日本で働く外国人2番目に多いのはベトナム人

外国人労働者の受け入れ拡大に向け、「出入国管理法」改正案が、21日実質審議入りした。
政府はこの国会で改正案を成立させ、来年4月の新制度スタートを目指す。
現在日本で働く外国人は127万人。国籍別では、中国が3割を占めてトップだが、2位は技能実習生が多いベトナムで、その数は24万人(2017年10月末現在)。この5年でほぼ9倍と急増している。政府は外国人受け入れ数を5年間で34万人と想定しているが、そのうちの約半分は現在の技能実習生からの移行となる見込みだ。

今後外国人労働者の一大勢力となるベトナムを現地取材した。

「ASEANの優等生」ベトナム

ベトナム・ハノイ市内
ベトナム・ハノイ市内
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ベトナムの首都ハノイ。
季節は秋だが、日中の気温は30度近くで湿度が高く、外を歩くと汗が噴き出してくる。ベトナムは人口9千万人を超え、急速な経済発展を遂げており、「ASEANの優等生」と言われる。路上はバイクを運転する若者で溢れ(平均年齢28歳といわれる)、信号など社会インフラの整備はまだまだだが、街中には成長への若いエネルギーとカオスが満ちている。成熟した高齢社会の日本とは、全く違う風景が広がっているのだ(日本の平均年齢は46歳)。

日本とベトナムの国交樹立は1973年で、今年国交45周年を迎える。ベトナムは勤勉な国民性と高い生産力をもつことで知られるが(英語能力は日本人を上回っているという調査結果もある)、日本とは2008年にEPA(経済連携協定)を結び、看護師などの労働力を早くから送り出してきた。一方日本はベトナムへの直接投資国としてトップクラスであり、経済を通した日ベトナムの絆は固い。

ベトナムのポテンシャルに注目する神奈川県

ハノイ市内で開催されたイベントで挨拶する神奈川県の黒岩知事
ハノイ市内で開催されたイベントで挨拶する神奈川県の黒岩知事

ベトナムのポテンシャルにいち早く注目してきたのが、実は神奈川県だ。
神奈川県は先週末ハノイで、ベトナム政府首脳との会談やPRイベント「神奈川フェスティバルin
ハノイ」を行った。神奈川県はベトナム関連イベントである「ベトナムフェスタin神奈川」を横浜市ですでに4回行っており、イベント中は40万人が訪れるという。しかしベトナム国内でイベントを行うのは今回が初めてだ。ハノイの中心部で行われたイベントでは、「よさこい」パフォーマンスや小田原市ゆかりの「風魔忍者」ショーが行われ、多くのハノイ市民が足を止めてステージを見入っていた。

日本人との親和性が高いベトナム人

神奈川県の黒岩祐治知事に、なぜベトナムなのか聞くとこう答えた。
「イベントを始めたのは、当時の駐日大使からの依頼がきっかけです。これからどの国が重要性を増すかを考えると、中国の次にインドネシアやタイ、その次に来るのはベトナムだと」
神奈川県には173の国と地域の約20万人の外国人が住んでいる。2015年から国家戦略特区を活用して、外国人労働者の家事代行への就労を進めてきた神奈川県では、中でもベトナム人労働者に対する想いは人一倍熱い。
「まじめな人が多く、仕事を一生懸命にやる。日本人との親和性が高く、しかもびっくりするほど親日です。ベトナムは外国人労働者としてEPAで先鞭をつけてきました。外国人労働者を受け入れる中でも、ベトナムはモデルケースになるのではないでしょうか」(黒岩知事)

 外国人労働者受け入れは「避けられない道」という黒岩知事はこう語る。
「ただ労働力不足だから来てくれでは、うまくいかない。来てもらったら共に生きるというかたちが出来上がらないと、後々大きな問題になる」
こうした考えのもと神奈川県では「多文化共生」を打ち出し、「それぞれの個性を尊重しながら共に生きていく社会づくりをするモデルになる」(黒岩知事)という。

ベトナムは日本市場をどう見る?

神奈川県ではイベントを始めて以降、すでにベトナム企業6社が進出を決めたという。労働力やインバウンドのみならず、ベトナムからの投資も今後の日本にとって重要だ。
では、ベトナムは日本を市場としてどう見ているのか?

日本市場に熱い視線を送っているベトナムの起業家を取材した。
いま注目されている、英語学習アプリ「ELSA(エルサ)」。エルサは、英語の単語やフレーズ、文章などの発音の間違いをAIが指摘し、修正するアプリだ。2015年からサービスをスタートしたが、すでに利用者は世界で350万人。100か国以上で利用され、ベトナムやインドと並んで主要マーケットとなっている国が日本だ。

ELSAの共同創始者 Vuさんと筆者
ELSAの共同創始者 Vuさんと筆者

このアプリの共同創始者は、在米のベトナム人Vu Van(ヴーヴァン)さん。ヴーさんは、ベトナムで生まれサイゴンの大学を卒業後、アメリカのスタンフォード大学でMBAを取得し、現在サンフランシスコに住んでいる。
「アプリの開発を思いついたのは、自分がスタンフォードで学んでいる際、発音の問題で英語のコミュニケーションが難しかったのを痛感したからです。英語を使いこなせない人は、いい仕事にも就けず所得が低いという調査結果もあります」

エルサは、日本でもすでに20万人の利用者を獲得している。
「いま日本ではエンジニアを個別に雇っていますが、今後は拠点を設けて広げていくつもりです。いまCEOを募集中です。だれかいい人知りませんか(笑)」

急成長するベトナムは、労働力やインバウンドだけでなく、ビジネスのよきパートナーとしてますます存在感が増しそうだ。

(執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。