まだまだ熱中症のリスクが高い、暑い日が続くことだろう。特に屋外で長時間働く人は気を付けなければならない。こうした中、熱中症を予防するためのウェアラブル端末を活用した体調管理のための技術やサービスの開発が進んでいる。

そのひとつが、Biodata Bankが開発・製造する「熱中対策ウォッチ カナリア」だ。Biodata Bankが独自開発した深部体温(※体の中の脳や臓器、血液などの体内温度の総称)を推定する技術を用いて、熱中症を未然に検知するリストバンド型のウェアラブルデバイスだ。

熱中対策ウォッチ カナリア(画像提供:Biodata Bank)
熱中対策ウォッチ カナリア(画像提供:Biodata Bank)
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そもそも熱中症は、深部体温の上昇が起点となって体内の水分や塩分のバランスが崩れ様々な症状を引き起こすという。「熱中対策ウォッチ カナリア」は、電源を入れて手首に巻いて利用するもので、通常時はLEDが緑色に点滅しているのだが、熱中症の要因となる深部体温の上昇や変化を検知するとアラームとLEDが赤色に表示される。これにより、水分補給や休憩の目安を把握することができるというわけだ。

値段は4950円(税込)で、電源を一度入れるとワンシーズン(3~4カ月)、充電や操作の必要なく使うことができる使い切りタイプの製品。今年で販売3年目となるが、累計販売台数は40万台を超えているという。

熱中対策ウォッチ カナリア 通常時は緑色に点滅(画像提供:Biodata Bank)
熱中対策ウォッチ カナリア 通常時は緑色に点滅(画像提供:Biodata Bank)

一方で、ヘッドセット型のウェアラブルデバイス「あんしんコミュニケーター」を開発したのは、京セラだ。

あんしんコミュニケーター(画像提供:京セラ)
あんしんコミュニケーター(画像提供:京セラ)

「あんしんコミュニケーター」は耳をふさがない形で装着し、左右についている骨伝導のマイクとスピーカーにより、騒音の中でもコミュニケーションを取ることができる。

また、クリップ型のセンサーを耳たぶに装着することで、心拍数、血中酸素飽和濃度、脈波、自律神経状態などのバイタルデータを測定。耳元に直接あたるセンサーにより表面体温や外気温も測定する。これらの測定した様々なデータは、スマホのアプリでリアルタイムに確認したり、さらに遠隔にいる管理者がその情報をもとにデバイス装着者の健康状態を把握することもできる。

あんしんコミュニケーター 装着した様子(画像提供:京セラ)
あんしんコミュニケーター 装着した様子(画像提供:京セラ)

このデバイスは元々、高山病対策として開発され、現在は、建設現場をはじめ、医療現場、介護現場などでトライアルで使われている。京セラでは熱中症にも有用だと考え、今後は熱中症の用途でも実証実験を実施していきたいと考えている。

アラームは熱中症になる“二歩手前”で鳴る

こうしたデバイスも活用して熱中症から身を守ることが重要だろうが、実際、効果はどれほどのものなのか? まずは、Biodata Bankの担当者に詳しく話を聞いてみた。


――なぜこのデバイスを開発した?

これまでは熱中症対策は、塩飴を舐める、ドリンクを飲む、休憩時間を長くする、注意喚起を行う、ファン付きの洋服を着るなどがメインとなっており、根本的に熱中症対策をする製品が存在しなかったためです。熱中症は体内の温度となる、深部体温が上昇すると発症します。深部体温の上昇を検知し、アラームでお知らせすることで、根本的な熱中症対策になると考えました。


――なぜ使い切りタイプ?

理由は2点ございます。

〈1〉利用時に確実に製品が使えるようにするため
充電式の製品の場合、数日から1週間ほどで充電が必要なデバイスが多くなります。もし忘れてしまった場合、一番知らせてほしいタイミングでアラートが鳴らない可能性がございます。人為的なミスで事故が起きてしまわないよう、あえて、入電するだけのシンプルな仕様にしており、一度入電したら電源OFFにできない仕様にしております。(充電切れはLEDの状態で確認できます)

〈2〉保管や管理のコストを下げるため
夏場にリスクが増え、他の季節ではリスクが減るので、主に夏場をメインにご利用いただく製品となります。秋から春にかけて保管してまた次の夏にご利用いただくとなると、保管や管理コストがかかってまいります。

また、夏場にご利用いただくと、汗や屋外の活動に伴う汚れが発生します。着用はじめの夏の間は洗っていただいたり、アルコールで消毒いただくこともできますが、翌年も利用したいというユーザ様が限られたので、使い切りといたしました。現在、フランスを中心にヨーロッパでも展開を進めており、環境問題については先進的な取り組みを求められております。今年から利用後のリサイクルやリユースの取り組みを進めております。


――体調の異変を検知した後は、どうしたらいい?

