新型コロナウイルスによる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置などによって、リモートワークを取り入れた企業も多いだろう。

その影響で、ビジネススーツの着用、購入機会が減り、スーツ業界は売上において苦戦したという。

しかし、2022年は人の動きが活発化したことで、スーツの売上は回復傾向にあるようだ。

また、ビジネスパーソンが求めるビジネスウェアのあり方にも変化が出てきている。

どのように変わってきているのか、スーツを製造・販売している青山商事とオンワードパーソナルスタイルに聞いた。

ビジネスウェアとしてのスーツが“特別なもの”に

「2020年から2021年にかけて、スーツを軸としたビジネスウェアは苦戦しました。

しかし、まん延防止等重点措置が解除された後の2022年4月頃から、ビジネスパーソンの出勤や出張が増えたことで、ビジネスウェアが復調の兆しを見せています。

まだ、コロナ禍以前の水準に戻ったとはいえませんが、過去2年間と比較すると売上は好調です」

出勤などが増えたことでビジネスウェアも復調の兆しが(画像:イメージ)
出勤などが増えたことでビジネスウェアも復調の兆しが(画像:イメージ)
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そう話すのは、「洋服の青山」を展開する青山商事の執行役員兼商品本部長・山本龍典さん。

実際に、青山商事のビジネスウェア事業の売上高を見てみると、2022年4月~9月の上期の売上高は前年比122.6%(既存店のみ)。さらに、客単価も107.5%と上がっている。

「ビジネスウェアが動き出しているのは、確実です。ただ、その買い方には変化が出てきています。コロナ禍以前は、単価を抑えて2~3着まとめて購入する方が多かったのですが、最近の傾向として購入は1着ではあるものの、質にこだわる方が増えている印象です。そのため、単価も上がっているのだと考えられます」

出勤や出張の割合が以前より増えたといっても、リモートワークを継続している会社も多い。毎日着るわけではないとなると、ビジネスウェアの考え方も変わるようだ。

「スーツの立ち位置から変化しているのだと思います。日常的に着るものではなく、特別な会議やプレゼン、イベントなど、ここ一番といったところで着るものになっている。それであればよりよいものを、と考える人が増えてきているのかもしれません」

“好みに合わせてカスタマイズ”オーダースーツの売上も上昇

ビジネスウェアの買い方の変化に合わせるように、トレンドも変わってきているとのこと。

ラフな装いのイージーケア(左)上質な素材で仕立てられたテーラード(右)(画像提供:青山商事)
ラフな装いのイージーケア(左)上質な素材で仕立てられたテーラード(右)(画像提供:青山商事)

「ビジネスウェアは二極化しています。ひとつはイージーケア。ストレッチ素材で肩パッドが入っていないような、ラフに着られるジャケットやセットアップで、Tシャツやセーターにも合わせられ、自宅で洗えるものが増えてきています。もうひとつは、上質な素材で仕立てたテーラード。こだわりの一着といえるもので、まさに特別な場に着ていくものですね」

テーラードへの注目から派生して、オーダースーツへのニーズの高まりも感じているとのこと。

青山商事で展開しているオーダーブランド「Quality Order SHITATE」「UNIVERSAL LANGUAGE MEASURE’S」の2019年度の売上は11億円だったが、2021年度には26億円に上がっている。

生地やボタンもカスタマイズできるオーダースーツ(画像提供:青山商事)
生地やボタンもカスタマイズできるオーダースーツ(画像提供:青山商事)

「自分で生地やボタンをカスタマイズするという買い方も含めて、オーダースーツは人気があります。販売スタッフもお客様の喜ぶ姿が見られることにやりがいを感じていますし、会社としても、在庫を抱える既製服と比べて、オーダースーツはサステナブルの観点からも有意義だと考えています。2022年4月にはオーダー専門店のパイオニアである麻布テーラーがグループ会社となったので、より多くの方のニーズに応えていけると思っています」

オーダースーツを取り巻く環境の変化で若年層の購入率もUP

オンワード樫山が展開するスーツブランド「五大陸」「ONWARD Personal Order」でも、売上は回復傾向にあり、単価も上がっているようだ。

2022年3月~8月期の売上高は「五大陸」で前年同期比+27%、「ONWARD Personal Order」で前年同期比+15%、オンワードパーソナルスタイルが展開する「KASHIYAMA」では前年同期比+22.5%。

