習近平国家主席の指示のもと、徹底したゼロコロナ政策で新型コロナを封じ込めてきた中国だが、感染者数は増加し過去最多を更新している。北京や上海などでは習近平政権を直接非難する大規模な抗議デモが行われ、国民の不満が全土に広がっている。BSフジLIVE「プライムニュース」では台湾の統一地方選挙も含め、専門家とともに検証した。 

中国各地でゼロコロナ政策に反発のデモ 習近平政権を揺るがす可能性は

この記事の画像(13枚)

新美有加キャスター:
中国の新型コロナの感染者数は11月27日に全土で4万人を超え、5日連続で過去最多を更新。北京や上海などで大規模な抗議活動が行われ、その様子がツイッターなどのSNSで世界に拡散された。現地の様子は。

FNN北京支局 河村忠徳記者:
今回のデモの特徴は、参加者が真っ白な紙を持っていること。参加者によれば「これが今の中国を表している。ゼロコロナ政策への不満をSNSに書き込んでも、当局の検閲によって消されてしまう。国内メディアもデモを報じない」。一方、北京のデモでは上海のように警察官が強権的に抑え込むことはなかった。当局はある程度のガス抜きは必要として容認していると感じた。

反町理キャスター:
北京におけるコロナの感染状況、日常生活はどういう状況か。

FNN北京支局 河村忠徳記者:
市民はいつ自分たちの住居や会社が封鎖されるかわからない。個人のスマホに、あなたは感染のあるエリアにいた可能性があるから外出禁止だと連絡が来る。中国では建物に入るたびにQRコードをスキャンしなければならず、誰がいつどこに行ったか全て把握されている。ただ、北京では建物ごとに封鎖されるという点で以前より緩くなっている。地方では変わらず、エリア全体が封鎖されるところもあるようだが。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
北京は地方に比べ最小限のことをやろうとしているが、地方は切り替えが遅れており不満が溜まっている。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授
富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授

ジャーナリスト 高口康太氏:
中国では、中央の指示を下の層が行うときには、命令された以上に厳しく規制しなければいけない。中央政府はどこの地方政府が勝手に規制強化していると名指しで指弾したりしているが、それでクビになった官僚はいない。逆に感染者をたくさん出してクビになった官僚はいる。感染者を出さない方向に力をかけた方が保身につながる構造。

反町理キャスター:
ただ、そうして締め付けた結果デモに。これに対して中央からのペナルティが来る可能性は。

ジャーナリスト 高口康太氏:
大きい。このデモがゲームチェンジャーになる可能性はある。コロナ対策もデモ防止もせねばならず、地方の官僚はしんどい状況。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
習近平政権が「コロナは後遺症がひどくて働けなくなる」とずっとウソをついてきたことに対して、不信感が高まった。天安門事件以降、中国人がみんなで政府に抗議することはなかなかできなかった。だが今回は、党大会後もロックダウンが終わる見通しがないこと、経済活動が停滞し生活に危機が迫ること、警察官が各地でさほど強硬手段に出ていないことの3つがあり、一気に広がったのでは。

反町理キャスター:
「習近平退陣せよ、共産党退陣せよ」「自由万歳」という言葉も飛び交う。天安門事件のような大きな政治的うねりになるか。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
可能性はあると思う。天安門事件のときは学生たちが民主化を求めたのに対し、今回はロックダウンを解除してくれという非常に小さな要求。だが騒ぎが大きくなれば、要求もエスカレートする。今の時代、白い紙を持とうという指示も携帯電話ですぐに広まる。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
これしかないという一択でゼロコロナ政策をしてきている中国は、解除の決断を簡単にはできない。医療資源も限られている。ゼロコロナを掲げながら、どうミニマムな変化をしていくか。

ゼロコロナ政策の背景には、医療の脆弱性と習近平主席の面子

ジャーナリスト 高口康太氏
ジャーナリスト 高口康太氏

反町理キャスター:
中国の医療事情の話が出た。キャパシティの小ささがゼロコロナの背景にあるのか。

ジャーナリスト 高口康太氏:
そう。中国政府の医療ブレーンの人が明確に、医療キャパシティの充実、ワクチン接種率の向上、画期的な治療薬の3条件が揃えば解除すると言っている。だが、中国はPCR検査や隔離にかなりお金を投入しているが、基礎医療の充実やワクチン接種率の向上にはあまりつぎ込んでいない。

反町理キャスター:
中国では80歳以上のワクチン接種率が非常に低い。(2回目が65.7%、3回目が40.0%。11日、中国国家衛生健康委員会会見)

ジャーナリスト 高口康太氏:
中国では、感染を防ぐためにとして、街へ出歩く若者から先にワクチンを打った。日本と逆。ゼロコロナがある程度達成できたから、お年寄りはもういいという考えになる。またお年寄りにワクチン忌避の感情が強い。