水分補給や涼しい場所で休憩をしてください。アラームは熱中症になる“二歩手前”で鳴りますので、状況により変化しますが10分〜15分ほど休んでいただければ、現場や作業に戻ることが可能です。(LEDが赤から緑に戻ります)

実際、現場で熱中症罹患者をゼロにした例も

――実際、導入した企業で熱中症で倒れる人は減った?

はい。一例ですが、とある製鉄メーカー様は熱中症対策に力を入れており、これまで中等以上の熱中症罹患者はおられませんでしたがそれでも年に数名、軽度の熱中症になる方がいらっしゃいました。熱中対策ウォッチ カナリアをご導入いただいてからは、軽度の熱中症も未然に防ぐことができ、熱中症罹患者をゼロにすることができたと、お喜びの声をいただいております。アラームが鳴らなかった方からも「装着により安心感がある」「水分補給や休憩を意識するようになった」などご好評いただいております。

また、昨年カナリアを装着しているメンバーと装着していないメンバーが現場に混在しているケースで、装着していないメンバーから熱中症が発症した事例もございました。


――今後、進化する予定は?

お客様からの声を参考に改善を進めていこうと考えております。

※イメージ
※イメージ

きっかけは高山病患者をなくすため

では「あんしんコミュニケーター」はどうなのだろうか? 開発中の京セラの担当者にも、開発の経緯や現状について聞いてみた。

――なぜこのデバイスを開発した?

ホンダレーシングチームから「標高3000m以上の高地で開催されるダカールラリーで、毎年発生する高山病患者を無くしたい」という強いご要望、ご相談を受けたのをきっかけに、2017年に開発に着手しました。バイクの運転中や整備中でも、ヘッドセット型のウェアラブルデバイスをつけているだけで、簡易にバイタルデータを測れ、さらに通話もできるというデバイスを目指しました。


――建設現場から開発の要望はあった?

はい、清水建設さまからご要望をいただき共同で開発をしております。デバイスの開発は京セラですが、実証実験を通して現場のニーズなどを伺いながら開発を進めています。


――体調の異変を検知した後は、どうしたらいい?

管理者に、測定したバイタルデータがリアルタイムで送信される仕組みになっています。遠隔にいてもデバイス装着者の体調に異変があればすぐに確認でき、医師を派遣する、場合によっては救急車を呼ぶなど、迅速な対応が可能です。

熱中症の用途でも実証実験を実施していきたい

――現在、どのような現場で使われている?

建設現場、医療現場(遠隔診療、心臓リハビリテーション)、地下ピット(低酸素空間)、鉄塔作業、介護現場などでトライアル導入いただいています。まだ研究開発中の機器なので、トライアル・実証実験を重ねている段階です。今後は、熱中症の用途でも実証実験を実施していきたいと考えています。


――熱中症対策以外のプラス面は?

高山病対策やコロナ患者への遠隔リハビリ、遠隔診療、閉所作業などでの酸素欠乏症予防など。また、バイタルデータ計測と合わせ、骨伝導のスピーカーとマイクにより95デシベル以上の騒音の中でも通話が可能なため、建設現場でのコミュニケーションツールとしてなど、様々な用途でご利用いただきたいと考えています。


――今後の予定は?

今後さらに、様々な機関との実証実験を行い、実績を重ねていくことで、対応できる診療や、予防できる疾患を増やしていきたいと考えています。

そのためにも、小型軽量化を進めていくことはもちろん、バイタルデータの計測のみ、またはコミュニケーションツールのみでの使用にも対応し幅広いユーザーに柔軟に展開できるよう、デバイス開発を進めてまいります。



自分が熱中症になったかどうかは、なかなか気づけないことだろう。京セラは開発中ということだが、暑い夏のシーズンに、熱中症対策としてこのようなウェアラブルデバイスを活用するのも選択肢としてありかもしれない。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。