出口の見えない中国の不動産不況――。

今月15日に発表された不動産投資は、1月から10月でマイナス8.8%と減少幅が拡大。

不動産不況は出口の見えないままで、巨額の負債を抱えた恒大集団の経営危機も未解決。首都・北京ではマンション完成が遅れ、購入者からは不満爆発の声が。

現場を取材した、FNN北京支局の葛西友久記者が解説する。

建設現場の看板から“恒大”の2文字が消えた

FNN北京支局・葛西友久記者:
先週、中国政府が発表した不動産投資に関する指標のグラフを見ると、ずっと右肩下がりになっていますが、今回発表された数字も前年の同じ時期と比べてマイナス8.8%と下げ幅が拡大。強い不況感が表れた結果となりました。

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そもそも、この不動産不況は、習近平指導部が不動産バブルの対策を本格化させたことによります。

去年取り付け騒ぎが起きて多額の負債が問題となり、世界的に注目された恒大集団など、不動産大手の経営危機が深刻化しました。

恒大集団が手がけるマンションの建設現場がどうなっているのか今年9月、北京市郊外を訪ねました。

建設現場の看板から「恒大」の2文字が取り外されていた
建設現場の看板から「恒大」の2文字が取り外されていた

その入り口にプロジェクトを示す看板があったのですが、よく見ると、「恒大」の2文字が取り外されていました。

榎並大二郎キャスター:
看板が外されているということは、恒大集団がもう携わっていないのでしょうか?

葛西記者:
現場にいたセールスマンに聞くと、取材したマンションでは、恒大集団の代わりに中国政府系の銀行が支援に入り、工事が進められているということでした。

中国メディアによると、恒大集団が抱える負債は日本円でおよそ40兆円とみられています。

土地使用権を市当局に返上して、日本円でおよそ1100億円を返済に充てたという
土地使用権を市当局に返上して、日本円でおよそ1100億円を返済に充てたという

返済の動きとしては、中国南部の広州市で進めていた世界最大規模のサッカースタジアムの建設プロジェクトから撤退。その土地使用権を市当局に返上して日本円でおよそ1100億円を返済に充てたということです。

ただ、経営再建に向けた債務の再編案を今年夏に発表するとしていましたが、今も公表しておらず、先行き不安は続いたままです。

工事の遅れで入居できないのに住宅ローンの支払いが…

そして、今年の夏に問題となったのが、マンション建設のストップや遅れから住宅ローンの支払いについて返済拒否を表明する動きでした。

首都・北京でも問題となった現場があります。

1カ月後に引き渡し日が迫る中、コンクリートがむき出しで完成にはほど遠い印象
1カ月後に引き渡し日が迫る中、コンクリートがむき出しで完成にはほど遠い印象

今年8月に訪れた時には、1カ月後に引き渡し日が迫る中、コンクリートがむき出しで、完成には、ほど遠い印象でした。

それから3カ月がたった先週、再び訪れると、外観からは完成しているように見えましたが、一部の建物で窓の取り付け作業を行っていました。

3カ月後、外観は完成しているように見えるが…
3カ月後、外観は完成しているように見えるが…
一部の建物で窓の取り付け作業が行われていた
一部の建物で窓の取り付け作業が行われていた

購入者の39歳の男性に電話で話を聞くことができました。

購入した男性(39):
10月31日までに引き渡すと言っていたが、31日に具体的な日付のない延長通知がまた出された。私や妻だけでなく、両親の財布もカラにしてしまった。ストレスが非常に大きく、さらに状況が悪化したら、とても耐えられない

男性は、3LDK(89平米)の部屋を日本円でおよそ9000万円(約450万元)で購入。

頭金として半額を支払い、残りは住宅ローンを組みました。

契約した1年前から毎月およそ32万円(1万6000元)を支払っているものの今も入居できていないといいます。

この男性は妻と子供、両親と暮らしいてローンのほかに、月12万円で部屋を借りているため、生活がとても苦しいと話していました。日本と違い、契約すると入居前からでもローンの支払いが発生するので、こうした事態に陥っています。

榎並キャスター:
家賃を二重に支払っているような状況になってしまっていて苦しいですよね。入居のメドは全く立っていないんですか?

葛西記者:
男性には連絡がないと言うことでしたが、開発業者に取材すると、「現在は内装を工事中で、引き渡しは来年3月ごろになる」と説明しています。

そして、工事の遅れについては…。

開発業者:
(工事は)グループの問題で何カ月も延期になった。
(Q資金繰りに問題がある?)なんというか、その方面の関係がある

新型コロナの影響による収入の減少などで、資金繰りが悪化して工事に影響が出たと説明していました。

ゼロコロナ政策で景気停滞…中国の不動産不況は日本にも影響か

ここで、注目のウラ情報がこちら。「2年ぶりの政策転換」です。

習近平指導部は「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」という基本方針を掲げていて、それに変わりはありません。

しかし、バブル抑制策が導入されて以来、最大の転換点ともいえる包括的な支援策が、今月発表されました。

例えば、今後半年以内に期限を迎える融資の返済を1年間先送りできることや、およそ5兆円(約2500億元)の社債発行を支援するとしています。

開発業者が資金不足で中断していた工事を再開させやすくする狙いがあります。

榎並キャスター:
かなり大規模な支援策ですが、これで不動産の不況は解消されていくのでしょうか?

葛西記者:
そこは不透明な状況といえます。中国では今月に入り新型コロナの感染者が急増し、首都・北京では、きのうの感染者が過去最多となりました。

厳しい行動制限を強いる「ゼロコロナ」政策も続いていて、景気は停滞、将来への不安も強まっています。

丸紅経済研究所の鈴木貴元氏は、結婚や出生数もコロナでかなり減り、中長期的に見た住宅需要が相当落ちてくるため、コロナ前のように中国経済を引っ張る存在にはなりにくいと、指摘します。

こうした中国の不動産業界の落ち込みは、世界経済の下押し要因にもなります。

というのも、中国の住宅需要だけで、世界の鉄鋼生産の2割にあたるおよそ3億トンが賄われているほか、入居後の家電などの購入も減るため、日本を含めたメーカーにも影響を及ぼすとみられているんです。

今後も中国の不動産事情について、注目していきたいと思います。

(「イット!」11月23日放送)