留学生を鎖で拘束する人権侵害の事件があった、福岡市の日本語学校。国から留学生の受け入れを認めない処分を受けたが、裁判所の決定で一転、当面の受け入れが可能となった。翻弄される留学生たちのいまを取材した。

留学生を鎖で拘束して逮捕、学校側へ処分のはずが…

問題の発端は、SNSで拡散された一本の動画。
2021年10月、転校を申し出た留学生のベルトに、講師が鎖をくくりつけ数時間にわたり身体を拘束したという。
撮影されたのは、福岡市南区の西日本国際教育学院だった。

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事態を重く見た出入国在留管理庁は、学校に対し、新たな留学生の受け入れを5年間認めない処分を出した。また警察も、学校を退職した元講師の男を逮捕、監禁の疑いで書類送検した。

この日本語学校は、国から留学生の受け入れを認めない処分を受けたのだが、多くの学生が現在も普通に通っている。

在校生の約630人は今も通学を続けている
在校生の約630人は今も通学を続けている

学校の在校生は約630人。なぜ留学生たちは、これまでと変わりなく通学できているのか?

それは、学校側が「鎖でつないだ人権侵害は元講師が行ったもので、組織的に行ったわけではない」として処分の取り消しを求める訴えを起こすと共に、処分の執行停止を申し立てていて、福岡地裁が判決が出るまでの間に限り、留学生の受け入れを認める決定を出したためだ。

留学生たちは、今回の事件や学校の対応をどう見ているのか―。

いまだ転校許されず…「満足のいく教育レベルではない」留学生たちが訴え

9月、県内の某所。1人の生徒が、匿名を条件に取材に応じてくれた。

――撮影時に、やらないで欲しいことありますか?
在校生:

顔だけは絶対に写さないようお願いします。学校の先生からインタビューには答えるなと注意されているので

在校生:
(事件について)説明会は15分でした。
転校したいと相談しても、学校の先生は対応してくれません。処分には、絶対ならないからと

留学生たちの間で噴出しているという、不満や学校への不信感。

学校側は今回の事件を受けて、転校手続きなどを進める「学生サポートセンター」を設置したが、事実上、転校は許されない状況だという。

在校生:
私のクラスは100%、みんな転校したい。一番心配なのは、この学校を卒業しても日本語の能力が身につかないこと。学校の先生たちは耳の遠いおじいちゃん、おばあちゃんばかりだし、出席だけ取って後は自由に勉強させられる

SNSでは、9月のある日の授業風景の様子が投稿されていた。

9月14日の授業風景
9月14日の授業風景

撮影された時刻は、正午過ぎ。まだ授業時間のはずだが、前列の生徒は眠り、講師の男性は1人の生徒とダンスを楽しんでいるように見える。

”鎖事件”だけでなく、教育レベルも満足できるものではないと留学生たちは訴える。
事件発覚後の9月、取材に応じた西日本国際教育学院の元講師は、利益を優先して学生の定員を増やし過ぎたあまりに講師の人数が足りなくなっていたこと、学園総長による威圧的な経営体制の下で約5年間で90人以上の職員が退職し、教育の質が保てていないこと、などを指摘していた。

元講師が威圧的な経営体制を明かした(9月放送)
元講師が威圧的な経営体制を明かした(9月放送)

西日本国際教育学院 元講師の男性インタビュー:
(学園総長の)指示に従えなくて罵倒され「辞表を書け」と言われて退職に追い込まれる、そういった人が本当に多かったですね

“鎖事件”当事者の元講師「なぜコトがここまで大きくなったかわからない」

”鎖事件”を起こした当事者で、西日本国際教育学院を去った元講師はいま、何を思うのか。
関係者を通じて、元講師の話を聞くことが出来た。

元講師(取材メモより):
(暴れる)学生の身を、自分のすぐ近くにとどめておくための行動だった。学生には申し訳ない事をしたと思っている。
ただ正直、なぜコトがここまで大きくなったのか分からない。自分も他の職員も、いつも通り上からの指示に従って、学生課職員としての対応をした。
勝手な対応をして上層部から問題視された場合、学園総長か理事長から、全職員の前でつるし上げられ怒鳴られる。当時は何らとがめられることは無かった。学園総長は「指導対象の学生が正直に言うまで帰すな、ずっと(職員室に)置いとけ」と常日頃から言っていた

取材に応じた別の元講師と同様に、学園総長が留学生を厳しく指導するよう指示し、それができない職員は罵声を浴びせられていたことを明かした。

しかし”鎖の事件”が、SNS上で話題になると、態度を一変させたという。

元講師(取材メモより):
1階の応接室に呼び出され、学園総長から「学校もかばいきれん」「身を引いてくれんか」と言われた。理事長からは「今回の事は問題とは思わない」と言われた。自己都合退職扱いで退職しました

学園総長の威圧的な指導方法が、事件や問題を引き起こす原因になっているのではないか。
学校側に質問状を送ったが、学校側は学園総長の責任には触れず、学校内での人権意識やコンプライアンス意識の低さを反省していると回答した。

学園総長が語っていた…講師や留学生に“恨み節”

しかしテレビ西日本は、学園総長が過去、自らの指導について非を認める録音データを入手した。

宮田学園総長(2016年10月録音より):
俺のやり方が、まずかったけんやろうね、辞めていくやつはね、何人も入管とかに言うていっとる

2016年、学校幹部が集うミーティングでの学園総長発言。学園総長は「俺のやり方がまずかった」と語る一方で―。

宮田学園総長(2016年10月録音より):
向こう(入管庁)の言い分も、辞めていく人は「総長の考え方について行ききらんで辞めていくようですね」という言葉まで出たしね。「私はそんな難しいこと、出来ないことをしてきた訳ではないと、そりゃ本人が出来んけん辞めていったんじゃないですかね」という風なことを言ったけれども。
特にね、外国人はね、すぐにね、入管とかに、いままでの経験からいけば、たれ込むというか、助けを求める。学生もそうですよ。学生でも「進学させんやった」とか言うて、入管に行っとるたいね

学園総長は、学校を辞めて入管に助けを求めた講師や留学生たちに対し、恨み節を語っていた。
今回の問題で現状、裁判所が一時的に留学生の受け入れを認める決定を出した訳だが、正式に処分が取り消された訳ではない。

国の処分から約1カ月。学校を辞めたいという声が、いまなお複数上がっていて、学校側の日本語教育、指導のあり方に厳しい目が向けられている。

(テレビ西日本)

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