長岡空襲から2022年8月1日で77年。悲惨な経験を伝える語り部の高齢化が進む中、記憶の伝承へ紙芝居を使った取り組みが進められている。新たに紙芝居の演じ手となった女性の思いに迫った。

長岡空襲から77年 “戦争の記憶”を伝える紙芝居

太平洋戦争末期の1945年8月1日夜、アメリカ軍のB29が新潟・長岡市を爆撃。大量の焼夷弾などで街の8割が焼け野原となり、1488人もの尊い命が失われた。

1945年8月1日 長岡空襲
1945年8月1日 長岡空襲
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記者リポート:
長岡市の柿川です。今は穏やかに流れていますが、空襲ではここで多くの人が命を落しました。そして、この悲しい記憶をテーマにした紙芝居が注目されています

柿川(新潟・長岡市)
柿川(新潟・長岡市)

長岡市に住む田口孝(たか)さん(64)。養護教諭を定年退職し、現在は長岡戦災資料館のボランティアとして活動している。

田口孝さん
田口孝さん

田口さんが取り組むのは、長岡空襲の記憶を伝える紙芝居。

長岡空襲を伝える紙芝居「みちこのいのち」
長岡空襲を伝える紙芝居「みちこのいのち」

田口孝さん:
3年前、市政だよりで長岡空襲の紙芝居の講座があるというのを知り、自分にぴったりだなと思った

長岡空襲を生き延びた祖母や飛行搭乗員を養成する予科練から戻った父に、空襲の悲惨さを何度も聞かされ育った田口さん。「子どもたちに平和の大切さを伝えたい」と講座に応募し、今は自宅で日々、紙芝居の稽古に励んでいる。

田口孝さん:
この紙芝居で「人形のようになったみちこをトタンにのせて焼きました。ごめんよ、母ちゃんは守ってやることができなかった」という場面が本当に切ない。涙がいつも出てくる

紙芝居「みちこのいのち」の中で田口さんが切なく思う場面
紙芝居「みちこのいのち」の中で田口さんが切なく思う場面

進む語り部の高齢化…紙芝居に託す後世への伝承

田口さんが演じるのは、長岡市が2018年に制作した紙芝居。ここに描かれているのは、長岡空襲で1歳半の長女を亡くした七里アイさんの実体験だ。

長岡空襲の語り部 七里アイさん:
川の中に入ったとき、娘は異常なB29の数に興奮して背中で「ぶう、ぶう」と言っていたけど、ハッと気が付いたら声がしなかった

長岡空襲の語り部を務めた七里アイさん
長岡空襲の語り部を務めた七里アイさん

焼夷弾に追われて逃げ込んだ柿川で娘を失った七里さん。2012年に87歳で亡くなるまで、戦争の悲惨さを後世に伝えようと語り部として活動を続けていた。

しかし、自身の体験を伝えられる語り部は年を重ねるごとに減っている。

長岡空襲の語り部 谷芳夫さん:
年齢的には私たちが空襲を体験した最後になる。少しでも、どんなことがあって今日につながったのかということを分かってもらえるならば、できる限り話し続けなくてはいけないと考えている

長岡空襲の語り部 谷芳夫さん
長岡空襲の語り部 谷芳夫さん

空襲で母親を亡くした谷芳夫さん(85)を含め、長岡戦災資料館が派遣できる語り部は現在9人。その記憶をいかに後世につないでいくかが大きな課題となっていた。

長岡戦災資料館 貝沼一義 館長:
語り部の高齢化が進んだ中で、それに代わる伝承のツールとして長岡市は長岡空襲の紙芝居「みちこのいのち」を作成した

児童「戦争の悲劇を実感できた」 紙芝居によって届いた先人の思い

3年前に開かれた紙芝居の演者養成講座だが、その後、コロナ禍で上演の機会はなく、田口さんが初めて小学校で紙芝居を披露したのは2021年8月のこと。

演者養成講座を受けるもコロナ禍で上演の機会がなかった田口さん
演者養成講座を受けるもコロナ禍で上演の機会がなかった田口さん

そして、2022年7月5日からは2年目の活動をスタートさせている。

紙芝居「みちこのいのち」:
ザザザザザザ…バラバラバラバラ…トタン板に砂利をひっくり返したようなものすごい音がしました

紙芝居「みちこのいのち」
紙芝居「みちこのいのち」

B29が焼夷弾などを投下。火の海から逃れようと柿川に飛び込んだ母と娘

紙芝居「みちこのいのち」:
やっと、みちこを手前に抱いたのですが、顔も体もひどいやけどでした。私は服をビッと引き裂いてお乳を飲ませようとしました。みちこはお乳に吸いついてくれました。しかし、すぐに放してしまいました。みちこ、死なないで。みちこ、何も悪いことしていないのに。死なないで

一般の市民、女性や子どもも巻き込む戦争の悲惨さを、紙芝居を通して訴えた。

紙芝居を見た児童:
紙芝居というのは、一つ一つのコマに相当な思いが込められているので、戦争の悲劇さを実感できた。このことを後世に伝えていきたい

紙芝居を見た児童:
戦争は多くの人の命をなくしてしまうものなので、そういうことが二度と起きないように自分たちでできることは協力していきたい

田口孝さん:
七里さんはつらい体験を思い出すのも嫌だったと思うけど、それを私たちに語ってくれたという、その七里さんの思いを胸に紙芝居をやっていきたい

長岡空襲から77年。平和を願う先人たちの思いを受け継ぐための活動が続く。

(NST新潟総合テレビ)

NST新潟総合テレビ
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