Dokdo letter from Korea

「独島の真実について教えてあげたい」
「教科書を信じないで」
「独島は我が領土」

こんな文面が書かれた葉書が、島根県内の中学校へ次々に届いたのは11月末の事だ。差出人は、韓国中部・世宗(セジョン)市の女子中学校に通う生徒たち。韓国が独島として不法占拠している島根県の竹島について、「韓国領だ」「日本の教科書はうそを教えている」などと訴えるもので、合計41通、韓国語や英語で書かれていた。

なぜ葉書を? 韓国の「独島」教育

韓国の中学生が送った葉書
韓国の中学生が送った葉書
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なぜこんな葉書を出したのかを、当該中学校に聞いてみた。

指導した教諭によると、韓国で「独島の日」に制定されている10月25日の前後1週間ほどの間に、独島資料作成、展示会、独島クイズ大会などが連日行われたという。この葉書も、その一環として中学2年の女子生徒が書いたものだ。韓国では「独島」教育が徹底して行われている。この学校では、2年生の道徳の授業で4~5時間、3年生は歴史の授業で3~5時間「独島」教育が行われていて、その他に、全校生徒が1週間連続で「独島」関連の映像を視聴する行事を年に2回行っているという。これらの行事は、10月の「独島の日」や4月の「独島週間」などの節目で行われている。

竹島問題は、日韓両国の大きな火種となっている国際問題だ。本来、外交ルートや学術的な分野で日韓がやり取りすべきもので、子供を使って宣伝活動を行う事に違和感を禁じ得ない。この学校の教頭は私たちの取材にこう答えた「日本の中学生たちが独島について正しい教育が受けられていないのではないのか、生徒は正しい事実の教育を受ける権利があるのに、それじゃダメじゃないかという考えから葉書を送ったのだろう。送ることは敏感な問題ではあった。校内で先生たちと送っていいのかというのを検討はしたが、生徒たちの純粋な意図を伝えるのはいいじゃないかとのことで、問題にならないと思って送ることになった」

子供の政治利用は褒められたものではない。ただ、思い返してみると、日本の中学2年生は、竹島や尖閣諸島、北方領土について、このような手紙を書くことが出来るだろうか?そのような教育を受けているだろうか?

なぜ韓国領?韓国の中学生の主張を検証する

では、葉書を書いた少女たちは、どのような教育を受け、どのような証拠をもって「独島は韓国領」と主張しているのだろうか。葉書に記載されていた主な主張は、以下の2つだ。

 1:三国史記(1145年)に書いてあるように、512年から独島は韓国領だ
 2:韓国の英雄・安龍福が直談判した結果、鳥取藩主は「欝陵島と竹島が朝鮮領になった」と発言した

このような主張に対し、島根県は竹島問題研究会の下條正男座長(拓殖大学教授)に対応を要請。下條座長は、韓国の中学生にも分かるように分かりやすく反論をまとめ、返信の手紙を送った。竹島問題への理解を深めるために、上記2つの主張に対する下條座長の反論を短くまとめる。

「三国史記に書いてあるように、512年から独島は韓国領だ」への反論

 
 

三国史記(1145年)には、512年に干山国が新羅(当時朝鮮半島に存在した国家)に編入されたと記載されている。干山国には鬱陵島(韓国領の島)と「独島」が含まれていたので、512年以来、「独島」は朝鮮半島の国の物だったというのが、韓国の中学生の主張だ。しかし下條座長の研究によると、この主張は完全に否定されている。同じ三国史記には、干山国について「或は名を鬱陵島といい、」との記述があり、「三国遺事(13世紀末)」という別の文献には、于山国の周囲は「周回二万六千七百三十歩(ぶ)」だったと明記されている。この時代の1歩(ぶ)は約1.6メートルなので、干山国の周囲は約43キロとなる。この数字は欝陵島の一周56,5キロに近い。もし韓国側が言うように、干山国が鬱陵島と竹島(独島)で構成されているなら、この数字はあまりに小さすぎると言える。

また韓国側は「東国文献備考(1770年)」という文書を根拠に、「干山国の干山島は独島だ」と主張している。当該の文は以下の通りだ。
「輿地志云、欝陵于山皆于山国地。于山則倭所謂松島也」

現代語に訳すと、「輿地志(※文書の名前、正式名称は「東国輿地志」)が伝える事によると、鬱陵と干山はすべて干山国の土地である。干山というのは、日本が言うところの松島(※竹島の当時の日本側呼び名)である」韓国の文書「東国文献備考」には干山=松島(独島)と書いてあるから、それ以前の「干山」と書いている文書はすべて「独島」を指すものである、というのが韓国側の主張だ。

