韓国の人気グループBTSが2022年6月、グループ活動を休止しソロ活動に専念すると発表したが、韓国ではその後「兵役」をめぐる議論が再燃している。

釜山市の朴亨埈(パク・ヒョンジュン)市長は18日、BTSに兵役特例を適用するように大統領府に要望した。2030年万博の釜山誘致実現を目指す釜山市にとって、広報大使をつとめるBTSの兵役問題は切実だからだ。

「BTSに兵役特例が適用されれば、彼らだけがやり遂げることができる力量で国家のために奉仕することになる」(朴市長)

この記事の画像(9枚)

兵役中も海外公演などは可能?

世界的人気を誇るBTSに兵役免除を認めるかどうかで揺れる中、李鐘燮(イ・ジョンソプ)国防相が国会で注目の発言をした。

李国防相はBTSメンバーの兵役について「公正性と公平性などの原則に反しない範囲内で解決できる方法がある」とした上で、具体的には「軍に来ても、軍が(グループ活動の)練習ができる時間を与えて、海外公演があれば、いくらでもできる方法があると判断している」と、軍に属しながらBTSとしての活動ができるという。

さらに「多くの人々が軍に服務することそのものを高く評価するから、かえって兵役が彼らの人気(を高めること)にさらに役立つ」とまで言及している。

一方、兵役免除に関して徴兵制度などを管轄する兵務庁のトップは「兵役特例の枠組みを崩すことになりかねない」として兵役の免除については否定的な見解を示した。

つまり、韓国政府は“兵役で入隊はするが、徴兵期間中も公演などグループ活動はできる可能性がある”という見解を示したことになる。

韓国の男性は、原則18歳から29歳の間に18カ月から21カ月の兵役が義務となっている。一方、スポーツの大会やピアノコンクールなどで優れた成績を残した人には兵役免除が認められている。

しかし、現在は芸能分野で活躍する歌手や俳優は兵役免除の対象にはなっていない。そのため、2020年12月に、BTSを念頭に入隊を満30歳まで延長できるように法改正をしていて、「BTS法案」とも言われている。

現在29歳のBTS最年長メンバーJIN(ジン)さんは、このままだと2022年末、もしくは2023年初めには入隊することになる。韓国では国会議員がBTSのグループ活動休止宣言は、「JINの兵役問題が主な理由」と主張するなどしていて、現在国会で芸能分野で活躍した人の兵役を3週間の軍事訓練のみにする法案を審議中だ。

芸能界、スポーツ界での“兵役逃れ”

ただ、韓国では過去に“兵役逃れ”が発覚し、大きな社会問題に発展した。

日本の映画にも出演した俳優のソン・スンホンさん(45)が2004年、ブローカーに金を払い、尿の検体をねつ造して病気を装い兵役を逃れた。しかし、その後不正が発覚し謝罪。結局、入隊することになるが、その際に多くのファンが涙を流して見送った姿は日本でも大きく報じられた。

またラップとダンスで人気だった歌手のユ・スンジュンさん(45)は、徴兵直前の2002年に兵役逃れのため突然、アメリカの市民権を取得した。彼はそれまで「兵役の義務を果たす」と話していたため国民は激怒。韓国政府は20年たった今も韓国への入国を認めていない。

また、スポーツ界でもプロ野球選手が薬と血液を混ぜた尿を提出したり、検査前に濃いコーヒーを大量に飲むなどして不正に兵役を免除されたこともあった。この時は、実に51人が摘発されるという大型の兵役逃れ事件になった。

このような不正があったこともあり、韓国では兵役に関して徹底して公平性を求める厳しい世論がある。

“慎重姿勢”の尹大統領 支持率低下も影響か

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領はBTSの兵役免除について「世論が容認するなら、規定を国会で直すことになるだろう」と話す一方で…「私が今、言及する状況ではない」と慎重な姿勢も示している。

2022年4月に行われた世論調査ではBTSなど芸能分野で活躍する人を兵役特例の対象にすることに賛成は59%、反対は33%と賛成が上回っている。(韓国ギャラップ)世論調査では賛成の方が多いものの、尹大統領がはっきりとした姿勢を示さないのは、兵役が社会的に非常にセンシティブな問題だからだ。

さらに、こんな事情もありそうだ。尹大統領の支持率は、就任当初は50%程度だったが、6月に入って下がり始め、7月最終週についに「危険水域」と言われる30%を初めて割り込み(28%)、さらに、8月に入ると24%まで落ち込んだ。(8月5日・韓国ギャラップの調査)文在寅前大統領の最低支持率29%を早くも下回っていて、まさに下げ止まらない状況だ。

支持率が低い現状で、社会的な影響が大きい兵役制度についてはっきりとした方針を示すのが難しい状況とも言える。そのため「兵役で入隊はするが、公演する機会は作る」という“玉虫色の対応”を取らざるを得ないのではないかという見方もある。

ただ、支持率の低さは兵役問題だけでなく、国民の感情を左右する歴史問題をはじめ、日韓関係の改善にも影響しかねないため、今後の動向を注視する必要がある。

【執筆:FNNソウル支局長 一之瀬登】