アメリカの中間選挙まで1週間を切った。2021年夏から続くバイデン大統領の不人気もあり、以前は野党・共和党が大勝するとの見方が大半だった。しかしこの夏、世論調査で両党の支持率が逆転。数カ月間民主党のリードが続いたが、現在は共和党が盛り返している。

バイデン氏の支持率は、最低の時期から多少持ち直したものの40%台前半。厳しい状況には変わりないが、与党・民主党に勝機はあるのか?アメリカ政治に詳しい米州住友商事会社ワシントン事務所の渡辺亮司さんに、中間選挙をめぐる動きや選挙結果の予想、注目点などを聞いた。

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最も重要な指標は「現職大統領の支持率」

――中間選挙、世論調査では与野党の支持率が拮抗しています。状況が見えにくい状態になっていますが、これはなぜなのでしょう?

通常、中間選挙は現職大統領の政党にとって毎回厳しい戦いとなります。今回も、当初は民主党の大敗が予想されていました。戦後では、1期目の中間選挙で下院で議席を増やせたのは息子の方のブッシュ大統領のみで、それも9.11アメリカ同時多発テロ事件という危機の直後で国が結束したという特別な理由がありました。

ただ今年の夏、最高裁判所の人工妊娠中絶にかかわる判決、そしてトランプ前大統領の司法捜査などの報道が増えたことで、民主党の中間選挙への関心が高まり、民主党に追い風が吹いたことが選挙の情勢を少し変えました。

――低迷していたバイデン氏の支持率が夏頃に少し回復し、今、また少し下がりつつあります。こういった支持率の浮き沈みは中間選挙にどう影響するのでしょうか?

伝統的に中間選挙は大統領の信任投票となり、選挙の行方を占う上で最も重要な指標は現職大統領の支持率となります。特に、下院議員選挙の議席数の増減と大統領の支持率の相関関係は非常に強いです。

今のように大統領の支持率が40%台前半では、下院で民主党は、少なくとも20から30議席程度を失う可能性も指摘されています。そのため激戦区などでは、大統領から距離を置こうとする民主党候補も続出しています。

――現在は共和党が優勢となっている状況についてバイデン氏は「また民主党が勢いを増す」と語っていますが、あと1週間で情勢が変わる可能性はあるのでしょうか?

テロ事件だとか、あるいは、ウクライナからロシア軍が撤退するような事が起きたり、そういったことでバイデン大統領の下で国が結束するようなよっぽどの場面がない限り、民主党にとって大幅に情勢を改善するということは難しいのではないかと思っております。

下院は共和党が多数派獲得との見方 上院は大接戦の予想

そんな選挙戦の最終盤に飛び込んできたのが、ナンシー・ペロシ下院議長の夫が自宅で襲われたニュースだ。

ペロシ氏を狙った犯行と報じられるこの事件について、渡辺さんは「政治的暴力を容認してきたとして共和党を非難する民主党と、犯罪拡大を厳格に取り締まってこなかった、と民主党を責める共和党が互いに情報戦を繰り広げているものの、中間選挙に大きく影響することはないだろう」と語る。

緊張が高まるなか行われる今回の中間選挙で改選されるのは、上院の3分の1と下院の全議席。現在は上下両院で民主党が多数派(上院:民主50・共和50 ※議長のハリス副大統領を入れると民主党が多数派、下院:民主220・共和212)だが、その差はわずかだ。

――渡辺さんご自身は今回の選挙結果、どういう結果になると予想されていますか?

そもそも下院は5議席・上院は1議席のみ獲得で、共和党は多数派に返り咲きますが、下院は共和党のシンボルカラーである赤、その赤い波に民主党は飲み込まれて、ほぼ確実に共和党が多数派を獲得する可能性が高いとみております。

一方、上院に関しては、赤い波が押し寄せているものの、各候補の資質も重要となってきますので、現時点では大接戦が予想されていてどちらが多数派を制するかは不透明です。特に激戦州の中でもジョージア州、ペンシルベニア州、そしてネバダ州の3州、このうちの2州を勝った政党が上院の多数派を制するというふうに見ております。最終的にジョージア州に関しましては、12月の決戦投票で上院の勝敗が決まる可能性もあり、したがって民主党が上院を維持できるか、その判断が下されるのは少し先になる可能性もあります。

――現時点でかなり多くの人が期日前投票を行っていて、これが全体の投票率の上昇につながるのではないかと言われています。これが選挙結果を左右する可能性はあるのでしょうか?基本的には投票率が上がれば民主党が有利だと言われていますが?

