人気マンガに準レギュラーとして実名で登場する高知市出身の職人がいる。11月には、この職人の話だけをまとめた単行本が電子書籍で発売。実際にどんな仕事をしているのか取材した。

大型の建築物を爆薬で解体するスペシャリスト「爆破解体技師」のゲンが、建築業界大手の理不尽に真っ向勝負する人情マンガ「解体屋ゲン」。ドラマ化された「信長のシェフ」や「妻、小学生になる。」などで知られる「週刊漫画TIMES」で連載中の人気作だ。
11月1日、そのスピンオフが電子書籍で発売された。タイトルは「曳家岡本編」。

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マンガ「解体屋ゲン」より

岡本:
これはジャーナルジャッキといって1台6万5千円。造船所でも使われているジャッキです。1台で25トンを持ち上げられる頼もしいヤツです

子ども:
象でも持ち上げられる?

岡本:
大人の象だって5トンぐらいだから、簡単に持ち上がるよ

大人:
岡本さんて話が上手だね。みんな楽しそうだよ

この「岡本さん」こそが、高知市出身の実在の人物・岡本直也さん(62)だ。

岡本直也さん:
本当に名誉なことで、いま現役の職人で、丸々1冊単行本が出てる人なんていませんから

10年以上“出演”する人気キャラクターに

岡本さんの仕事場は、家の床下だ。

岡本直也さん:
最近の家は床下が浅いんですよ。ここは床下は40cmあるので、かなり楽です

岡本さんは、全国で100人ほどしかいない曳家(ひきや)職人だ。
曳家とは、地盤沈下などで傾いた家屋を直す際、解体するのではなく、いったん別の場所に移し、土台を直してから元に戻す建築工法のこと。

この道43年の岡本さんは、19歳で父親の仕事を継ぎ、曳家の仕事を始めた。
主に県内で仕事をしていた岡本さんの転機は2011年、東日本大震災だった。

液状化による地盤沈下で家が傾く被害が多発した千葉・浦安市の市長から依頼を受け、30棟以上の修復工事を手掛けた。
震災から3年後の高知での取材で、岡本さんは次のように話していた。

岡本直也さん:
神様が、「自分の故郷で震災のことをみんなに伝えた方がいいよ」って言ってくれてるのかもしれない

もともと愛読書だった「解体屋ゲン」の“準レギュラー”になったのも、震災で自分が見たものを伝えたいという思いがきっかけだった。

岡本直也さん:
東日本大震災で曳家がこんなにも活躍しているのに、曳家のロクさんというキャラクターがどうして活躍しないんだと作者にメールを送ったら、「取材に来たい」と。ロクさんが活躍するための取材だと思ってご協力させてもらっていたら、「岡本さんが登場するストーリーにします」と言っていただいた

このマンガで唯一、実在の人物をモデルにした登場人物となり、10年以上にわたり、約40話に“出演”する人気キャラクターになった。

岡本直也さん:
信号待ちしていたら、知らない若い男の子にドアをガンガン、ガンガンってたたかれて、「曳家岡本さんですよね」と声かけられて

岡本直也さん:
「うーわー」ってびっくりしました

ミリ単位で調整…丁寧な仕事ぶりが評判に

震災後、千葉県に拠点を移すと、岡本さんの丁寧な仕事ぶりが評判を呼んだ。各地から仕事の依頼が相次ぎ、埼玉・川越市では、江戸時代創業の老舗ウナギ店「小川菊」、宮城・石巻市では、小学校の校舎を子ども向け複合体験施設にした「モリウミアス」を手掛けるなど、岡本さんは引っ張りだこの人気職人となった。

この日は、約1年ぶりとなる県内の仕事で土佐市へ。最大24cm傾いている家を一度持ち上げ、基礎部分や柱などの構造を直し、その上に建物を戻すという工事だ。一つ一つの傾きをミリ単位で調整していく地道な作業。

地道な作業を丁寧に行う岡本さん
地道な作業を丁寧に行う岡本さん

岡本さんのこだわりは…。

岡本直也さん:
一般的には家を水平に直したときに、こういうところにヒノキをつめていくわけですよ。そしたら家の重さで1mm、2mmつぶれるかもしれないじゃないですか、家が重い場合はね。うちらは、その1mm、2mmせっかく合わせたんだから、もったいないと思って

そのため、一般的な工法で使われる日本のヒノキより頑丈な木材を使っている。建物を持ち上げた際に使う枕木も、ゆがみにくい木材にするため、マレーシアから個人輸入している。その姿勢は、マンガの中でも曳家の先輩「ロクさん」からお墨付きをもらうほどだ。

マンガ「解体屋ゲン」より

ロクさん:
一目見りゃわかるさ。これだけ建物を考えた沈下修正をやれるヤツはそうはいねぇ。そもそもにわか業者はこんなに枕木やジャッキを持ってねえしな

岡本さん:
それはそうかもしれませんね、ハハハ

岡本直也さん:
自分が直した家に住んでも怖くないなっていうぐらいには直したい。それはお金をいただいている以上、責任がありますから

しかし、岡本さんの工法は、他社より2割ほどコストが上がるため、価格競争で不利になることも。

岡本直也さん:
高知だけでは、われわれの職業は成立しなくなっているんですよ

岡本直也さん:
みんな分からないものを選ぶときは、金額でしか判断しないですけれども、建物って、傾いてると傾いてる側に荷重が集まってますし、倒れやすくなってる。そのまま置いてあるのは本当はよくない

仕事ぶりに感銘し弟子入りする人も

一方で、その仕事ぶりに感銘を受ける人もいる。高知市出身の堅田光一さん(52)は10年前、工事を手伝ったことがきっかけで、岡本さんの弟子になった。

堅田光一さん:
仕事に妥協のないところと、こだわって正直な仕事をするところに感銘を受けて、自分もこういうふうにやりたいなと思った

弟子からの信頼も厚い岡本さんだが、全国を飛び回る今の仕事は体への負担が大きく、あと4年でセミリタイアをしようと決意している。
岡本さんに残り4年の目標を聞いた。

岡本直也さん:
人がやっていないようなことにも挑戦していきたい。ちょっと名前は出せないですけど、誰もが知っているような、ものすごく有名な日本の重要文化財の修復のお話をいただいています。それを引退の花道にしたいなとは思っています。なったらいいなぁ

目の前の1棟に全力を注ぎ、大きな夢に向かって走る「曳家岡本」の物語は、まだ終わらない。

(高知さんさんテレビ)

記事 291 高知さんさんテレビ

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