2022年3月〜5月期の平均単価は「五大陸」で2019年同期比111.3%、「ONWARD Personal Order」で2019年同期比105.8%と、コロナ禍以前よりもアップしている。

オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)
オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)

オーダーメイドブランド「KASHIYAMA」を展開するオンワードパーソナルスタイルの代表取締役社長・関口猛さんもコロナ禍に加え、世の中の変化も影響していると言う。

「日本は、1960年代にスーツを民主化しようと大量生産したことで、スーツがファッションではなく、ビジネスパーソンの作業着になってしまったんですよね。しかし、ここ数年で『カジュアルな服装でもいいよね』という雰囲気が出てきて、コロナ禍でリモートワークが増えたことによって一気に変化した。その結果、スーツを着なくなる人が増えました。

一方で、オシャレの一環としてスーツを着ている人や商談やコンサルティングの場でスーツを着る人が、より質の高いものを選ぶ傾向が顕在化したのだと思います。そこが単価の変化に現れていますが、この秋冬シーズンに入るとその傾向はより顕著で、10万円台のスーツが当たり前のように購入される状況になっています」

単価の上昇とともに、オーダースーツのニーズも上がっているという。

「KASHIYAMA」のオーダースーツ購入者数は、コロナ前の2019年3月〜5月期同期を比較して約1.4倍になっている。

中でも、20代の伸び率が高く、2019年のオーダースーツ購入者比率が18.8%だったところから、2022年には39.1%に伸びているというのだ。

「KASHIYAMA」のオーダースーツ(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)
「KASHIYAMA」のオーダースーツ(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)

「10年ほど前に、5万~6万円くらいでオーダースーツが購入できるようになったことがきっかけで、オーダースーツのハードルが下がりましたし、私達も現在は3万円台から提供しています。

価格や店構えが変化したことに加え、SNSなどを通じて情報を迅速に取れる時代になったことでオーダースーツのイメージが変わり、若年層の購入率が飛躍的に上がっているのだと思います」

コロナ過を経て、働き方や生活スタイルがより多様化していることも、オーダースーツの盛り上がりに関係していると、関口さんは話す。

「生活様式が多様化していくことで、着るものも自分に合うものを見つけたくなると思います。そうなると、サイズや素材、色、形など、本当に気に入ったものを既製服から見つけるって難しいんですよね。そのため、オーダーに行きつくのだと思います」

統一感を出しつつ個性を演出できるビジネスウェアのあり方

オーダースーツが盛り上がりを見せる中、新たなビジネスウェアのあり方も注目を集め始めているという。

「『KASHIYAMA』では、オーダーメイドユニフォームというサービスを展開しています。企業や団体からオーダーしていただく、いわゆる“制服”なのですが、素材などで統一感を出しつつ、一人ひとりに合ったサイズ、好みのデザインで仕立てるものです」

オーダーメイドユニフォームを導入したPR会社Dynergyでは、スーツの素材や色は統一されているが、ジャケットのサイズはそれぞれにフィットし、合わせるボトムは個々で異なっている。

オーダーメイドユニフォームを導入したDynergy(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)
オーダーメイドユニフォームを導入したDynergy(画像提供:オンワードパーソナルスタイル)

「オフィスでの服装の自由化が実践される中で、個人に任せると会社としての統一感がなくなるという課題も出てきているようです。

だからといって、画一的な制服は時代に即していない。そこにカスタマイズできるユニフォームのニーズがあると考えています。ひと月に30〜50社から問い合わせがきています。

機能的で個性も演出できて、なおかつ企業や団体の文化・コンセプトを担保できるような新しいビジネスウェアも、これからの時代に増えていくのではないかと考えています」

コロナ禍を経て働き方が大きく変わったことで、ビジネスウェアとしてスーツを着る機会は減っているかもしれない。

だからこそ、スーツの特別感が増している。出社が増えてきた今こそ、自分にマッチしたスーツを仕立ててみるのもありかもしれない。

取材・文=有竹亮介(verb)