旧統一教会などの被害者を救済する法律が、12月10日までの今国会で成立した。全国霊感商法対策弁護士連絡会・紀藤正樹弁護士に、詳しく話を聞いた。

旧統一教会「被害者救済法」その効果は?

(Q:旧統一教会元信者の支援活動をされてきた中で、悲願ともいえる動きかと思いますが、率直にどう評価されますか?)
紀藤正樹弁護士:
与野党問わず、政府関係者・消費者庁の担当者に最大限努力していただいたことについては敬意を表したいと思います。ただ、われわれ被害者救済の立場から見ると、最初の一歩という感じです。第2ステージで、どこまで旧統一教会の被害者を現実に救済していくかということが、これからのポイントです

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「献金」の扱いはどうなるか

今回の救済法では、「寄付の勧誘に際し不当な勧誘で困惑させること」が禁止行為になる。不当な勧誘の例として、霊感・威圧する言動・不退去などが挙げられている。

「悪霊のせいであなたは将来大変なことになる。寄付が必要不可欠です」といった言い方で相手を困惑させ、寄付を勧誘するケースなどが対象だ。

(Q:禁止行為とされることで、ある程度は防げるのでしょうか?)
紀藤正樹弁護士:
われわれが「マインドコントロール」と言っているものの一部を切り出して、困惑・不安をあおる・「必要不可欠」といった言い方、この3つの要件があれば取り消しができるという制度設計なので、その部分は評価できます。ただ、実際の旧統一教会の献金というのは、一番最初は困惑させたり不安にさせたりするんですけど、その後は100万、100万、100万…10年後には1億円といったかたちで、その中ではあおらない場合もあります。こういう“次々献金”みたいなものは、高齢者への“次々販売”と同じような構造になっていますから、こういうものは救いにくいんじゃないかと私は思います

(Q:入信時点で霊感を用いた勧誘をしていても、数年後に信徒となった状態で、使命感に駆られた状態での寄付には適用できないのでしょうか?)
菊地幸夫弁護士:
「困惑」といった要件を設けている限りは、救済は難しいと思います。本人が困惑したかどうかに関わらず、周りの家族の困窮状態を根拠にするなど、着眼点を変えることも必要だと思います

マインドコントロールは禁止できない?

法案では、「自由な意思を抑圧し、適切な判断を困難にさせないようにする」といった配慮義務を教団側に求めている。

マインドコントロールを伴う勧誘はNGだと読めますが、「禁止」ではなく「配慮義務」で、義務を怠った場合は行政による勧告、従わない場合は法人名の公表となる。

(Q:配慮義務ということですが、これで「入信時点では困惑していたが、寄付する段階では喜んで寄付するようになっている」というような状態を防げると思いますか?)
紀藤正樹弁護士:
要件が曖昧で、具体的じゃないんですよね。もう少し「自由な意思を抑圧」の客観的な要件を書き込んでいかないと。「意思」に着目する要件は非常に曖昧なので、配慮義務となるわけです。私たちは「自由な意思を抑圧」「適切な判断を困難にさせないように」とは客観的にどういう状況なのかをもう少し具体的に書き込んだ上で禁止規定に格上げし、行政による勧告に従わない場合は法人名の公表だけではなく罰則付きにするようにお願いしています。岸田首相の答弁を聞いていると、いろいろ配慮していただいているし、「損害賠償の根拠にはなる」と言っていただいているので、それはそれで感謝はするんですけど

(Q:「禁止行為」とするには、してはいけないことを客観的に明確に規定しないといけません。そうするよりも、「配慮義務」とすることで、より幅広い行為を捉えられ、損害賠償請求が容易になるというのが、岸田首相の考えのようですね)

紀藤正樹弁護士:
理屈はその通りなんです。だけど結局、被害者に「自助努力で(裁判を)やりなさい」ということになって、今までとあまり変わらない。自助努力でやるのは限界があります。組織的に行われていることに対して個別に被害者救済を行うということは、声を上げた被害者だけが救われるということです。声を上げない被害者は多数います。生活などさまざまな事情で弁護士までたどり着かない人もたくさんいるので、行政処分として具体的に何ができるかが重要なんです。7日時点で、被害者に代わって行政が「お金を返せ」と言えるのかといったことまで中身が定まっていないという状況です。「勧告」の中身、どこまで行政でできるのかが、今後検討しないといけない材料です。私は、国会でまだ十分に議論されていないと思います

(Q:十分な議論をしてから成立させるのか、曖昧な部分を残したままスピーディーに成立させるのか、どちらがいいんでしょうか?)
紀藤正樹弁護士:
法律なので早く決めた方がいいんですけど、ただ、不十分なところは持ち越しなんです。法律の不十分なところを検証する検討会を早期に設置して、被害者や、民法・憲法の専門家も呼んできちっと議論する場を、消費者庁か内閣府の中に作るべきだと思います

菊地幸夫護士:
紀藤弁護士が言われる通り、当面の間、最終的には裁判所を頼りに救済を求めていかなければいけないということですが、裁判で使えるのかどうなのか、というところですね。信者本人が出てきて「私は抑圧されていません。自由な意思です」と言われた場合にどうするか、この要件はそういった問題を含んでいます。実際に使う側からすれば、もっと強力なものをという要求が出てくるのは当然ですね

(関西テレビ「報道ランナー」2022年12月7日放送)

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