イヌは長時間離れてから飼い主と再会すると涙が増える

イヌが飼い主と時間を置いて再会すると、イヌの涙の量が増える。一方で、飼い主でない親しい人と再会した場合は増えない。こうした興味深い研究結果が麻布大、自治医科大、慶應義塾大の研究チームによって明らかになった。

飼い主とイヌが再開した様子(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)
飼い主とイヌが再開した様子(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)
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研究チームは、イヌが飼い主と一緒にいる時と、飼い主と長時間(5時間~7時間)離れてから再会した時のイヌの涙の量を調査した。その結果、飼い主と長時間離れてから再会した時、イヌの涙の量が15.9%増えた。また、飼い主ではない親しい人と再会した時には、涙の量は増えなかった。

さらに、飼い主とイヌが特別な関係を築く上で重要だと考えられているオキシトシンというホルモンについて、イヌへのオキシトシンの点眼により涙液が増加することもわかり、涙の分泌にはオキシトシンが作用している可能性が示された。

また、研究チームはイヌの涙の人への社会的な作用を調べるために、人工涙液を点眼した目が潤んだイヌの画像とそうでないイヌの画像を人に見せて、どのような印象を持つかを調べた。その結果、目が潤んだイヌの方が人にポジティブな印象を与えることがわかった。

研究チームは今回の研究について、「イヌにとって、涙はヒトからの保護活動や養育活動を引き起こすような機能があり、オキシトシンが関与していることが示唆されました。このようなイヌの情動による涙はヒトとの共生の歴史において有利に働いた可能性が考えられます」と述べている。

では、イヌが流す涙というのは、どんな意味があるのか?また、なぜ人は目が潤んだイヌに好印象を持つのか?研究チームの一人である麻布大学獣医学部の永澤美保准教授に詳しく話を聞いてみた。

イメージ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)
イメージ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)

野生では威嚇を示す「みつめる」を、イヌは親和的なシグナルに利用

――なぜこの研究を始めた?

もともと私たちの研究チームは、ヒトとイヌという異種の間で、オキシトシン神経系を介した絆が形成されるかどうかを調べていました。オキシトシンは社会行動の制御に関与するホルモンであり、母子間の絆形成にも関わっています。その結果、イヌが飼い主をみつめることで飼い主のオキシトシンが上昇すること、イヌが飼い主を見つめる行動はオキシトシン投与によって増加することがわかりました。

そのため、イヌとヒトが親密な関係を結ぶ上で、見つめ合うという社会的シグナルがとても重要であると考えていました。野生動物では、相手を見つめることが威嚇行動であると考えられています。そのため、争いを回避するには目をそらす必要があります。しかし、人間は、見つめ合いを威嚇的にも、親和的にも使い分けることができます。イヌも、本来は見つめることは威嚇的に使いますが、ヒトに対しては、ヒトと同じような意味を持って使い分けることができるようです。

では、みつめあうことでなぜ親和的になれるのか?については、育児中のイヌの表情がヒントになりました。学生たちが育児中のメスイヌをみて「普段よりもかわいく見える」「目が潤んでいる」と言っているのを聞いて、育児中にもっとも分泌されると考えられるオキシトシンが涙腺に作用しているのではないかと考えました。

※飼い主を見つめるイヌ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)
※飼い主を見つめるイヌ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)

――イヌの涙と飼い主の関係については、これまでどこまでのことがわかっていた?

人間以外で情動の変化によって涙が分泌されたことを示したのは今回が初めてです。


――研究結果からどんなことがわかる?

上述の通り、本来威嚇を示す「みつめる」という行動を、イヌは人間に合わせて親和的なシグナルとして利用するようになったと考えられます。また、オオカミに比べてイヌは目の周りの筋肉が発達しており、悲しげな表情をすることができるという研究結果もあります。
これらは人間に好まれる形態や性質をもったイヌが選ばれて残ったためだと考えられますが、イヌが、使役動物としての能力と同時に、ヒトとの関係性を深めていくという方向で選ばれてきたということが考えられ、他の家畜とは異なる役割を持っていたと推測できます。
 

おそらくイヌは快いと感じ、涙の分泌が促進された

――イヌはどんな時に涙が出る?

涙は眼球を保護する役割がありますので、常に分泌されています。
情動が大きく変化したときに分泌量が増えると考えています。人間と違い、イヌは「感情」を言葉で表現できませんので、具体的にどんな時かはわかりません。ただ、今回の場合は、飼い主との再会時の行動などから、おそらく快情動によって涙の分泌が促進されたと考えられます。


――イヌの涙は“嬉しい”というより“かまって欲しい”という気持ちの表れ?

上述の通り、イヌの「気持ち」は測定することができません。また、飼い主との関係性や再会時の状況によって異なっていると思われます。
 

人間は保護しなければならない対象として受け取る

――なぜ人は目が潤んだ犬のほうに良い印象を受ける?

一般的に、若くてかわいらしいものを保護したくなる欲求が動物にはあると考えられています。また、人間は人間以外の生物だけではなく、非生物に対しても、人間らしさを見出す習性があります。そのため、イヌが何を考えて目を潤ませているのかは実際のところはわかりませんが、人間側の豊かな想像力で「保護しなければならない対象」として受け取るのではないでしょうか。

――この結果をふまえ、今後どんな研究をしていく予定?

イヌとヒトが調和のとれた関係を結ぶことがなぜできるのかについて、引き続き調べていきたいと考えています。
 

※イメージ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)
※イメージ(画像提供:麻布大学獣医学部 永澤美保准教授)

研究者によると、イヌが何を考えているかはわからないが、イヌは快いと感じて目を潤ませているようだ。イヌを飼っている人は、良好な関係を築いていくためにこのことを頭の片隅に入れておいても良いかもしれない。