組みで税を徴収するには、新たな法律を作る必要がある」と指摘している。

復興特別所得税の一部を防衛費にと言っても、結局は「防衛税」といった税を新たに作ることが必要になるが、それでも「税負担は今と同じ」ということがポイントのようだ。
 関西テレビ神崎デスクは、納税者の「痛税感を抑えるため」という思惑があると見ている。

関西テレビ 神崎デスク:
自民党サイドが何を考えたかというと、「痛税感」です。耳慣れない言葉ですが、「税金を納めるときの痛み」を政治の世界でこう言うんですが、例えば今の所得税率を上げて防衛費に充てる、または別項目の「防衛税」を作ると、納税する側としては「負担が重いな」と痛税感を伴います。しかし今回のように、すでに納めている分と税額は変わりません、所得税の一部を防衛に回しますよ、となると、われわれが納めている額は変わらないので、痛税感は和らぐと。特に今の物価高や円安の中で、これ以上税負担を増やしてほしくないという思いにある種応える形で、復興特別所得税を転用するという。痛税感を抑えるために編み出した策なのかなという気がします

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月12日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。