実習で栽培しているリンゴの食害に悩む、秋田県の農業高校の生徒たち。彼らは「廃棄物」となっていた地域の資源を活用し、カラスを山へ追い払うプロジェクトを進めている。
生徒の観察では効果が確認されていて、全国から注目を集めている。

大事なリンゴが食い荒らされ… 「防鳥ネット」では防ぎきれず

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リンゴの木を手入れする高校生たち。自信に満ち溢れた表情で整列する彼らは、秋田県大仙市にある大曲農業高校 果樹部、略して“大農果樹部”の「ビーブルー」だ。

青春を農業に捧げている彼ら。3年生が2021年度から続けている研究に、全国から注目が集まっているという。

山野大樹さん:
食害からリンゴを守るための研究を行いました

2021年7月、学校の敷地にある林がカラスのねぐらとなり、実習園地のリンゴが狙われた。

片野芹菜さん:
赤く実ったばかりのリンゴを、くちばしでつついたりして帰っていきます。半分も守れない時もあった

対策として、カラスの飛来を防ぐ「防鳥ネット」があるが、高い所にネットを張る作業は危険が伴う上、すべてを守り切れない。

生徒:
(ネットにカラスが開けた穴が)2つあるんで、こっちからよく入られて荒らされています

秋田県によると、2020年度は、野生鳥獣による農作物被害は3,000万円余り。このうちカラスによる被害は、全体の2割以上となる640万円余りに上る。

生徒たちは、カラスを山へ追い払う方法を模索し始めた。

農家の方法参考に…廃棄物「湯の花」活用しキット開発 高い効果

片野芹菜さん:
2021年の夏にインターンシップに参加した際に、そこの農家さんが硫黄石を砕いて袋に詰めてつるしているのを見た。硫黄は確かに臭いなと思い、カラスにも効くのでは…と試してみた

生徒たちが着目したのが、硫黄温泉特有の硫化水素の臭い。

仙北市の玉川温泉で廃棄物にもなっている「湯の花」をネットに入れ、半分に切ったペットボトルをかぶせた「湯の花キット」を製作し、リンゴの木につり下げた。

山野大樹さん:
カラスによる食害の減少。ほぼ無くなったと言っても過言ではない

園地を「防鳥ネット区」「湯の花キット区」に分けて、1カ月間観察した。「防鳥ネット区」では100果中43果で食害が発生しなかったが、「湯の花キット区」では100果すべてを食害から守ることができた。

効果に自信を持った生徒たちは、さらに使いやすく低コストなキット、その名も「KYK = カラスは山へきっと」を開発した。牛乳パックをリサイクルして湯の花を混ぜ入れたシートで、「湯の花キット」と同様の高い効果が得られたという。

KYKを作る様子
KYKを作る様子

藤川佑志さん:
リンゴ5個に1パックで、ちょうどカラスが寄ってこない。不安もあったが、ちゃんとした成果が出てとてもうれしかった

片野芹菜さん:
湯の花は、川に流すことができず廃棄物になっていることを知りました

こうした研究結果を、全国92の高校が出場したエコ活動のコンテスト「イオン エコワングランプリ」(主催:イオンワンパーセントクラブ)で発表し、「普及啓発部門」の最高賞「内閣総理大臣賞」と「ベストプレゼンテーション賞」に輝いた。

片野芹菜さん:
SDGs産業と技術革新基盤づくりによるアップサイクルをテーマにしたことで、地産地消による製品を生み出し、廃棄品を宝物にすることができました

新たなカラスの食害対策を研究

現在は、紫外線を通さない農業用ハウスの廃フィルムでリンゴを覆うという、新たなアイデアの実験・検証も行っている。「紫外線が見えるとされるカラスには、フィルムの中が真っ黒に見えるのでは」という仮説を立てたのだ。

高校では、野生生物と人間が共生する「ゾーニング」の実現に向け、一丸となって取り組むことにしている。

今後、生徒たちは、カラスは嗅覚が鈍いという他の研究も参考に、「硫化水素の臭いが本当に効果的だったのか」など、専門家の意見も参考に研究を続ける。

地域の実情を見つめる高校生のアイデアが、農業の課題解決の一助となるかもしれない。

(秋田テレビ)

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