7月下旬、キーウ市内の政府関連施設にある大臣執務室。約束の時間から待つこと10分、優に180センチはあろう背丈、そしてがっしりした体型の男性が笑顔で部屋に入ってきた。今回、FNNの単独インタビューに応じたミハイロ・フェドロフ デジタル変革担当相、31歳だ。

フェドロフ氏は2019年、当時28歳でウクライナ史上最年少の閣僚として現職に就いた。テレビで見たキャップこそは被っていないが、青いポロシャツにジーンズ、スニーカーという出で立ち。戦時下のウクライナでスーツ姿の閣僚は少ないが、それにしても実にラフで、若い。

ラフな服装が印象的だったミハイロ・フェドロフ デジタル変革担当相
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イーロン・マスク氏に依頼したスターリンク

フェドロフ氏と言えば、ロシアによる軍事侵攻が始まった2日後に、米テスラのCEOでスペースXも率いるイーロン・マスク氏に対して、スターリンクの提供を求めたことで知られる。スターリンクとは、衛星通信を活用したインターネットサービスである。

「私たちは戦争が始まる前からスペースXと仕事をしてきました。スターリンクもウクライナに導入しようと考えていましたが、戦争が始まり急きょ依頼しました。マスク氏は私のツイートに即座に反応してくれたのです」

ツイッターでマスク氏宛てに「あなたが火星を征服しようとしている間に、ロシアはウクライナを占領しようとしている。あなたのロケットが宇宙から着陸しようとしている間に、ロシアのロケットはウクライナの民間人を攻撃している」と書き込み、スターリンクを供与してほしいと求めた。その僅か2日後にフェデロフ氏はスターリンクが届いたとツイートし、トラックの荷台にアンテナが山積みされている画像を掲載した。

2日後にはスターリンクが届いた(フェドロフ氏のツイッターより)

「私は衛星通信を使ったインターネットの力を強く信じています。国の重要なインフラが、切断されることなく通信することができます。エネルギーインフラや回線接続に万が一の支障が生じたとしても、発電機の助けを借りればネットワークを維持することができます。重要な情報インフラや医療分野などにおいてとても重要なのです」

では、戦場においてはどのように役立つのだろうか。

「兵士たちは常に家族とつながっていることができます。それ以外の軍事面での利点については、戦争に勝ったあとにお話しします」

戦争への“備え”とサイバー戦争における優位

フェドロフ氏によれば、今回の戦争で国内にある通信用の鉄塔の12%が破壊されたという。そのほとんどはロシアが占領する地域にあり、修復不能だ。一方、支配されていない地域では、すでに破壊された鉄塔が9割は修復され稼働しているという。

「本格的な戦争が行われている今だからこそ、全ての情報システムが機能し続けていることが重要です。私たちは税金、関税、社会福祉など関わるサービスを継続して提供し、毎週のように新たなサービスを導入しています」

また、国家機密などの情報を保護することが重要だとして、危機に備えてきたと強調する。

「今こそ情報システムが機能し続けることが重要」

「軍事侵攻が始まる前に新たな法律を制定し、こうした機密情報をクラウド上や海外で保管するようにしました。開戦当初、国内のデータ保管センターが攻撃を受けた際にも、情報漏洩は一切ありませんでした」

先手を打ってきたウクライナは、軍事侵攻前から勃発していたロシアとのサイバー戦争においても、優位に立っていると主張する。

「ロシアは世界でも最も強力なサイバー軍を保有するとされています。しかし、私たちが反撃を始めると、彼らはすぐに攻撃をやめて、自分たちの情報資源が被害を受けないため守勢に回ったのです」

戦費調達に“仮想通貨”導入

戦争が始まると、ウクライナ政府は新たにもう一つの法律を制定した。ビットコインやイーサリアムなど、いわゆる仮想通貨=暗号資産による寄付金の募集を始めたのだ。資金を短時間に移動できるメリットがあり、寄付金は瞬く間に集まった。

「世界中から6000万ドル(約82億円)以上の資金が集まりました。100カ国以上の人たちがお金を送ってくれたのです。一回の振り込みで500万ドル(約7億円)を送金してくれた人もいます」