矢板明夫 産経新聞台北支局長
矢板明夫 産経新聞台北支局長

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
もう一つ、習近平の面子の問題。2020年の武漢ロックダウンに始まり、習近平が陣頭指揮をとって対策し中国だけが成功した、欧米的な民主主義はダメだと表彰大会までやった。今から欧米と同じやり方をすれば、権威・威信そのものに傷がつく。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
徹底したPCR検査は早期発見のためだったが、経済的にも、短期に強い対策をして抑え、早期に無事回復することを描いていた。それがずるずる続いていることが痛い。ゼロコロナの理想が通用しなくなり、対応ができなくなっている。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
中国には質の悪いPCR検査がたくさんあるが、もはや権力者が簡単に稼げる大きな利権になっており、なかなか止められない。現場の共産党幹部たちが抵抗しているという話も聞く。

経済にダメージも、ゼロコロナからウィズコロナへの転換は困難

反町理キャスター:
中国の第3四半期のGDP成長率が、年率換算で前年同期比3.9%。5.5%の目標から見れば非常に厳しい。ゼロコロナにどこまでこだわるのか。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
今は多分、海外に影響を出さないことを気にしている。外国の企業や生産基地を優先して政策をとっている感じがあるが、広く追いついてはいない。

ジャーナリスト 高口康太氏:
2021年は消費が成長率を稼いでいたが、今は投資のアクセルを全力でふかしての3.9%というのが、数字以上に厳しい。従来の大企業向けの施策ばかりではなく、自営業者向けの支援策などに目を向けざるを得ない状況。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
中国はGDPに占める消費の割合が低く、それを上げるための構造転換を始めた矢先にコロナが起こった。消費を上げることはしばらく厳しい。

新美有加キャスター:
習近平主席は、10月16日の中国共産党大会でも「ウイルスのまん延防止を阻止するための人民の戦争」と発言。ゼロコロナからウィズコロナに向けた変化はあり得るか。

ジャーナリスト 高口康太氏:
掛けた看板は下ろせないが、感染者数の増加を止めることはできない。落としどころを考えているのだろうが、今はチャイナ・セブン(7人の共産党政治局常務委員)が交代する時期で、柔軟な判断・戦略転換も難しい。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
新しいチャイナ・セブンは3月に全人代で選出される。それまで新政策がなかなか打ち出せない。今回の暴動が過激になれば、習近平が何か指示を出すかもしれないが。

新美有加キャスター:
視聴者の方からのメール。「従来は中国の強みばかりが目立っていたが、コロナを通して弱みを示した。日本はこれをよく分析し、効果的にアプローチする契機とする必要がある」。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
中国問題を考えるとき、二つの脅威がある。一つは強くなった中国が暴発し、台湾や尖閣を攻めること。もう一つは、中国が崩壊したときに数千万単位の難民が日本に来ようとする可能性。中国の安定した民主化が日本にとって一番低リスクなのだが、対中政策ではそれらを考えなければいけない。

台湾では与党が地方選敗北も、争点は対中政策ではなく経済

新美有加キャスター:
2024年の総統選の前哨戦とされる台湾の統一地方選が11月26日に行われた。21の注目県・市で蔡英文総統が率いる与党・民進党はわずか5市長の確保。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
台湾の経済状況が悪く、6年続く民進党政権への不満がある。民進党を支持していた若者があまり投票に行かなかった。中国と強硬に対峙する立場の民進党は脅威を訴えたが、地方選挙には関係ないと空振りに。国際社会からは親中派が勝ったとされているが、台湾内部での見方とは違う。

反町理キャスター:
蔡英文総統は結果を受け党首を辞任。2年後の総統選への影響は。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
影響は大きい。トランプ米大統領と習近平主席が全面対決していた2020年の総統選は、米中の代理戦と言われた。蔡英文氏が817万票という史上最高得票で勝ち、台湾がアメリカ側につく形に。今度親中チームが勝てば、対中・米・日政策が全部変わる。中国が強硬に出ることで台湾が反発し状況が変わる可能性はあるが。

富坂聰 拓殖大学海外事情研究所教授:
深刻なのは、中国の台湾への態度はむしろ軟化しており、今回の結果を受けての中国側の反応も理性的であること。

反町理キャスター:
今後の中国は、よりソフトなアプローチで政権をひっくり返すことを狙うだろうと。

矢板明夫 産経新聞台北支局長:
8月にペロシ米下院議長が訪台し、中国は軍事演習を行った。この効果で台湾の人々が中国を怖がり、親中派政党に票を入れたと中国に勘違いさせては絶対にいけない。あくまで経済問題による結果だと、台湾の政治評論家たちは一生懸命説明している。

(BSフジLIVE「プライムニュース」11月28日放送)