ご指摘の通りで、今回は2018年の中間選挙を上回る投票率となることが見込まれております。通常であれば投票率が上がることによって、民主党の支持基盤である若者だとかマイノリティとか普段投票しない方々が投票することによって民主党が有利となるというふうに伝統的には言われてきました。

ただ、トランプ時代からその常識が覆され、トランプ前大統領の支持層で普段投票しないような方々も投票所に足を運ぶようになっているので、投票率上昇によって共和党にもメリットがあるかもしれないというのが現状です。

大統領選と比べると中間選挙というのは投票率が下がるんですが、どちらの政党が支持基盤の投票率を高めることができるかによって、上下両院の勝敗にかなり影響が及ぶと思っています。

トランプ氏の影響力は?

今回の選挙の一番の争点はやはり経済。インフレ対策で成果が見えず、不利な立場に置かれている民主党は、女性の有権者登録を増やすことになった人工妊娠中絶問題を争点として強く打ち出す一方、共和党は経済に加え、犯罪拡大や移民問題にフォーカスを当てているという。

そして、この選挙でも強い存在感を示しているのが、次の大統領選出馬に意欲を見せていると言われるトランプ前大統領だ。

――共和党の予備選ではトランプ氏が支持した候補の多くが勝ちあがっているんですが、こうした候補者が本選でもその力を見せることができるのでしょうか?

今回の中間選挙では、上院選ではジョージア州の元フットボール選手のハーシェル・ウォーカー候補、そしてペンシルベニア州では医師のテレビ司会者のメフメト・オズ候補、通称Dr. Ozですね。それに加えてアリゾナ州では、投資家のブレイク・マスターズ候補など、いずれも政治経験がない候補がトランプ大統領の推薦によって予備戦を勝ち抜いています。

本選では、本来であれば例えばジョージア州などで、共和党が容易に勝てるようなレッドステート(共和党寄りの州)であるにも関わらず、こういった候補の資質によって勝てない可能性というのも大いにあると思います。

ただ、仮にこれらの州でトランプ前大統領が支持する候補が本選でも勝利すれば、トランプ前大統領の党内での影響力というのも増すのではないかと思います。

――その可能性というのはどう見ていらっしゃいますか?

選挙終盤に入ってきてから共和党の追い風が吹き始めておりますので、一部の州では候補の資質に関係無く、この赤い波に乗って勝利できる可能性というのも大いにあると思います。

――候補者に対して一票じゃなくて、党に一票を投じている人たちが少なくないと?

そうですね。これはここ最近のアメリカにおける選挙で共通しているのですが、各候補の誰か、その資質ではなくて、どの政党に所属しているかということによって投票先を決めるという有権者が増えてきているように思います。

2024年大統領選への影響は?

――今回の中間選挙で注目の選挙区、候補者を教えてください

まず上院に関しては先ほどちょっとお伝えしましたけれども、ジョージア州で問題を多く抱えるハーシェル・ウォーカー候補ですけれども、共和党の赤い波によって勝利できるかどうか、それが注目だと思います。

下院に関しましては、バージニア州第7選挙区ですね。民主党の現職議員、アビゲイル・スパンバーガー下院議員が当選できるかどうかというのも注目しています。スパンバーガー議員は元CIA職員で非常に輝かしい経験、経歴をお持ちですが、今回の選挙で赤い波に飲み込まれて敗退するかどうかに注目しております。バージニア州に関しましては早い時間に選挙結果が判明しますので、選挙当日、その共和党の赤い波の高さがどれだけ大きな波であるかというのを把握する上でも注目の選挙区だと思います。

――今回の中間選挙が2024年の大統領選挙に及ぼす影響はどう見ていますか?

仮に本日大統領選の共和党予備選が行われた場合は、トランプ前大統領が共和党の指名候補を獲得するのは確実視されています。

ただ、中間選挙でトランプ前大統領の推薦する候補が多数負けた場合は、共和党内でトランプ前大統領の責任追及が始まって、2024年大統領選でトランプ前大統領の影響力が低下する可能性も多いにあると思います。その場合は、例えばフロリダ州デサンティス知事などは、人気がさらに高まることが考えられます。

もう一つは、今回アリゾナ州をはじめいくつかの激戦州で知事選、そして州務長官選などで、2020年大統領選の不正を訴える候補が多数出馬しております。仮に彼らが勝利すれば2024年、大統領選で、その結果の認定を巡って混乱が起こるリスクというのも想定されると思います。

(FCIニューヨーク「FCI News Catch!」) 

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