近年、大雨による浸水被害や河川の氾濫が頻発していることから、浸水の状況をいち早く把握し、迅速な災害対応を行うことが重要となっている。
こうした中で国土交通省は、浸水状況をリアルタイムで把握する仕組みの構築に向けて、500円硬貨サイズの小型センサー「ワンコイン浸水センサ」を使って、河川の氾濫や浸水被害を速やかに把握するシステムの実証実験を始めた。
「ワンコイン浸水センサ」の特徴は“小型・長寿命・低コスト”で、堤防や流域内に多数の設置が可能であること。
そして、実証実験の狙いは、堤防の越水・決壊などの状況や、地域における浸水状況の速やかな把握のため、この「ワンコイン浸水センサ」を企業や地方自治体などとの連携のもとに設置し、情報を収集する仕組みを構築することにある。
実証実験は、8月上旬から徳島県美波町で始まり、愛知県岡崎市や兵庫県加古川市、南あわじ市、佐賀県神埼市でも、順次、始める予定だ。
美波町の実証実験では、「ワンコイン浸水センサ」を過去に浸水被害があった町内各地の6カ所に39個を設置した。
機器の機能から、浸水情報の活用方法なども含めて、検証する予定とのことだ。
確かに、このような“小型・長寿命・低コスト”で、堤防や流域内に多数の設置が可能であれば、浸水状況を速やかに把握できるかもしれない。
「水に浸かると電波が弱くなるため、その情報をサーバに収集する」
8月に実証実験が始まった「ワンコイン浸水センサ」。一体、どのような仕組みなのか? また、「ワンコイン浸水センサ」に関して、現状、どのような課題があるのか?
国土交通省の担当者に話を聞いた。
―――「ワンコイン浸水センサ」とは何?
“小型・長寿命・低コスト”で多数の設置が可能となる、浸水状況を把握するためのセンサのことです。
――どんな仕組み?
センサが水に浸かると電波が弱くなるため、その情報を通信回線によって、サーバに収集します。WEBサイト上で浸水情報をリアルタイムに見ることができるようにするシステムも構築中です。
――名前の由来は?
浸水情報を広範囲でリアルタイムに精度よく把握するためには、多数のセンサを設置することが必要となります。多数のセンサを設置するためには、サイズも価格もワンコイン(500円程度)とする必要があるためです。
――ワンコインのサイズにした理由は?
設置が容易となるように、ワンコイン程度の小型のサイズとしています。
――「ワンコイン浸水センサ」の設置を進めようとしている理由は?
大雨による浸水被害が頻発する中、迅速な災害対応や地域への情報発信を行うため、堤防における越水や決壊などの状況や、周辺地域における浸水の状況を、速やかに把握することが求められています。
また、流域内で活動を行う様々な企業などにおいても、店舗や事業施設の適切な管理、住居や車両の浸水被害への保険金支払いなどの災害後の対応の迅速化などのため、浸水の状況を容易に把握する仕組みへのニーズが高まっています。
こうしたニーズに対応するためには、小型、長寿命かつ低コストで、堤防や流域内に多数の設置が可能な「ワンコイン浸水センサ」を製造、設置し、それらの情報を収集する仕組みの構築が必要だと考えました。
――そもそも、自治体などはどのようにして浸水状況を把握している?
主に巡回や、屋外カメラや水位計などを設置している場合は、これらの情報などによって把握しています。
センサを設置する関係者をどう増やしていくかが課題
――実証実験は、いつから、どこで行う?
実証実験は、今年度は5つのモデル地区(愛知県岡崎市、兵庫県加古川市・南あわじ市、徳島県美波町、佐賀県神埼市)で行われます。
今年度の実証実験結果を踏まえて、来年度も「ワンコイン浸水センサ」の設置数やエリアの拡大を検討し、実証実験を継続する予定です。
――美波町の実証実験はいつまで行われる予定?
2022年8月上旬から現地に「ワンコイン浸水センサ」などの機器の設置が完了し、監視を開始しています。いつまで行うのかについては、未定です。美波町での、今年度の結果や参加者の意向なども踏まえて、今後、決定される予定です。
――美波町の実証実験で、浸水センサを設置する場所はどのように決めた?
過去に浸水の実績がある場所など、「ワンコイン浸水センサ」で浸水を把握することによって、道路の通行止めや住民への避難指示など、自治体の防災対応の助けとなる場所に設置する目的で、美波町が決定しております。
――実証実験では、どのようなことを検証する?
実証実験全体としては、「ワンコイン浸水センサ」の設置や接続に関すること、「ワンコイン浸水センサ」の浸水検知機能、浸水情報のWEBでの共有方法、入手した浸水情報の防災対応への活用方法など、機器の機能から、浸水情報の活用方法なども含めて、検証する予定です。
――「ワンコイン浸水センサ」に関して、感じている課題は?
浸水状況の速やかな把握には、流域内の官民様々な関係者が連携して、多数の「ワンコイン浸水センサ」を様々な場所に設置することが必要です。
「ワンコイン浸水センサ」を設置する関係者を、今後、どのように増やしていくかが課題と感じています。増やしていくためには、さらなるコストダウンや活用方法などを検討していく必要があります。
――どのように「ワンコイン浸水センサ」を活用していこうと考えている?
以下のような活用を想定しています。
【災害時】
・早期の人員配置(道路冠水による通行止め、避難所の開設など)
・ポンプ車配置の検討
【復旧時】
・罹災証明の簡素化、迅速化
・保険の早期支払い
・災害復旧の早期対応
これに加え、実証実験を通して、さらなる活用方法やメリットを見出す必要がございます。
――最終的には全国に設置することを考えている?
最終的には全国に設置することを目指しています。
“小型・長寿命・低コスト”で多数の設置が可能となる「ワンコイン浸水センサ」。自治体が浸水の状況をいち早く把握し、迅速な災害対応を行うことを可能にするためにも、今後、全国で設置が進むのか注目したい。