しかし、下條座長の研究では、根拠が無い事が分かっている。なぜなら、この記述の引用元になっている「東国輿地志」という文書には、「干山は日本の松島の事だ」という記述が無かったからだ。元の文書に記述が無いのに「引用」したと書いてあるという事は、何らかの改ざんがなされたと考えるのが自然だ。よって干山=松島=独島という韓国側の主張は根拠が無い。

「韓国の英雄・安龍福が直談判した結果、鳥取藩主は「欝陵島と竹島が朝鮮領になった」と発言した」への反論

 
 

安龍福という人物は、韓国では教科書にも登場する「英雄」である。安龍福は1696年5月、隠岐島に密航した後に朝鮮半島に帰国した。日本滞在中に鳥取藩主と直談判し、「欝陵島と于山島はすでに朝鮮領となった」と言われたと証言したとの記録が残っている。また「松島(※現在の竹島)は于山島だ。これも我が朝鮮の地だ」とも供述していたという。この供述は、「粛宗実録」という文書に記載されていて、韓国側は、「独島=韓国領」を証明する決定的な証言だと主張している。しかし、下條座長によると、この証言には多くの疑問があるという。まず安龍福が日本に来た際に、江戸幕府が鳥取藩に安龍福を放逐するよう命じた文書が残されている。さらに、鳥取藩主は参勤交代により、地元ではなく江戸に滞在していた事も分かっている。つまり、安龍福が鳥取藩主と直談判することは物理的に不可能だったのだ。そもそも「粛宗実録」は無断で日本に渡航した罪人への取り調べを記録した供述調書であり、その内容が真実である担保は無いのである。韓国側は無批判に安龍福証言を真実だと言っているだけで、日本側の資料には、安龍福が偽証したことを裏付ける記述がしっかりと残っている。

今回記事の分かりやすさを追求するために、ポイントだけを記述したが、下條教授が座長を務める島根県の竹島問題研究会のHPには、膨大な時間と労力をかけて収集・執筆されたデータや論文が掲載されている。興味を持った方は、是非見てほしい。

韓国側に不足する「文献批判」

竹島問題研究会の下條座長が繰り返し批判しているのは、韓国側には「文献批判」が足りないという点だ。一つの文書の中で、韓国に有利と読める文章が見つかると、韓国側はその内容をほかの文書と照らし合わせて検証する「文献批判」を徹底せずに、「独島は韓国領であることを示した証拠だ」とすぐに決めつけているという。中学生たちが指摘した「証拠」も、日本側が文献批判したところ、いずれも「独島は韓国領」を示す証拠ではなかった。下條座長は中学生への返信の手紙で、「日本の教科書が歪曲していると批判する前に、(中略)文献批判をしてみてはどうですか?」と呼び掛けている。

韓国の中学生が送った葉書
韓国の中学生が送った葉書

「日韓が寄り添うための入り口に」

下條座長は取材に対し、「子供たちの葉書を読めば、純粋に独島は韓国領だと信じているのが分かる。その子供たちとのやり取りを続けることで、日本の主張について耳を傾けてもらい、両国がけんかをするのではなく寄り添うための入り口にしたい。」と話した。韓国の中学生への手紙では「またお手紙をくださいね」とも呼び掛けている。

中学生が「独島は韓国領」と書いた葉書を日本の中学校に送るというのは、日本人にとってあまり気持ちの良いものではない。しかしこれを機会に、韓国の中学生に日本の主張や文献批判について知ってもらう事は、問題解決に向けた小さな一歩になるかもしれない。当該中学校の教諭は、「日本から返信が届いたら、それをもとに勉強する必要がある。そのような過程が大事で、未来の世代が歴史を正しく学べる機会が用意されればそれ自体に意味があると思う。」と話している。「歴史を正しく学べる」という言い方が気にはなるが、今後この学校でどんな授業が行われるのか、下條座長に返事は届くのか、引き続き見ていきたいと思う。

また、韓国での徹底した「独島教育」を耳にするにつけ、日本の領土教育について、真剣に見直す必要があるのではとも痛感した。

(執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘)

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渡邊康弘
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FNNプライムオンライン編集長
1977年山形県生まれ。東京大学法学部卒業後、2000年フジテレビ入社。「とくダネ!」ディレクター等を経て、2006年報道局社会部記者。 警視庁・厚労省・宮内庁・司法・国交省を担当し、2017年よりソウル支局長。2021年10月から経済部記者として経産省・内閣府・デスクを担当。2023年7月からFNNプライムオンライン編集長。肩肘張らずに日常のギモンに優しく答え、誰かと共有したくなるオモシロ情報も転がっている。そんなニュースサイトを目指します。