7月にタイで、車いす卓球の世界大会が開かれた。
混合ダブルスのクラスで、見事、金メダルを獲得した女性がいた。その女性の年齢はなんと74歳!
これまでパラリンピックには4度も出場した、”パラ卓球界のレジェンド”だ。
兵庫県明石市在住の”別所キミヱ”さん。
その波乱万丈の人生と、今なお現役で精力的に戦い続ける「理由」を取材した。
パラ卓球界の”レジェンド”「バタフライ・マダム」
兵庫・明石市にある卓球クラブ・ALLSTARで、派手な見た目に頭には蝶の髪飾りをしている女性が卓球の練習をしている。
その女性は、明石市に住む別所キミヱさんだ。
長年、パラ卓球界を牽引し、74歳の現役選手だ。人呼んで「バタフライ・マダム」!
別所キミヱさん:
卓球を通して人生観変わったし、気がついたらココまで来てたみたいな感じ

キミヱさん:
いろんな障害を持ってる人って、(色)メガネをかけて見られるようなところがあって、それはいかんなと。「私もひとりの人間だよ」「個々の人間だよ」「個性だよ」って思うようになって。どんどんと卓球から自分をアピールするようになった。皆さん見てくださいって

車いす卓球ってどんなスポーツ? 橋本キャスターも体験!
車いす卓球とは、障害の種類や程度によって、クラス(1~5クラス)は分かれる。
車いす卓球はどんな競技なのか、橋本キャスターが車いすに乗って体験してみた。

橋本キャスター、いい調子でキミヱさんとのラリーが続く。
しかし、最後は少しバランスを崩して「空振り」。
すると、キミヱさんからすかさずアドバイスが…
キミヱさん:
車いす持っとかないと、左手

アドバイスを聞いて、橋本キャスターがラリーを繰り返す。
しかし、手を伸ばしても球に届かず「空振り」してしまい…うまく打ち返せない。
橋本キャスター:
思ったより届かないですし、自由がきかないですね
すると再び、キミヱさんからのアドバイスが…
キミヱさん:
車いす動かさないと。車いすが足の代わりやから
橋本キャスター:
難しい。いろんな事考えないといけなくて、一つやったら一つできなくなる。これでボール見ないといけないですもんね

そして、車いす卓球ならではの、キミヱさんのスーパーショット”バタフライショット”も披露してくれた。
“バタフライショット”とは、相手コートのネット近くに山なりに返球するスーパーショットで、相手は簡単には手が届かない。キミヱさんの得意技の一つだ。

4大会連続パラリンピック出場 1日9時間も練習する”レジェンド”
別所キミヱさんは、2004年のアテネから4大会連続でパラリンピックに出場している。
2016年のリオデジャネイロ大会では、日本人最高齢出場となる68歳で出場し、5位入賞の快挙を成し遂げた。

しかし、2021年の東京パラリンピックでは大会前に交通事故にあい、コンディション不良で出場は叶わなかった。
キミヱさん:
事故にあっちゃったからね。あれがずっと尾を引いていた
(Q. 東京大会が終わって引退しようと考えたことは?)
全然思わなかった。見返そうと思ってたぐらい。ギプスしながら(日本代表の)合宿も行ったし。「来ないでください」って言われたけど、行きましたもん私。マジで

74歳になった今も、多い時は1日9時間ラケットを握るキミヱさん、とにかく練習熱心だ。そんな努力もあって、キミヱさんは世界の舞台で今も活躍し続ける。
※7月1日時点の世界ランキング10位(車いす:クラス5のカテゴリー)

とにかく明るい前向き”レジェンド” 人生救ってくれた「卓球」の面白さ伝えたい!
常に明るいキミヱさんは、自ら車の運転するなど、とってもアクティブだ。
キミヱさんは、「自分を救ってくれた卓球で、勇気や希望を与えたい」と、恩返しの気持ちでこうして定期的に卓球教室を開いている。

7月8日に、キミヱさんの卓球教室には14人が参加し、中には86歳の女性もいた。
キミヱさん:
力入っとう。そうそう、白い線
周りの参加者たちと一緒に、「上手上手」「そうそうそう」など励ましながらレッスンだ。

キミヱさんは、“ある特別な思い”を持って、こういった活動に取り組んでいる。
キミヱさん:
元気になるじゃないですか、やっぱり何かすることによって。(卓球が)きっかけになったらいいかなと
キミヱさんは、39歳の時に最愛の夫・勇(いさむ)さんを病気で失った。
そして、さらに2年後、骨盤のがんにより車いすでの生活を余儀なくされた。

そんな“どん底”から立ち直らせてくれたのが、偶然出会った卓球だった。
キミヱさんは「自分を救ってくれた卓球で、勇気や希望を与えたい」と、恩返しの気持ちでこうして定期的に卓球教室を開いている。
参加者:
今日は本当に楽しかったです、ありがとうございました
キミヱさん:
ちょっと、なんか気持ちが変わるじゃないですか…またこれをきっかけにね、楽しんでください
参加者:
いつまでできるか分かりませんけど
キミヱさん:
やろうと思ったら何歳でもできます。座っていてもできますからね

美意識の高い”バタフライ・マダム” 勝負前の「ルーティン」とは…
実は、キミヱさんには、大一番の前に必ず訪れる場所がある。
世界選手権の出場がかかった海外での大会を前に、髪の毛のお手入れにやってきた。

車から降りたキミヱさんを美容師が迎える。
(Q.お付き合いは長いんですか?)
美容師:
20年くらい
キミヱさん:
私が20歳の時から
美容師:
違います。(20歳の時)私、生まれていません(笑)
それにしても、74歳とは思えない髪のハリとツヤ!美へのこだわりが「モチベーションの向上」に。バタフライマダムのルーティンだ。

髪を巻いてもらい、セットされた自分の姿を見て、
キミヱさん:
こんないい女、誰もほっとかへんで。世の中の男性、見る目ないぞ!
さらに冗談を続ける。
キミヱさん:
誘ってくれ 独身じゃ(笑)

ずっと現役”で きょうも一歩一歩前に…「スマッシュして死にたい」
常に前だけを見つめ、歩んできた74年。
「年齢や境遇を言い訳にせず、悔いなく生きたい」がキミヱさんの原動力だ。
先週、タイで行われた世界大会では、ミックスダブルスに出場し、見事に優勝した。
目標にしていた世界選手権代表にぐっと近づいた。
キミヱさん:
今自分が、何ができるか、何をしなきゃいけないかということをやれば、次につながると思う。一歩一歩だな

(Q.人生の目標、ゴールを教えてください)
キミヱさん:
私は”ずっと現役”で卓球したいなと思っています。人生がもう卓球で終わって。スマッシュして死にたい

これが別所キミヱさんの生き方だ。
きょうも一歩一歩と前へ…そこには常に明るく前向きでひたむきな、車いす卓球の“レジェンド”の姿があった。
(2022年7月29日放送)