今年7月、奈良市でおきた安倍晋三元首相銃撃事件を受けて、警察庁は遊説会場の分析や地元警察による警護計画をチェックするなど要人警護の強化に主体的に取り組むことを決めた。このため上空撮影のためのドローンや防弾用のついたてなどの装備、また警護現場を詳細に検証するための3D画像の分析、AIによる異常行動の検知システムの導入も検討している。

こうした3D技術などの開発を進め、警察庁に提案している(株)NTTデータに最先端の画像分析や人流データの活用について聞いた。

人工衛星の50センチの解像度画像から

これは奈良市の銃撃現場の衛星画像だが、画面中央付近には演説会場となったガードレールで囲まれたゼブラゾーンや発砲があった車道などが鮮明に捉えられている。

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3D画像は地球上を周回している人工衛星の画像から作成されるが、ウクライナの衛星画像を公開しているアメリカのマクサー社の4機の人工衛星は、日本上空でも500~600キロの高さからそれぞれ1日に1~2回、長さ数100キロ、幅15キロのエリアの撮影を行っている。

NTTデータでは「AW3D(全世界デジタル3D地図サービス)」という最先端の画像処理技術で、2.5メートルの解像度の衛星画像から作成した全世界の3D画像をすでにデータベース化している。日本に関してはマクサー社の50センチの解像度の衛星画像を使って3D化していて、車や人影を確認することができ、顧客の要望に応じて撮影エリアの指定もできる。

3D画像の作成では、衛星画像に映った建物の形状が抽出され、別の角度でも撮られた複数の衛星画像から高さ1メートル程度の誤差で建物の高さが計算される。そして3Dの建物などに、コンクリートや金属のグラフィックを貼り付けて質感をだして完成となる。

どの場所からも360度確認

ヘリやドローンによる撮影でも上空からの確認はできるが、衛星画像は定期的な観測データが地図として蓄積されているので、エリアを指定すれば正確なビルの高さなどに基づいた3D画像が作成され、撮影時期を比較すればそのエリアの変化も分かる。そして3D化によって指定した場所から360度のあらゆる角度での解析が可能となる。

用途は海外ではODAの空港やダム建設のための地形確認、安全保障に関わる各国情勢の把握、国内では自動運転のための地図作成、携帯電話の電波障害地域の確認、災害の状況把握など幅広く、民間から官公庁まで活用している。

自動運転用の地図
自動運転用の地図
携帯電話の電波障害調査
携帯電話の電波障害調査

3D画像の防犯力

では銃撃事件などを防ぐための防犯の視点ではどのように活用できるのだろうか。

3D化した画像からは例えば狙撃手を想定して、ビルの屋上にポイントを設定するとそこから見通せるエリアと死角になるエリアが分かる。逆に街頭演説の地点から見通せる場所も俯瞰で分かり、警備に有効活用できる。

また防犯カメラの設置場所を決める際にも、死角をなくすような設置ができる。

東京五輪で建設された新国立競技場周辺では、風力予測のソフトと組み合わせて、風の流れの解析が行われた。応用すれば有毒ガスなどが拡散した時の解析にも利用できる。

レーダー衛星で曇りや夜間でも撮影

太陽の反射光を使う通常の人工衛星は曇りや夜間だと撮影できないが、昨年7月3日に発生した静岡県熱海市の土石流災害では、発生後も1週間ほど天候が悪かったため、曇りや夜間でも電磁波を使って撮影できるレーダー衛星で、崩落の発生場所を特定した。

また天候回復後はマクサー社の衛星を使って、災害発生前と発生後の画像を比較することで、土石流の正確なルートを解析して自治体に提供した。

一方、警察庁はAIによる挙動不審な動きを探知するシステム導入も目指している。

2014年のロシアのソチ五輪では体の振動から精神状態を解析するシステムによって会場入り口などでの不審者発見につながった。

4D技術 人流データの活用

NTTデータでは建物を再現する3D技術に加え、携帯電話から得られる人流データや車の走行記録といった時間軸のデータを重ね合わせる4D技術により、施設内のどこにどれくらいの人がいるのかなどを検知・予測する技術開発にあたっている。

商業施設などではすでに携帯電話の情報から来店者の人数や属性を推計し、在庫の確保や商品販売、食事クーポンのプッシュ通知なども行われている。

新型コロナ禍では携帯電話の基地局データから人流や位置情報を把握する動きが本格化し、繁華街の混雑分析や東京五輪ではスタジアム周辺の混雑予想に利用された。

東京五輪の混雑予想(出典:東京都)
東京五輪の混雑予想(出典:東京都)

警備だけでなく災害でも

こうした人や車などの動きを把握できる4D技術は今後、施設や雑踏の警備、不審者の発見などにも活用できる。また災害が発生したときの行方不明者の捜索、救助活動や避難誘導、避難所の効率的な救援物資の配布などにもつながる。

リアルタイムの人数予測技術
リアルタイムの人数予測技術

警察庁の担当者は「3D画像で警護現場を再現して建物の高さや見通しなど正確な情報を確認できれば、警護計画の策定に役立つ。またAIは現場での不審な動きを察知し、警護ゾーンへの侵入を防ぐことにもつながる」と期待を寄せている。今後、予算化されれば実証実験を経て、具体的な活用方法を検討する方針だ。

画像提供:(株)NTTデータ

【執筆:フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】