元は起業家だったというフェドロフ氏。暗号資産の価格が不安定とみるや、すぐさま次の一手を打った。

「わたしたちは『ユナイテッド24』という資金集めの新たなプラットフォームを立ち上げました。英雄となった兵士、武器や戦況などを伝える動画を掲載して、私たちが何のために資金が必要なのかを理解してもらうのです。なぜウクライナを支援するのか、なぜウクライナはこんなにクールなのかを伝えて資金を募るのです」

ゼレンスキー大統領が寄付を呼び掛ける(「UNITED24」より)

「ユナイテッド24」のサイトからは、クレジットカードや銀行の送金システムなどを使って簡単に寄付することができる。軍事装備品、医薬品、復興支援の中から自分が何に対して寄付するかを選ぶと、寄付金は全てウクライナの中央銀行に送金されるという。

戦況を大きく変えるドローンの存在

「ドローンは偵察で情報を得るのに有用で、砲撃目標を定めるのに役立ちます。カミカゼのような戦闘機ドローンもあります。質の高い情報を得ることで、兵士の命を守ることができます」

デジタル先進国といわれるウクライナでは、一般家庭にもドローンが広く普及しているようだ。

「多くの世帯がドローンを持っていて、それを使用できることが分かりました。ウクライナは現代的なデジタル先進国家です。ドローンは戦争を行うための新たな手段であり、世界もこのことに驚いたと思います」

ウクライナ政府は前線に十分なドローンを供給するためには、1万機が必要だとしていて、世界各国に中古ドローンなどの提供を求めている。さらにこうして集めたドローンを兵士が操縦できるよう、民間の学校に依頼して訓練を行っている。

「ドローンを操縦できる兵士は数千人必要です。常に前線で待機していることが求められます。今後数カ月の目標として2000人を対象に訓練を行います」

身を隠しながらドローンを操縦する訓練が行われる

注目すべきは、民間学校で兵士が受けている訓練が、軍用ドローンではなく民間の商用ドローンを使って行われている点だ。商用ドローンは操作が簡単で、訓練に要する時間が短く、すぐに実戦配備できるのが利点だ。「ドローン兵士」はいま、即戦力として早急に求められている。

日本のテクノロジーに期待 「デジタル戦争」で求められる役割

「日本政府が正義や民主主義の側に立ちウクライナを支援して下さったことに感謝します。もちろんその根底には国民の皆さまの支えがあると思っています」

日本のデジタル庁や、担当大臣とも数回話したというフェドロフ氏。テクノロジーの側面から日本の協力を期待する。

「ご覧のように、戦争においてはテクノロジーが大きな鍵を握ります。ドローンの部品の供給など、技術移転の市場でこれまで以上に協力関係を築きたいと考えています。日本はデジタル国家であり、その技術が私たちには重要で、関係を強化する必要があります」

31歳の若さ、自身に求められていることは何かを尋ねた。

「私はこのような革新的な分野で大臣を任され、新たなテクノロジーの視点が求められていると思います。ただ、私より年配の人でも技術的に優れた人もいるので、年齢はあまり重要な要素ではないですよ」

「新たなテクノロジーの視点が求められています」

多忙を極めるフェドロフ氏。この日の取材も当日になって急きょ、予定が3時間早まった。それでも45分にわたるインタビューが終わると「一緒に写真を撮らないか」と声を掛けてきた。写真撮影中、三脚に固定したビデオカメラがバランスを失い倒れそうになると、いち早く手を伸ばしてカメラを支えた。気さくな人柄と若さが随所に表れる。

ロシアによる軍事侵攻で厳しい戦いが続く中、フェドロフ氏には、デジタルを駆使した新たな戦略で、市民生活と軍事の面から国家を防衛するというとてつもなく大きな役割が求められていることがよく分かる取材となった。

【執筆:FNNパリ支局長 山岸直人】

記事 9 山岸直人

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FNNパリ支局長。1994年フジテレビ入社。社会部記者、ベルリン特派員、プライムニュースイブニング、Live News αを経て現職に。ドイツのパンをこよなく愛するが、最近はフランスパン贔屓。